二年前のことが未だに夢に出る。時間は記憶を薄めていくが、罪悪感をより大きくしていく。
肥大化した罪の意識は、紋土を押しつぶそうとしていた。そのことを証明するかのように、彼が見る夢は年を重ねるにつれて恐ろしいものへと変化している。
それこそ、ただ生きていることさえ謝ってしまいたくなるほどに。
「うわあああ!」
その日、紋土は美しい朝焼けに似つかわぬ声をあげ、ベッドから飛び起きた。
二、三ヶ月に一度は見る恒例の悪夢だ。いや、悪夢という言葉で表することは罪の上塗りにしかならない。これは確認なのだ。紋土の手がいかに汚れているのか、どのような経緯を経て今があるのか。それら全て、忘れることはけっして許されないという証。
他ならぬ紋土自身が、そのことを許していない。
荒れた息を整えぬまま、紋土は呪文のように繰り返す。
「オレは強い強い強い強い強い……」
布団を強く握る右手は小刻みに震えている。夢を見た恐怖と入りすぎた力によるものだ。残された左手は彼の顔を覆っている。大きな手のひらの向こう側には、暴走族の総長として単車を乗り回している時の彼とは真逆の表情が浮かんでいることだろう。
「誰よりも、強い。オレは、誰よりも強い強い強い」
強いという言葉を口にしなければ根元から折れてしまいそうになる。今日一日だって満足に生きていけないような気がしてくるのだ。そして、そんな風に思ってしまう自分の「弱さ」に、紋土はまた「強い」という言葉を重ねていく。
今までにも幾度となく繰り返され、塗り固められた虚構の強さが、今日もまた厚くなる。
紋土が見た夢の内容は、二年前の出来事。思い出すのも恐ろしい、かといって忘れることなど許されるはずもない出来事。
「兄貴ぃ……」
呪文の最後は、縋るような言葉だった。意識したものではない。思わず出てしまったもの。それ故に、紋土は口にしてしまった恥から眉間にしわを寄せた。
兄を呼んだ声は、他者、ましてや舎弟達には聞かせられないものだった。あまりにも弱々しく、あまりにもか細い。強くあらねばならぬ紋土にとって、誰かに弱さを見せるというのは自殺行為に等しいことだ。
防音対策がなされている自室とはいえ、そんな声を出してしまった自分が忌々しい。
夢と弱さを打ち払うように目を強く瞑る。すると、いつのまにか溜まっていたらしい涙が一筋零れた。
「チッ」
舌打ちをし、流れた涙を乱暴に拭う。
「オレは、強い。
兄貴よりも、強い」
それが真実だ。
そうでなければ、チームをまとめることはできない。彼が総長を務めている族を日本一の地位から落さずにいられていることが、強さに対する何よりもの証拠だ。紋土は己に言い聞かせる。二年前からずっと同じことを言い聞かせ続けてきた。おそらく、これからも一生このままなのだろう。
時計を見れば、そろそろ部屋を出なければならない時間だった。目覚めたときが何時だったのかはわからないが、朝焼けが見えていたことを考えれば、ずいぶんと時間が経ってしまっていることがわかる。
紋土が住んでいるのは希望ヶ峰学園の敷地内に設置されている寮だ。それ故、登校時間にはかなりの余裕がある方なのだが、こうなってしまっては遅刻は免れないだろう。今から仕度をして、どうにか一時間目の開始から十数分後に教室にたどりつける。そこまでわかっていながらも、紋土は急ぐ素振りを見せない。
軽く頭を掻いて顔を洗い、いつも通りに髪を整える。
一般常識を持ち合わせた生徒ならば、こうはいかないだろう。多少の差はあれども、遅刻してしまう時間を減らそうとするはずだ。だが、彼は違う。こうなってしまったのだから、いっそのこと一時間目はサボるくらいでいい。そんな風に考えていた。
幸いといっていいのか、紋土は超高校級の暴走族として希望ヶ峰学園に編入してきている。教師の方もそのことがわかっているので、多少の遅刻や不祥事には目をつぶってくれる。不真面目な生徒にも優しいのがこの学園だ。ただし、締めるところはしっかりと締められているので、プラスマイナスゼロ、という気もするが。
「うっし」
しばらく鏡の前にいれば、いつも通りの髪型が完成する。手間はかかるが、この髪型を変えるつもりはない。
