Twitterで呟いたネタを少し割り増ししたモノを乗せていきます。
上に行くほど書いたのが新しく、下に行くほど古いです。





12/09/28 うしとら+妖逆門/とら不在で法力僧になった大人うしお+目には見えないものの近くに不壊がいる四年後三志郎。

 あれから十数年が経った。
 世界はめまぐるしく変化を続け、うしおは法力僧となった。両親譲りの法力が開花し、獣の槍を持っていたおかげで上昇した身体能力があるおかげで、法力僧の中でも一、二を争う実力者となっている。しかし、彼の隣は未だに空いたままだ。
 獣の槍の代わりの錫杖をしゃらりと鳴らす。
 妖と心を通わせあったこともあるうしおだが、人間にあだなす妖怪を放ってはおけない。言葉での説得を試みることも多いが、やはり最終手段としては滅してしまうか封印してしまうかの選択を迫られる。
 そんなとき、うしおはいつも十郎やサトリのことを思い出す。白面の使いのような、純然たる悪でしかない妖は少ない。
 人間のせいで生きる場所を奪われてしまった妖は多い。
 耳に残る声が叱咤する。妖のために傷ついてやることは簡単だ。しかし、それは何の解決にもならない。
 うしおは生きることを諦めるわけにはいかない。もう一度、あの金色の獣に会うまでは。
 錫杖を握り締め、またしゃらりと鳴らす。
 季節は夏。じりじりとした暑さは、法衣に身を包んだうしおには厳しい。思えば、あの時は北へ向かっていたのでそれほどの暑さは感じなかった。
 また遠野へ遊びに行きたい。少しだけ目を伏せ、イズナやカマイタチの兄妹を思い浮かべる。いつまでも長や仲間の帰りを待つ彼らと、うしおは思いを共有している。
 しゃらり。しゃらり。
 道を歩く。
 うしおの正面から、一人の少年が駆けてきた。
 元気を体全体で示したような少年は、瞳を輝かせている。肩に担がれた旅袋を見ると、またあの年の夏を思い出した。彼も何処かへ旅をするのだろうか。
 少年とうしおがすれ違う。
 二人の間に涼しい風が通った。
 しゃらり。錫杖が音をたて、うしおは振り返る。少年はうしおのことなど気にも止めず走っていた。
「……妖」
 うしおはポツリと零す。
 気配に敏感になったうしおには感じることができた。
 走る少年の周りにある気配。それは、黒く深い。しかし、少年を傷つけるような気配ではない。まるで、慈しむように。全ての事象から守るように。そんな暖かな気配だ。
 確かな姿を作りだすことはできていないようだが、少年は守られている。目に見えぬとしても、彼の傍には妖がいるのだ。
 知らぬうちに、うしおの眉間には悲しげなしわが刻まれていた。
「いいなぁ」
 見えないとしても、傍にいてくれる。
 きっと感じることができれば触れたいと願ってしまうのだろう。そして目にしたいと願うのだろう。際限のない欲望に気づいてはいるが、それでもうしおは思わずにはいられない。
 せめて、気配だけでも感じることができたのならば。
 どれだけ幸せなのだろうか。



12/09/01 GHS/死電 「月が、綺麗ですね」「お前、普段は外に出れねぇもんな」(駄目だコイツわかってない!)「I Love Youくらいストレートに言えば?」「え?」 わかっててはぐらかす電話。

