今夜は満月、お化けが現れるには最適の日
 そんな夜、一人のお化けが甦った。
 
 静かな夜にお化けの足音が響く。
「おいさつき、お前今日は外に出るなよ」
 何かの気配を感じた天邪鬼が、そう言って外へ出て行った。
「何なのよ…?」
 天邪鬼の言うことはよく分からないが、今日は外に出る予定もない。天邪鬼が出て行ってしばらくしてから、さつきの耳に声が聞こえた。
「おい…さつき……来いよ」
 
 天邪鬼の声が聞こえた。
 林の中、天邪鬼はいた。
 天邪鬼の前には深く掘られた穴があった。
 何かが這い出た後…天邪鬼が感じた気配はこいつのものだった。
「『死夜』か…まあさつきの家には結界を張ったし、家から出ない限りいくら潜在能力のあるさつきでも、こいつに近づくことはないだろ」
 安心しきっていた天邪鬼は、結界から出ようとしているさつきの気配に気づいた。
「!!さつき!出るな!!!」
 天邪鬼は叫びながら林を出た。
「何?あまのじゃ……」
 さつきは思わず目を見開いた。そこに居たのは黒い猫でなく、恐ろしい姿の男。
 片目がなく、髪の長さも左右バラバラ、どこから流れているのか、血が絶えず流れていたその男は両手に刃物を持ち、さつきの前に立っていた。
「い…いやーーーーー!!
 家へ戻ろうとするさつきの真横を刃物がかすった。さつきの頬に紅い血が流れた。
「墓―俺の―」
 さつきの腕を掴みながら、わけの分からない事を言っている男が、さつきを放り投げた。
「きゃー!!」
 目をつぶったさつきが次に見たものは、あたり一面真っ暗な場所。
「え…?どこ?出してよ!出して!!」
 叫びながらふらふら歩いていると、聞きなれた声がさつきの耳に届く。
「まったく…出るなって言ったのによお」
 姿は見えないが、蒼と金の目が確かに見えた。表情も見えないが、口調からして絶対あきれていた。
「何よ!!仕方ないじゃない!」
 反論するさつきだが、天邪鬼は黙ったまま。
「天邪鬼?」
 さつきに見えるのは、輝く瞳だけなので天邪鬼はよく見えない。
 手探りで天邪鬼を探していると、やわらかい感触がした。
 天邪鬼の足(手?)がさつきの手と重なっているようだ。
「落ち着け、とりあえず霊眠の方法を考えようぜ」
 暗くて見えないが、不敵に笑っているであろう天邪鬼に笑い返してさつきは霊眠の方法を考えた。
「…と言うか、あんた知らないの?」
「ああ、名前ぐらいなら知ってるがな。あいつは『死夜』、殺された奴が満月の力を借りて甦るらしい」
 天邪鬼の解説に、さつきは思いついた。それは頭で考えるのではなく、前々から知っていたことを思い出すかのように。
 さつきは地面を探って石を探した。暗闇の世界だが、下は地面、適度な大きさの石を探した。
「あ…れ……?」
 ふいに、さつきの体から力が抜けた。
「おい!大丈夫か?」
 天邪鬼が近寄るが、さつきは地面に倒れこんでしまった。
「力が…入らない…」
 天邪鬼は小さく舌打ちをした。この世界は死夜の世界、長時間いれば生気を失い、死にいたる。
 力が入らないさつきに代わって、天邪鬼が石を探してやった。
「おい、これでいいか?」
 さつきは天邪鬼が口に咥えて持ってきた石を受け取って、渾身の力を振り絞って立ち上がった。
「あなたのお墓はここです。あなたのお墓はここです。あなたのお墓はここです!」
 さつきが唱え終わると、石に闇が吸い取られていった。
 気づけばさつきと天邪鬼は家の前にいた。
「霊眠したみたいだな」
「うん…あっ…」
 さつきの間の抜けた声に、天邪鬼が首を傾げると、さつきが笑い出した。
「何だよ?」
「ううん、ただね、さっきの世界と違って今日は満月だから…天邪鬼がよく見えると思って…」
 どんどん顔を赤くするさつきを見ながら、天邪鬼はいろんな意味で安堵していた。
 さつきには潜在的な霊力がある、だから死夜などに狙われやすい…さつきが一人でも霊眠させることが出来るようになって安心した。
「ちょっと!聞いてるの?」
「ああ、聞いてるさ、俺様が見えて嬉しいんだろ?」
 不適に微笑む天邪鬼を見て、さつきはさらに顔を真っ赤にして家に入っていってしまった。
「おい!待てよさつき!!」
 慌てて追いかけるが、扉には鍵までかけられ次の日まで天邪鬼は締め出された。


第四話 未来の女