六月、それは結婚式をするのに吉とされる月――。
そんな月に、さつきの知り合いが結婚することになった。
「奈々さんって言うんだけど、とっても幸せそうなのよ〜」
さつきが、まるで自分のことのように話す。
「ジューンブライトですかあ…」
「それは喜ばしい事ですわ」
レオと桃子が言う。
「ジューンブライト?」
ハジメが不思議そうに尋ねる。五人の下で歩いている天邪鬼も不思議そうにしている。
「ジューンブライトとは、六月に結婚式をあげることを言うのですわ。
この月に結婚すると、幸せになれるらしいですの」
「へー」
「私、ブーケを取るの!」
一人意気込むさつき。
そんなことをしている間に、敬一郎は小学校へ、さつき達は中学校へ、天邪鬼はどこかへ散歩をしに行った。
自分のクラスに入ったさつき達は、クラスメイトからある噂を聞いた。
「知ってる?最近、天野教会で結婚式をあげようとする人達が、急に病気や事故にあっているらしいの」
その話を聞いたさつき達は驚いた。さつきの知り合いが結婚式をあげるのがそこなのである。
どうせなら、自然の多いところであげたいという要望で、天野教会であげることになっていた。
「そんな……」
不安になるさつき、そんなさつきにレオが言った。
「もしかしてそれは、お化けの仕業ではないでしょうか?」
レオの言葉で、お化け日記を見るさつきだが、お化け日記には何も載っていなかった。
「もしかして、お化けじゃなくて、幽霊とか怨霊の類かもしれませんね……」
「私……行ってみる!!」
さつきが決心したように言う。
「待てよ!危ないぜ!!」
ハジメやレオが止めるが、さつきは自分の知り合いが幸せになるのを助けたいといって聞かなかった。
その日は、さつきの父親は仕事でいなかったので、学校が終わってからすぐに天野教会へ向かった。さつき一人には行かせられないと、桃子、ハジメ、レオ、敬一郎が一緒に行くことになった。
天野教会は、さつき達の住む天の町の近くにあるので、歩いてもすぐ着いた。
「さぁ…お化けでも幽霊でも出てらっしゃい!!」
「おい、お前ら何やってんだ?」
「わぁ!!!」
急に声をかけられたので、驚きのあまり声を出してしまったさつき
「おいおい…お前、今どこからでも出て来いって言ったじゃねぇか……」
ハジメに言われて、顔を赤くするさつき。
先ほど声をかけたのは天邪鬼であった。
「何でこんなとこにいんのよ?」
さつきが聞くと、天邪鬼は当たり前のように
「散歩」
と、簡潔に答えた。
ここまで、猫の足ではけっこうな距離である。朝別れたときからここまで歩いていたのだろうか?
「あと、こいつに呼ばれてな」
天邪鬼の目線の先には、足元が消えかかっている女の人がいた。
「!!!!」
その場にいた全員が硬直した。
いくらなんでも、目の前に幽霊がいるとなると、驚かずにはいられない。
「な、何で幽霊があんたを呼ぶのよ?!」
さつきが最もな意見を言う。
「知るか、俺様に自分はこの月に結婚する奴が許せないから殺したとか何とか自慢げに語ってたぜ?」
天邪鬼の言葉に、全員が目的の人物だと再確認する。
「あ…あの、どうしてそんなことをするんですか?」
恐る恐るさつきが尋ねてみると、女は悲しそうな瞳でさつきを見た。
「私は…許せない……幸せそうな人を…この月に結婚できる者を……私は死んだのに……彼に……殺されたのに!!!」
女は、鬼のような形相で、さつき達を睨みつけた。
「きゃ!!」
女の殺気にあてられてしまったさつき達は、身動きがとれずにいた。
「許せない…幸せそうな者を……こんな所で…私は一人こんな所にいるのに……」
さつきの首を絞めようと、女がてを伸ばす。
「やめろ!」
天邪鬼が、女の顔を引っかいた。
「何をする?!私は…殺さねばならない……」
「てめぇが何をしようと勝手だがな、そいつは俺の獲物だ!!」
天邪鬼と女の睨み合いが続いていた。
「あなたは…どこにいるの?」
さつきが、声を振り絞って聞いた。
「そう…ですわ、あなたの居場所が分かれば、私達が家族のもとへ帰れるようにいたしますわ」
桃子もさつきに続いた。
ハジメ達も、真剣に居場所を聞いた。
もし、本当に殺されたのなら、それはあまりにも可哀想である…。最愛の人に殺されるなど……。
「……あの…林……」
女は静かに林を指差した。
「……あなたは、ずっと待っていたのですね?」
桃子が尋ねるように、確かめるように言った。そして、言葉を続ける。
「自分を見て、自分の話を聞いて、自分の居場所を見つけてくれる人を……」
女は、ハッとしたような顔をして静かに消えた。
ハジメ達はすぐに女が指差したほうへ行き、穴を掘った。女は意外とすぐに見つかった…。真っ白な骨となって……。
そのすぐ後に、警察へ行って女の事を――骨のことを話した。警察のほうで、骨は保護され、遺族を探すことになった。
「なかなかやるじゃねぇか、怨霊を鎮めるなんてよ」
天邪鬼が帰り道、さつきに言った。
「あの人は怨霊なんかじゃないわよ…桃子ちゃんが言ったとおり、可哀想な幽霊だったのよ……」
悲しそうな目をするさつきを、心配するように敬一郎が手を握った。
「敬一郎……」
「お姉ちゃん…」
そんな様子を、天邪鬼は静かに見ていた。
そして、結婚式当日―
天気は見事に晴れ、女の死体のほうもだいぶと収まっており、結婚式日和となった。
結婚式には、礼一郎、さつき、敬一郎の他、いつものメンバーがそろっていた。
花嫁は、綺麗なウエディングドレスを身にまとい、とっても綺麗であった。
「奈々さんもとうとう結婚かー」
「綺麗だねー」
「さつきもあれぐらい綺麗ならなー?」
「五月蝿いわよ!!」
「さつきさんも十分綺麗ですわよv」
「まぁ人それぞれですから」
上から礼一郎、敬一郎、ハジメ、さつき、桃子、レオである。
ひととおりの儀式がすんだら、次はブーケトス
花嫁が後ろを向いて、女性達が集まる場所へと投げた。その瞬間、多くの人が我先にと手を伸ばす。
人の波に呑まれて、さつきは手を伸ばすのが精一杯。
ブーケは静かに落ちていき、別の女性の手の中へ――。しかし、ブーケは女性の手には入らなかった。
空中で、黒い影がブーケを奪ったのだ。
女性達が騒ぐ中、女性達の中から抜け出したさつきの目の前に天邪鬼がいた。白と青の花で出来たブーケをくわえて。
「ほらよ」
天邪鬼はさつきに向かってブーケを投げた。
「どうして?」
「ああ?欲しかったんだろ?それ」
そっぽを向いて照れくさそうに言う天邪鬼をさつきは嬉しそうに見ていた。
「ありがと…天邪鬼……あれ?」
さつきは、林の中に女の影を見た。そこにはあの女がいた。
女は優しそうに微笑んで消えていった。
「…………」
ただ黙っているさつきに天邪鬼は、
「大方、死体を見つけてくれたことに感謝してるんだろ」
と言ったが、さつきには、別のことも入っているような気がした。
「(そう―何かを祝福するような目だったな…奈々さん達の事かな?)」
さつきはそう思うことにした。
まさか、自分たちの事とは知らずに……
第六話 兵隊