 風のない夜、干からびた死体は久々に外の世界へ出ていた。
 いつも通り、変わり映えのしない夜の闇を眺めながらワインを飲む。隣にいるパブリックフォンだけが、いつも通りではない。
「いい夜だな」
「キミはワインがあればご機嫌だね」
「ああ。酒はいい」
 またワインが一杯飲み干される。
 差し出されたワイングラスに干からびた死体が赤い液体をついでやる。深い色をしたワインはパブリックフォンとはまた違った赤さを持っている。
 干からびた死体も己のワイングラスに入っているワインを一気に飲み干す。
 空を見上げれば、大きな月が姿を見せている。美しいというには、どこか不気味な色を放っている。それでも、この世界を照らす貴重な光であり、美しくないなど言えるものではない。
「月が、綺麗ですね」
 干からびた死体の瞳が月からパブリックフォンへ移される。
 どこか期待に満ちている色に彼は気づくだろうか。
 遠い昔、いつかの時代、どこかで見たことが、聞いたことがある言葉だ。この言葉の真意に気づいて欲しい。そんな欲望に快楽主義者は気づくだろうか。
「お前、普段は外に出られねぇもんな」
 パブリックフォンがヘラりと笑う。
 その笑顔は愛おしく思えるが、干からびた死体は肩を落とさずにはいられない。
 外に出る機会が少ないことは事実だが、この世界に堕ちてからどれだけの月日が経っているのか数えることもできない。変わり映えのしない月など、褒めるに値しない珍しさだ。
 言いたいことは、月の美しさなどではない。
「……うん」
 落ち込んだ声を出した干からびた死体は、ワインをつぐ。
 こうなったら自棄酒しかない。そう思った。
「なあ死体」
 俯いていた干からびた死体の顔をパブリックフォンが覗きこむ。その顔には実にいやらしい笑みが張り付いている。
「I Love You くらい、ストレート言えよ」
「え?」
 パブリックフォンが顔を上げて爆笑する。
 まさに抱腹絶倒。
「バーカ」
 笑っているパブリックフォンに、干からびた死体はその体に血が流れていれば顔を真っ赤にしていただろう。それほど恥ずかしく、また怒ってもいた。
「知ってるなら、それらしい反応をしろよ!」


12/08/18 GHS/口に突っ込むことを要求したら。はあ?何様のつもりだよ。ってキレるのか電話。戸惑いながらもしたがうのが審判。

【タクフォン】
 タクシーは一本のアイスを手にしていた。
 青色の棒アイスは円筒型をしている。
「やるよ」
 それをパブリックフォンへ向ける。
「は?」
 彼は怪訝そうに返した。
 春夏秋冬などないこの世界では、熱さも寒さも感じない。どちらかと言えば、霧の冷たさの方が強いくらいだ。そんな場所で、アイスを出されても嬉しくも何ともない。
「喰えよ」
 有無を言わせぬ強さでアイスが口に押し付けられる。
 口を閉じていられなかったパブリックフォンの口に青いアイスが入りこんだ。冷たい感触が舌と歯を刺激する。舌の上で溶けていくアイスの味はソーダーだ。特におかしなものが入っている様子はない。
「噛むなよ?」
 タクシーがいい笑みを見せる。
「……お前、何様のつもりだよ」
 彼が何をさせたいのかわかってしまった。
 パブリックフォンは不愉快そうに顔をしかめる。
「何だよ。アイスをやっただけだろ?」
 そう言いつつも、タクシーはアイスの棒から手を離さない。
 軽くアイスを引き、再び押し込む。冷たいアイスが口内を蹂躙する。
「んっ。ひゃめろって」
 一瞬、喉の奥まで疲れ、声が上がる。
 タクシーに加虐趣味があるのか構わないが、パブリックフォンに被虐趣味はない。好き勝手にされることは彼の性質にもあわない。
 パブリックフォンは口を少し大きく開けた。そして、勢いよく閉じる。
「おっ」
 アイスが砕け、彼の歯が棒の部分に当たった。同時に、タクシーが残ったアイスと棒を引き抜く。
「どうだ。見たか……って」
 タクシーは相変わらず口角を上げている。パブリックフォンはすぐにその理由がわかり、得意気な顔を引っ込めた。
「てめぇ。何だよ、これ」
 口の中に入っていたアイスと白濁の液体を吐き出す。
「練乳」
「だろうな! 甘ぇ!」
 ソーダーアイスの中には練乳が仕込まれていたらしく、口の中から引きぬかれたときにパブリックフォンの服に白濁色の液体が付着していた。口の中にも白い液体が残っている。
「エロいだろ?」
「オレは自分がしたいときだけするんだよ!」

