「あなたは明日、事故にあうわ」
少女が言う。
言われた男の子は、先ほどまで少女を虐めていた男の子。女の子を馬鹿にして、その場は収まった。
次の日から少女が虐められることはなくなった。少女が事故に合うと言った男の子が本当に事故にあい、死ぬという形で――。
天の川中学校に季節はずれの転入生がやってきた。
「先見 実来さんだ、みんな仲良くするように」
いつもなら騒がしいクラスが沈黙していた。
実は実来のことは、朝から噂になっていたのだ『呪いの女』と、何度も繰り返される転校はその呪いで多くの生徒を殺したかららしい。
休み時間、さつき達は実来について話していた。
「本当に呪いなんてあんのかー?」
「馬鹿ね、お化けがいるのよ?」
「そうですよ!ハジメそもそも呪いとは…」
解説を始めたレオをほってハジメとさつきは実来を見た。長い黒髪が顔を少し隠していて、少し不気味だが悪い子には見えなかった。
「おい!お前、呪いで男子生徒を殺したんだって?」
クラスの男子が実来に話しかけていた。
「私は未来を予知できるだけ、呪いなんてかけれないわ」
実来の発言にみんな興味津々に耳を傾けていた。
「なら、俺の未来教えてくれよ」
実来はしばらく黙っていたが、頷いて口を開いた。
「あなたは明日――川に落ちるわ、気をつけてね」
その時は、誰もがまさかと思ったが、次の日その思いは真逆になる。
実来に予知された男子が、学校に来る途中、バイクをよけた反動で川に落ちたと連絡が入った。
クラス中が騒然となった。
あるものは呪いだと言い、またあるものは予言者だと言った。
そんな中、昨日と変わらない実来。少しは当たったでしょ?という素振りを見せてもよさそうなものだが……。
その日他のクラスの人も、実来に予言を聞きにきた。良い結果、悪い結果、様々だった。しかし次の日に決まって当たるのだ。
「すごいね実来ちゃん!」
さつきが実来に話しかけると、実来は微かに笑った。
「さつきちゃん、あなた私と同じよね…?」
実来が尋ねるように言う。さつきには実来のような予知能力はない。
「そんな事ないよ?」
さつきが否定すると、実来は少し悲しそうな顔をしてそう……と言った。
「!!!」
突然実来が目を見開いた。身体中ガタガタと振るえ、顔色が悪かった。
「実来ちゃん?!大丈夫?!」
さつきが実来に近づく。
あまりにも辛そうな実来を見て、さつきは保健室に連れて行くことにした。
「さつきちゃん…お願い……助けて…」
保健室へ行く途中、実来が呟いた。
「実来ちゃん?!何をすればいいの?」
「みんな、みんな死んじゃうの…もうすぐ……怖いお化けが来るの……!!」
お化け、その言葉にさつきは驚いた。
みんなが死んでしまうようなお化けの存在。どうして実来はさつきがお化けを何とかできると思ったのか、その全てに驚いたのだ。
「どうしよう……みんなが死ぬなんて、そんな……どんなお化けが…?」
さつきが迷っている間に、その時は来た。
そこには青緑でヘドロの様なお化けがいた。
そのお化けはニヤリと笑うと、近くにいた生徒に飛びついた。
その生徒は、その場に倒れてしまった。
「!!大丈夫?!」
さつきが駆け寄ると、その子は息遣いが荒く病気になったようだ。
「実来ちゃん!待ってて!」
さつきは慌ててお化け日記を取りに教室へ戻った。
『七月二十日
青病がでた。
青病は触れた人を不治の病にしてしまう。治すには青病を霊眠させるしかなかった。
霊眠方法は、アルコールをかけて治りましたと唱える。』
「アルコール……ハジメ!レオ君!手伝って!!」
さつきはハジメ達に、保健室から消毒液を取ってくるように頼んだ。
