イギリスの家に行くと、妖精達がお兄さんを招待してくれた。聞けば、イギリスはまだ眠っているとか。結構規則正しい生活をしているイギリスにしては珍しいと思いつつ、イギリスの部屋へ向かう。
扉を開けると、そこには髪をとかしただけのイギリスがいた。やはり顔色が悪いと思いつつ、イギリスを見ていると、一つの違和感を見つけた。
手首より少し上辺り。きちっと服を着れば隠れる辺りに包帯を巻いてあったのだ。しかも、その包帯には赤い血が滲んでる。
「これ、何なんだよ!」
思わず腕を掴んで言うと、イギリスは小さく「よく覚えていない」と言った。
覚えてないはずがないだろと怒鳴ったけど、イギリスは何も言わなかった。
「…………お前、何のようなんだよ」
弱々しい声で尋ねるイギリスは本当に壊れそうだった。壊れないでくれよ。そう懇願したくなる。
「最近、お前の様子がおかしいから」
本当に心配してるんだ。確かに、国としては弱った姿を他国に見られるのは抵抗があるだろうけど、長い付き合いなんだから少しくらいはいいじゃないかというオレは思っている。
だって、愛しいんだもの。
「別に、なんでもないっつってんだろ」
嘘。それは絶対に嘘だ。
何でもない奴は腕を切ったりしない。こんなやつれた顔もしない。
「なあ。別に弱みに付け込もうってわけじゃないんだ。本当に心配なんだ」
少しでもオレの誠意が伝われば、何か話してくれるんじゃないかって思って、オレは必死に伝える。
『フランス。あのね……』
「言うなっ!」
妖精達が何か言おうとしてくれたんだけど、イギリスがそれを遮った。何か、イギリスにとって不利益なことだったのかもしれない。でも、きっとイギリスがこうなってしまった原因なんだろう。
だって、いつも妖精達はイギリスのことを考えて行動してくれる。
「イギリス?!」
叫ぶと同時に涙が出始めたイギリスを見て、オレは焦った。
『イギリス。ゴメン。ゴメンね。泣かないで』
妖精達も焦ったように謝る。
イギリスが泣いていて、妖精達も泣いている。イギリスが泣いてるから、妖精達も泣いている。なあ。何で泣いてるんだ? お願いだから教えてくれよ。
もう嫌なんだ。お前が壊れていくのを見るのは。
「オレ、黙ってるから。
お前が泣いたことも、お前がどんな悩みを持ってるのかも。だからさ、もう抱え込まないで」
本当だよ。嘘だったらドーバーに沈んでもいい。少しでもいいから、お前の持ってる重荷を背負わせてくれないか。
「……馬鹿」
イギリスが言った。
気づかぬうちに、オレも泣いてたらしい。みっともないけど、別にいいよ。イギリスには見せてあげる。
「オレ、イギリスのことが好きだよ」
今なら言える気がした。
こんな状況でいうのは卑怯かもしれないけど、今しか言えない気もしていた。
「嫌かもしれないけどさ。オレ、イギリスのことがずっと好きだったんだ。
だからさ、イギリスがこんな風になっていくの、見てられないよ……」
オレの精一杯の気持ちをぶつけた。これでダメだったとしてもいい。それでも、この状態のイギリスは救う。絶対に。
「……夢だ」
「イギリス?」
小さな言葉をオレは聞き逃さなかった。
「フランスが、オレのこと……好きだなんて……」
泣きながら言うイギリスはとても愛おしかった。
ああ。これは、オレの勘違いでなければ……。
『ね、言ったでしょ? 何かの間違いだって』
『イギリスは、ずっと、ずっとフランスのことが好きだったのよ!』
ですよね。
そうですよね。そうであってください。
「本当? ねえ、嘘じゃない?」
思わずそう聞いた。
「嘘、じゃねーよ……」
ああ! 神様。神様ありがとうございます。
生きていてよかった。今日、この日を迎えるためだけにオレは生きてきたんだ! そう思った。次の、イギリスの言葉を聞くまでは。
「……お前、オレのこと死んで欲しいほど嫌いなんじゃないのかよ?」
オレにはその言葉に心当たりがあった。
「イギ……。聞いてたのか……?」
あの時、スペインと話していた。あの言葉をイギリスは聞いていたのか。
「違うんだ!
あれは……。いつまでもお前に本当のことを言えない自虐的な台詞だったんだ!」
日本には言霊ってのがあるって聞いたな。恨むぜスペイン。お前があの時、罰が当たるとか言うから……!
必死に言うオレの目の前でイギリスの体が倒れこんできた。
「おい……。イギリス? イギリス!!」
肩を揺らしても起きない。オレは不安になった。このまま、イギリスは目覚めないんじゃないか。
『ずっと無理をしてたから……』
『お酒と薬で眠る毎日だったから』
『ゆっくり寝かせてあげて』
妖精達が口々に言う。
よほど無理な生活をしていたらしい。
オレはイギリスをベットに横たわらせ、部屋をでた。向かう先は食料品店。目を覚ましたイギリスには幸せいっぱいのご飯と時間を味あわせてあげる必要があるみたいだからね。
END