角度を変えて髪型を確認した後、紋土は鏡に映った自分をじっと見た。いつもと変わらぬ顔だ。目が腫れていることもなければ、情けない表情も浮かべていない。
学校にいる、それなりに気の知れた友人達に何か勘付かれるようなことはないはずだ。紋土が遅刻をするのは珍しいことではないし、他に変わっている様子は見受けられない。
「まだ時間はあるな」
時計を確認すれば、まだ一時間目が終わるにはほど遠い。
遅めの朝食を取る時間は十分にある。無論、寮に設置されている食堂に行くわけにもいかないので、以前に買ったカップラーメンが朝食だ。栄養バランスはともかくとして、朝から好きなものを食べられるというのは気分が良い。
苦しい朝には相応しいとだって言える食事だろう。
これでも夢を見る頻度が下がった方なのだ。紋土はそっと息をつく。
喜ばしい事態の理由としては、かつて住んでいた家を引き払い、大亜との思い出のない希望ヶ峰学園の寮へ越してきたことによるものだというのが妥当なところだろう、と紋土は考えていた。
見知らぬ場所、家族の匂いがしない場所、傷のない場所。それらは彼に一時の休息を与える。何もないここでならば、紋土は自分であることを辞められるような気がしていた。そんな己の「弱さ」に気づく度、また「強さ」を刷り込むのだから、実際のところは休息になっているのか定かではないのだが。
それでも、「弱さ」のことも「強さ」のことも考えずにすむ瞬間があるだけ、彼の精神には良いといえる。
カップラーメンを食べ、しばしの間、何も考えずに天井を見る。そうこうしていれば、一時間目が終わる時刻に近づいていた。
「……そろそろ行くか」
最後にもう一度鏡を見る。
しみったれた顔をして外を歩くわけにはいかない。
「オレは強い」
鏡の中の自分を睨みつける。
超高校級の暴走族に相応しい顔がそこにはあった。
部屋を出てしばらくすれば、チャイムの音が聞こえてくる。一時間目が終わり、学校は休み時間に入ったのだ。
全校生徒数もさることながら、一学年に所属している人数が少ない希望ヶ峰学園では、休み時間と言えども然程騒がしくはならない。廊下に数人。後は各々の教室でクラスメイトと和気藹々と雑談をする程度だ。
「うーっす」
紋土はいつも通りに教室の扉を開ける。
すぐに目に入ったのは悪友である葉隠だ。紋土に負けず劣らずといった髪型のインパクトは、教室のどの位置にいても目立つ。
「おはようさん」
「まった遅刻かよー」
続いて桑田の声が聞こえてきた。
どうやら、二人でまたしょうもない話をしていたらしく、葉隠と二人で一つの机を挟む形になっている。
「寝坊しちまってよ」
嘘だ。だが、紋土はそれが真実であるかのように振舞う。つくことに慣れてしまっている嘘は、彼の行動を実に自然に見せる。悪びれもない表情も、どことなく面倒くさそうに頭を掻く仕草も、一片の違和感もなしにおこなわれる。
紋土はそのまま自然な動作で悪友達の会話に混ざろうとした。しかし、そうは問屋がおろさない。
「大和田君!」
教室中に声が響いた。
クラスでも一、二を争う声の大きさを持つ男から発せられた声は、教室の窓ガラスをも揺らす。超高校級の軍人である戦場がその威力をいち早く察知し、耳を塞いで防御体制を取ってしまうほどだ。
声の主は、超高校級の風紀委員である石丸だった。
「キミはまた遅刻か!
今月に入って何度目だ!」
「うっせぇなぁ。別に構やしねーだろが」
ツカツカと歩み寄ってきた石丸に紋土がガンをつける。
クラスメイト達はそんな光景に、またか、とため息をつくばかりだ。
「風紀が乱れるではないか!」
「暴走族が風紀を気にしてどーすんだよ!」
誰もがこの二人を同じクラスにしたのは間違いだろうと考えていた。
片や真面目で規則正しい風紀委員。片や不真面目で校則は破るためと言いかねない暴走族。まさに水と油だ。同じクラスにして衝突が起きないはずがない。
超高校級を集めているこの学園では、一学年におけるクラス数は多くて二つ。少なければ一つということも十分にありえる。だが、幸いにも、紋土達の学年にはクラスが二つある。
風紀委員と暴走族を別のクラスにすることができたはずなのだ。
「大体、キミは何だ!