「実来ちゃん!!」
さつきは実来のもとへ戻り、教室へ連れて行った。
青病が来ないように気を配っていると、窓から何かが入ってきた。
「なっ!何?!」
さつきが見ると、そこには黒い猫……天邪鬼がいた。
「また厄介なのに狙われたな……ん?」
天邪鬼が実来を見て顔をしかめた。
「どうしたの?天邪鬼?あっ!実来ちゃん驚かないでこいつは…」
「あなたの気配だったのね、あなたは天邪鬼?」
実来は何の疑いもなく、お化けを認めた。
「ああ、お前は…と、きやがったぜ」
大きくなった青病が教室の前にせまっていた。
「ハジメ!!レオ君!!」
青病はハジメ達を取り込んでいた。ハジメの手には消毒液の瓶が握られていた。
「さ……つ………き……これ…を……」
ハジメが青病の中から、消毒液の瓶を投げた。
さつきはそれを受け止めようとしたが……青病によって、瓶がはじかれてしまった。
「ああ!消毒液が……!!」
瓶が床に叩きつけられ、割れる………その前に実来が瓶を受け止めた。
「さつきちゃん!」
実来がさつきに瓶を渡した。しかし、さつきは動けずにいた。
消毒液をかけれるところまで近づくと、青病にやられてしまう。けれどもここからでは消毒液は届かない……。
「さつき、それをかせ」
さつきは天邪鬼に瓶を渡した。瓶を受け取った天邪鬼は、青病に向かって駆け出した。
青病の近くに来ると、普通の猫ではありえないジャンプ力で、青病の上へ飛び瓶を砕いた。
「今だ!!」
消毒液が青病にかかる直前に天邪鬼が叫んだ。
「治りました!!」
消毒液がかかると同時にさつきが唱えた。
青病は瓶の破片に吸い込まれていった。
青病を霊眠させると、青病にやられたみんなが目を覚ました。
「さつきちゃん、やったね」
実来がさつきに微笑みかける。
「ありがとう。実来ちゃんが瓶を受け止めてくれたからだよ」
実来はそんな事ないと首を振った。実来はあの瞬間瓶が割れるのが見えたので、受け止めにいったらしい。
「ところでお前……」
「天邪鬼、ここは人が多いから…帰りにさつきちゃんのお宅にお邪魔するわ」
天邪鬼はああと言って窓から帰って行った。
その後、授業が再開され平凡に時間が過ぎていった。
夕方、実来はさつきの家にやってきた。
「ごめんね…お邪魔して」
さつきの家にはハジメやレオ、桃子までいた。
「実来って言ったな?」
天邪鬼が実来を見上げて聞く。
「ええ、あなたは私の正体が分かってるのね?」
実来の言葉に、全員が驚く。
実来は確かに変わっているように見えるが、一見人間に見える。しかし真実は違うようだ。
「ああ……お前は妖怪と人間の混血児だな?」
天邪鬼の言葉に実来は静かに頷いた。
「私は人間の父と妖怪、時見の母の間に生まれた混血児です」
さつき達が唖然とする中、天邪鬼はやっぱりなと呟いていた。
「お化けも子供を生めるの?」
さつきが質問すると、天邪鬼が不機嫌そうに答えた。
「あのなあ…妖怪とお化けは違うんだよ!!
お化けってのは、人間の負の感情や死んだ人間の思いから出来た奴で、妖怪ってのは自然の力が集まって生まれる一種の動物なんだよ」
天邪鬼の解説をさつき達は興味津々に聞いていた。
実来は、時見という時を見る能力を持った妖怪の母の力一部受け継いでいるので、ほんの少し先の未来を見ることが出来るのだ。その力について悩んでいた実来は、人と接するのを恐れ、なかなか友達も出来ずにいたのだ。
「まあ、こいつらは大丈夫じゃねぇ?」
天邪鬼がさつき達を見ながら実来に言った。
「実来さん、これからもよろしくお願いしますわ」
桃子が笑って手を差し出すと、実来は恐る恐るその手を握り返した。
第五話 ジューンブライド