メビウスを霊眠させたその日の夜、さつき一家は夢を見た―――。
礼一郎――。
そこは白い所で、誰も居なかった。
「…た……」
不意に、どこからか声がした。礼一郎が声のする方向を見ると、そこには死んだはずの妻がいた。
「ママ……?」
礼一郎が呼びかけると、佳耶子は生前の様に優しく微笑んだ。
「あなた……こんな形でもあえて嬉しいわ、でも…長くはいられないの」
礼一郎は佳耶子の言葉に残念そうな笑みを浮かべ、次の言葉を待った。
「さつき達は今、すごく大変な目にあってるわ、直接力になれなくてもいい…あの子達を支えてあげて…」
佳耶子の言葉に力強く頷いた礼一郎を見て、佳耶子は消えた。
敬一郎――。
白い場所、一人で心細くなって泣きそうな敬一郎に声が聞こえた。
「敬一郎…」
振り向けば懐かしの母が居た。敬一郎は先ほどとは違う意味で泣き出した。
「ママ……ママ…!!!」
泣き出す敬一郎をそっと抱きしめて佳耶子は言った。
「敬一郎…寂しかったね、ごめんね…だけど、ママのお願い聞いてくれる?」
敬一郎は涙をぬぐって「うん」と答えた。
「お姉ちゃんはまたお化けと戦わなくちゃいけないの、お姉ちゃんにはたくさんの友達が居るけど、敬一郎もお姉ちゃんをカーヤと支えてあげてね…」
敬一郎は何度も首を縦に振った。佳耶子は一人の夢枕に立てる時間、ずっと敬一郎を抱きしめていた。
さつき――。
真っ白な場所、どこはどこだろう?と辺りを見回すと、死んだ母がいた。
「ママ!!」
さつきは佳耶子の元へ駆け寄った。
「ママ?どうして…??」
さつき首をかしげていると、佳耶子はさつきに目線を合わせ、真剣な声色で言った。
「さつき…あなたはまた、多くのお化けと戦う事になるわ、そのわけは言えないけど……あなたなら大丈夫………天邪鬼もいるしね」
最後の言葉だけ、抜けた口調だったので一瞬何を言ってるのか分からなかったが、さつきはすぐに正気に戻った。
「!!……何で天邪鬼が出てくんのよ!!」
あまりのことに、怒鳴る形になったさつきを見て、佳耶子は嬉しそうに笑った。
「きっと…お化け日記に書かれていないお化けも出てくるけれど、あなたなら大丈夫……………」
佳耶子はさつきの頬をそっと撫でて消えてしまった。
「良いのか?あんなんで」
霊体の佳耶子に話しかけるのは天邪鬼。
「良いのよ、でもこれでしばらくは降りてこれないから…天邪鬼、さつきの事よろしくネ」
笑いながら言う佳耶子に、あきれた様に天邪鬼がため息をつく。
「……俺様は天邪鬼様だぜ?人間の、しかもお前の子供の味方をすると思うか?」
半分消えかかっている佳耶子に天邪鬼が問いかける、すると佳耶子は当然の様に返事をした。
「あたりまえよ!あの子達は、私に出来なかった霊和が出来たんだから……ある意味一番の曲者の君にね……」
霊和――霊と和解し、共にあること。
それだけを言って、佳耶子は本当に消えた。残された天邪鬼は一人呟いた。
「まぁ、あいつらの事は任せとけって……」
黒い尻尾を揺らしながら天邪鬼は空を見上げた。
第三話 満月