天の川小学校でお化け退治をしてから二年、さつき達は中学一年になっていた。さつきの弟の敬一郎も小学三年になっていた。
「何か平和だよな〜」
学校行く道、ハジメが呟いた。
「良いじゃない……別に」
さつきが悲しそうに呟いた。ハジメは自分が禁句を言ったことを悟った。
天邪鬼がいなくなってからというもの、さつきはお化けや天邪鬼を連想させるようなことを言うと決まって元気をなくすのだ。
「お姉ちゃん…」
心配そうな顔をしている敬一郎の頭を、さつきは優しく撫でて笑った。
「大丈夫!平気よ!」
そう言ってまた笑顔で学校への道を歩いた。
さつき達の中学と敬一郎の小学校はすぐそばにあり、小学校の前で敬一郎と別れる時、さつきは必ず旧校舎を見ていた。
天の川中学校一年三組、さつき達は同じクラスでいつものように平凡な会話をしていた。
「おーい!大変だー!」
クラスメイトの修也が叫びながら入ってきた。
「何だ?」
ハジメが修也に何があったのか聞くと、修也は息を荒らしながらしゃべった。
「先生三人と校長が行方不明だって!」
修也の言葉にクラス中が静まり返った。
「話によると、天の川小学校に行った先生達が帰ってこないらしいよ…」
「じゃあ…」
ハジメがいつになく真剣な顔をした。
「今日は休みだ!!!」
ハジメの発言にさつきの蹴りが顔面に入った。
「いって〜。何すんだよさつき!!」
「何言ってんの!先生達が行方不明だっていうのに!」
さつきとハジメが喧嘩をしていると、副担任の先生が入ってきた。
「え〜お前らも知ってる様だが、校長と先生方三名が行方不明だ。警察にも連絡したからお前達は帰りなさい」
そう言って帰っていく副担任を見送った後、生徒達は帰る仕度を始めた。
「さつきさん…小学校…行ってみません?」
レオが小さな声で言った。ハジメも面白そうと言って、多数決で行くことになった。
桃子が出てきてから四人はすぐさま小学校に向かった。
小学校の方でも、同じようなことが起きていたらしく、生徒が集団下校をしていた。
「敬一郎!」
敬一郎を呼び止めると、さつき達は旧校舎に行った人が行方不明だという情報を手に入れて、旧校舎へ向かった。
旧校舎は相変わらず薄暗く、不気味な気配がしていた。
「ねえ…勝手にこんな事して良いのかな?」
さつきが聞くと、レオは当たり前のことを言うように胸をはっていった。
「僕達はここの卒業生と生徒です!旧校舎に入っても文句を言われる筋合いはありません!」
そう言って、我がもの顔で旧校舎の中に入っていくレオを追いかけて、さつき達は旧校舎に入って行った。
旧校舎の中に入ったさつき達はいつもと違う何かを感じていた。
「ねえ…おかしくない?」
さつきが呟くような小さな声で聞くと、
「ええ…何がと言われると困るのですが……」
桃子も不安そうに答えた。
ハジメとレオも何かがおかしいと思いつつ、それが何か分からなかった。
「ねえ…花子さん達、出ないね」
さつき達は敬一郎の言葉で気づいた、いつも出てくる花子さんや、人面犬が居ないのだ。全てのお化けが霊眠した後も花子さん達はなぜか居たのに…なぜか今日に限っていない。
「どうして…?」
さつきが呟くと今度はハジメが言った。
「おい…ここさっき通ったぜ!」
横を見ると、先ほど通った理科室があった。
「ちょと…何よこれ!」
さつきが言うと、レオが小さく呟いた。
「メビウスの輪……」
「メビウスの輪?」
メビウスの輪とは、無限ループを意味する。すなわち、永遠に同じ所を回り続けるということになる。
「待ってよ!それじゃあ私達ここから…」
その先は言えなかった、言ってしまうと本当に出れなくなるように思えたのだ。
