6.OFF
 世界は、白い。
 否、殆どが白く染まりきってしまった、という方が正しい。
 この世界を構築する一部であるゾーン。それらを護り、治めるガーディアンが一人消えるごとに色が一つ減った。今、世界の創造主たる幼子を失い、広く狭い世界の中で色を持った場所はただ一つだけとなっていることだろう。
 何もない世界。ゾーン0。ガーディアンを持たぬあの場所だけが、今も創造主の手から離れ、単色を保っているに違いない。しかし、それも、もう間もなく失われる。
 バッターはモノクロの世界の中、目の前に流れる赤を見た。
 小さな猫の体から流れる体液は見ていて愉快なものではない。
「お前は世界の選択を迫る役割を担っていた」
 この声はどこか遠く、小さな窓の向こう側にいるプレイヤーには届かない。
「審判は下り、世界の命運は決した」
 まだバッターは動かない。
 おそらく、彼を選んだプレイヤーがゲーム画面を呆然と見ているがためにできた空白の時間だ。無理もない。酷な選択をさせた、という自覚くらいバッターにもある。
 共にゾーン0からthe roomまで共に歩んできたバッターを取るか、正論を述べる哀れな猫を取るか。
 全てが納得の上で終わるようなエンディングは用意されていない。プレイヤーが選べるのはどちらか片方。誰かを説得することも、選択肢をへし折ってしまうことすらできない。
 何も告げずにここまできたのはバッターだ。この結末を匂わせるイベントこそ存在していたものの、決定的なものは存在していなかった。そして、最後にはハッピーエンドが待っているのだと、彼は、あるいは彼女は信じていたのかもしれない。故にバッターは選ばれ、ジャッジは死んだ。
 後はスイッチをOFFにするだけ。
 ゆっくりとバッターの体が動く。
 プレイヤーが最後にやるべきことをようやく認識したのだ。
 世界の一番奥、隠されるようにして存在しているスイッチ。これこそ、バッターが望んでいたもの。浄化を完遂させるために欲し、一人では到底目にすることが叶わなかった代物。
 Enterが押される。
 バッターの手がスイッチを握り、ひと思いに降ろされた。
 世界は暗闇に染まる。それで、終わりだ。
 歪な世界も、創造主への影響も、嫌われる自分も、全て、何もかもが消え去る。浄化される。
 きっと、プレイヤーには届かなかっただろう。最期にバッターが上げた歓喜の声。喜びに満ち溢れ、四つの目が楽しげに細められたあの一瞬。それら全てはエンディングロールにかき消されたのだ。

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