【シェフ審】
 審判小僧は困惑していた。
 唐突に呼び出されたかと思うと、次は目の前にスプーンを突きつけられた。いや、スプーンならばまだよかった。突きつけられたモノは、スプーンの上に乗っている不可解な色をしている固形物だ。
「シェ、シェフ……?」
「喰え」
 そうなることはわかっていた。何せシェフだ。スプーンの上に乗せているモノは彼が作った、トンデモ料理なのだろう。無論、それを食すことによって死ぬことはない。痺れたり泡を吹いたりすることはあるかもしれないが。
 しかし、シェフがそれらのモノを住人に出すことは少ない。普段は普通の料理を出している。このような料理はゲストが現れたときや、彼の機嫌を損ねたときくらいのものだ。
 己の作った料理で苦しむ姿を見たいと思う一方で、己が作った料理を食べている姿を見るだけでもシェフの欲望は満たされている。
 だからこそ、このように得体のしれないモノを食べさせられることは少ない。そして、要求されたが最後、断ればその先に待っているのは大包丁で真っ二つの未来だ。こんなことは真実の天秤に聞くまでもない。
「う、うん……」
 差し出されているスプーンに顔を近づける。
 モノがものならば、恋人同士か友人同士の戯れによる「あーん」にも見えなくはない。おそらく、シェフの方はその様子を思い浮かべているのか、心なしか頬が赤い。
 目の前のモノに集中している審判小僧がそのことに気づかなかったのは、しかたのないことだ。
 意を決して審判小僧がスプーンを咥える。
 モノが口内に入ったことを見届けたシェフは、黙ってスプーンを抜き取る。
 審判小僧の唾液が一瞬だけ彼の口とスプーンを繋いだ。
「どうだ」
「ん……」
 口の中に入ったモノを咀嚼する。
 歪な刺激は感じない。嘔吐感が込み上げてくるような味もしない。
 無味だった。
「味が、しない……」
 何も感じない。確かに口の中に何かが入っているはずなのに、そこに何かがある感覚が全くない。
「そうか。ならいい」
「シェフ?」
 首を傾げてみれば、シェフは口角を上げた。
 相思相愛でなければ毒となる料理を手に、シェフは今宵のメニューを決めた。



12/07/30 GHS/ちゅーして。って相手に言われたら、ヤダよキモイってのかフォン。本当に言ってる?って期待するのが死体。はは、冗談。って笑うのがタクシー。いいよ!ってほっぺにちゅーするのが審判。

【死電】
その1
「あのさ」
「ん?」
 干からびた死体が視線を彷徨わせる。
 彼に血が流れているのであれば、頬は赤く染まっていたかもしれない。
「何だよ」
 干からびた死体の家で、ワインを飲みながらパブリックフォンが尋ねた。ここ数日飲み続けているというのに、彼は酔っ払っている様子を見せない。アレではアルコールを摂取してもつまらないのではないだろうか。
 ワイングラスをテーブルに置いて、干からびた死体に顔を近づける。
 流石に至近距離で嗅いだ彼の息はアルコールの臭いがした。その香りだけで酔えそうだ。
「あのね」
「おう」
 二人が見つめあう。
「ちゅーしてくれない?」
「はぁ?」
 パブリックフォンの顔が盛大にしかめられた。
 眉間にはしわが寄り、口角は下がる。目は下種を見るような色をした。
「お前何様のつもりだ。このオレ様にちゅーしろとか!」
 しかめた面に笑みを被せる。悪魔のような顔だ。唾を吐きかけられたとしても、意外には思わないだろう。
 干からびた死体はこっそりと泣いた。
 大泣きして、必死に縋ってもパブリックフォンはちゅーしてくれないだろうから。