「さつきちゃん…もしかして、お化けの仕業では…」
桃子に言われて、さつきは癖でカバンからお化け日記を出そうとしたが……。
「あっ…!家に…置いてきちゃった」
お化けと会うのは二年ぶり、いつまでもお化け日記を持っているはずがなかった。
どうしたらいいのか慌て、悩み、敬一郎にいったては、泣きそうな声を出し始めていた時、後ろで何か硬いものが落ちる音がした。
さつき達が振り返ると、そこにはお化け日記があった。
「相変わらずマヌケだなあ」
上から聞きなれた声がした。どこか人を小馬鹿にしたような口調…。
「「「「天邪鬼(さん)!!」」」」「カーヤ!!」
さつき達の目の前に、蒼と黄色の目を持った黒猫が現れた。この猫こそが、天邪鬼である。
「よぉ、久しぶりだなぁ」
不適に笑う猫は確かに、天邪鬼であった。
「カーヤ!帰って来たんだ!!」
「敬一郎俺はカーヤじゃねぇ、天邪鬼様だ」
駆け寄ってくる敬一郎に言うと、天邪鬼はさつきを見据えた。
「おら、とっととお化け日記読んで霊眠させろ」
「あっ…うん!」
『四月十三日
メビウスが出た。メビウスは自分の縄張りに入った人間を、無限ループに閉じ込め生気を奪っていってしまう。
霊眠方法は、紙でメビウスの輪を作り、ループが繋がっている所で、繋がりは消えたと三回唱えてちぎる。
だけど、メビウスは繋ぐ場所を移動させるから早くしないと永遠にループに閉じ込められるとこだった。』
お化け日記を読んでさつき達はすぐに行動した。二年前、お化けとは戦って時間が空いているが、何度も戦ったことがあるので、みんなの行動は素早かった。
「繋がってる場所ってどこ〜?」
「見た目が不自然になってる所だ注意して見ろ」
繋がっている場所を探すさつきに天邪鬼がアドバイスをした。
「ありがと、天邪鬼」
お礼を言われてばつの悪そうな顔をしていた天邪鬼だが、さつきは気にせず繋がりを探した。
メビウスの輪も出来て、みんなで繋がっている場所に来た。
「用意は良い?つなが………」
呪文を唱えようとしたら、繋がっている場所が移動し始めた。
しかも結構早い。
「ちっ!追いかけるぞ」
天邪鬼を先頭にメビウスを追いかけるが、メビウスは止まらない。
「しかたねぇ!お前ら俺様が少しの間、あいつを止める!その間に…」
「分かった!!」
天邪鬼が言い終える前にさつきが返事をした。
天邪鬼は一瞬目を見開いたが、すぐに不適に笑ってメビウスの前を取った。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
天邪鬼の体が薄い青で覆われた。それに止められるかのようにメビウスが止まった。
「今だ!!」
「「「「「繋がりは消えた。繋がりは消えた。繋がりは消えた!!」」」」」
呪文を言い終わると共に、メビウスの輪をちぎった。
すると、青白い光がメビウスの輪に吸い込まれて消えた。
旧校舎は元に戻り、学校の先生達が姿を見せた。
「あれ?私はこんな所で何を…?」
先生達が旧校舎から出ると、警察の人達が目を丸くしていた。
その隙にさつき達は旧校舎を後にした。
「天邪鬼、あんた何でまたカーヤの中にいるのよ!」
家へ帰る途中でさつきが天邪鬼に聞いた。敬一郎は良いじゃないと言うけれども、さつきは天邪鬼を問い詰めた。
「知るかよ!佳耶子にでも聞きやがれ!」
「ちょっと、何でママが出てくるのよ〜」
不満全開で聞くさつきに、天邪鬼はため息をついて言った。
「いいか、俺様を霊眠から覚まさせ、こんな中入れたのは、佳耶子だ!!」
天邪鬼の言葉にみんな目を見開いた。
「ママが…?」
第二話 佳耶子と夢