その2
 いつものように、干からびた死体の家でパブリックフォンは酒を飲む。
 外にでることのできない干からびた死体にはわからないが、何か良い事があったのだろう。普段は酩酊している姿など見せないくせに、今日のパブリックフォンは一味違う。
 頬を緩ませ、目は赤くなり少し潤んでいる。さらに細められている瞳は、今にも涙を零しそうな予感さえ見せている。気だるげに開かれている口からは赤い舌が見えていた。
「パブリックフォン。ねぇ。大丈夫?」
「うーん」
 流石に心配した干からびた死体が、彼の肩を揺する。
「へへへへー」
 意味のない笑い声を上げ、パブリックフォンは干からびた死体の首に腕を回す。
「ちょっ?!
 どどど、どうしたの?!」
 干からびた死体は動揺した。
 今まで、ただのお友達としてしか相手をしてくれなかったパブリックフォンは、このようなことをしてくれたことがない。他の男や女にはしていると知っていたが、おそらくは一生、自分はされることがないのだろうと諦めていた行為だ。
「なぁ、死体」
「う、うん?」
 パブリックフォンが笑う。
 片腕が首から解かれ、彼の指が干からびた死体の唇に触れる。
「ちゅー。して」
 干からびた死体は固まった。
 目の前にいるパブリックフォンは目を閉じている。
 これは夢なのだろうか。一生されることはないと、半ば絶望していた行為が、目の前にある。
「ほ、本当に言ってる?」
 思わず聞く。
「はやくしろよ」
 目を閉じたまま、催促の言葉が紡がれた。
 干からびた死体はその幸せを噛み締め、口を近づける。

「ぎゃはははは!
 うっそー! お前にはちゅーさせませーん!」

 笑い声を上げて、玄関から飛び出していったパブリックフォンを眺め、干からびた死体は泣いた。


【タク電】
 パブリックフォンは気分屋だ。
 そして、その気分に忠実だ。
「タクー。ちゅー。ちゅーてぇ」
 タクシーが森を歩いていると、その姿を目ざとく見つけたパブリックフォンがついてきた。
 どれだけ無視してもついてくる。
 二人分の足音が森に響く。
 木の葉が踏み砕かれる。
「冗談だろ?
 誰がお前と」
 あざ笑うように言う。
 「ちゅー」をねだっていても、結局は誰でもいいのだ。たまたま見つけたのがタクシーだったというだけの話。だから、タクシーは無視する。
 そのうち、干からびた死体やプアーコンダクターにでも会えばそちらに行くだろう。
「なぁってばー」
 甘い声を上げる。
「タク」
 パブリックフォンの手がタクシーを捉えた。
 後ろから抱きつかれ、パブリックフォンの指がタクシーの頬を撫でる。
「オレ、お前とちゅーしたいんだけど……」
 熱い吐息がかかる。
「……『オレ』と、したいのか?」
「うん……」
 タクシーはパブリックフォンの腕から抜け出す。
 そして、彼の頬に手を添え、望みを叶えてやった。


【G審判】

 審判小僧が歌を歌いながら廊下を歩くのはいつものことだ。
 しかし、今日はスキップまでついている。
 とある人が、どうしたの? と、尋ねると、今日は親分が帰ってくるんだ! と、笑う。
 その姿にホテルの住人でさえも心を暖かくした。
 ギィーと、ロビーの扉が開く。たてつけの悪いホテルの扉は、どれもこれも軋んだ音をたてるのだ。
「親分!」
 いの一番にと、審判小僧が飛び出す。
「ただいま」
「おかえりなさいッス!」
 ゴールドに抱きつき、審判小僧は嬉しそうに目を細める。彼を抱き締めたゴールドも同様の顔をしていた。そうやっているところを見ると、二人は親子のように見える。
「お願いがあるんだけど」
「何ッスか?」
 体を離し、ゴールドが言う。審判小僧は首を傾げた。
「ちゅー、してくれないかい?」
「いいッスよ!」
 審判小僧がゴールドの首に腕を回し、彼の頬にキスを送った。
「ありがとう」
「どういたしまして!」