その髪型に色は!」
「どー見てもリーゼントだろうが、こら!」
二人は額を押しつけあって至近距離での睨みあう。その状態のまま、互いに怒声を上げあっていた。
第三者からしてみれば、声量の大きさも気になりはするのだが、あまりにも近すぎる距離感に、互いの唾が飛んでいるのではないか、などという微妙な懸念が頭に浮かぶ。
「ま、まあ二人とも落ち着いて……」
学年唯一の凡人こと超高校級の幸運である苗木が二人に近づく。殴りあいにでも発展していれば大神の出番なのだが、未だ口論の域を出ていない段階ならば自分にも止められるのではないかと思っての行動だ。
彼が希望ヶ峰学園に編入してきて以来、それが適ったことなど一度とてないのだが、人より少しばかり前向きな彼は諦めるということを知らず、今日も果敢に喧嘩の仲裁というハードな試練に挑戦している。
「うるせぇ!」
「うるさいぞ!」
こういう時ばかり息が合っているというのも、また周囲を微妙な気分にさせる。
「もう放っておいたほうがいいよー」
朝日奈に言われ、苗木も静かに頷く。
間に割り込んで左右から殴られでもしたら保健室ではすまないかもしれない。それに、休み時間というものは長いものではない。数分もすれば授業が始まるし、その前に教師がやってくるはずだ。最悪、大神という最終兵器を投入することで喧嘩を鎮圧させることもできる。
「毎朝、決まった時間に起きられないのは、キミに気合が足りないからだ!」
「てめぇ、みたいなイイコちゃんにこそ気合が足りてねぇんじゃねーのか!」
「こら! 二人ともやめなさい!」
紋土が石丸の胸倉を掴み上げる寸前で教師が教室に入ってきた。焦っている様子を見ると、二人の口論は廊下にまで響いていたのだろう。彼らの声量を考えれば何ら不思議ではない。
教師の登場に、石丸は背筋を正して一歩下がる。その態度さえ気に食わないのか、紋土は舌打ちを一つした。
「待ちたまえ!」
鞄を担ぎなおした紋土に石丸がまた声を上げる。
紋土は声の主を一瞥しただけで、すぐ廊下へ出て行ってしまった。
「おい、授業はどーすんだよ!」
慌てて桑田が窓へ駆けより、そこから紋土の背中へ問いかける。
「フける」
端的な言葉を返し、片手を上げてひらひらと振った。
この台詞を聞いた教師が紋土を追いかけることはない。彼は超高校級の暴走族としてこの学校に編入してきたのだ。ある程度の自由は保障されてしまっている。ただし、将来的には未来を担う存在として卒業しなければならないので、テストや補習に手加減はない。
サボった場合、後々困るのは紋土自身だ。そのことはよくわかっているし、だからこそ桑田も帰ろうとする紋土に慌てて声をかけたのだ。
「……こんな日は単車に乗るっきゃねーよな」
近い未来に迫る苦労から目をそらしているわけではない。
けれど、今だけは先のことを考えていられなかった。
朝から嫌なことばかりだ。このまま授業を受けたところで、きっと頭には入らない。無闇に苛立ちが募るだけに決まっている。それならばいっそのこと、全てサボってしまえばいい。
紋土は鞄の中から単車のキーを取り出す。
彼のド派手な愛機は学園の駐輪場にしっかりと停められている。管理人が見張ってはいるが、彼も紋土のことを知っているので授業中であろうと注意をしてくることはない。
意気揚々とは言い難い足取りで駐輪場に向かい、キーを回す。
閑静な住宅街で鳴らせば、間違いなく騒音として苦情を言い渡されるであろう轟音が響く。おそらく、石丸ならばこの音に耳を塞ぐだろう。苗木ならば苦笑いを浮かべるだろう。紋土は笑うのだ。響く轟音と呼応するように心臓が高鳴る。
上昇し始めた気分に抗うことなく単車を走らせる。体全体で感じる風が紋土の中に溜まっていた鬱憤を吹き飛ばしていく。
「やっぱ暴走るのは最高だぜ」
今ならば鼻歌だって歌えそうな気分だ。
このまま何処まで行ってしまおうかと考える。暮威慈畏大亜紋土の集会はまだ先の予定なので、いつもの場所に行っても誰もいないはずだ。第一、今朝のことを考えればチームの面々とは顔をあわせたくない。
考えた末、紋土は適当なところまで走り続けることに決めた。
総長として先頭を走ることも多いので、この辺りの地理には聡いと自負している。多少、遠くにまで行ってしまったとしても学園に帰れる自信はあった。
無断外泊という手もあるのだが、これもやはり気分になれない。門限が過ぎる、過ぎないに関係なく、最終的には寮に帰ることだけは決定している。
「どこまで行けるか楽しみだ」
口角を上げ、紋土は単車のスピードを上げた。
そうやってどれ程の時間が経ったのか。すでに太陽は赤く染まり、夕焼けに変わっていた。時計を見ずとも、すでに学校が終わっていることがわかる風景だ。
紋土はようやく単車から降りる。だが、そこは学園の駐輪場ではなく、少し離れた場所にあるコンビニだ。長時間、暴走りっぱなしだったので、喉が乾いてしまい、コーラでも買ってから寮に戻ることにしたのだ。
「――――な、だか――」
ポケットから小銭を出し、確認していると声が聞こえてきた。
ボソボソとした小さな声だったが、紋土はその声がどのような言葉を吐いているのか容易に想像できてしまう。
不良と呼ばれる人種の中では、珍しくない行為がおこなわれているに違いない。そして、彼は不良ではあったが、そういった行為が大っ嫌いだった。
「おい」
声の聞こえる方へ足を運べば、案の定な光景が広がっていた。
ガラの悪い数名の不良が、見るからに貧弱そうな男子高校生を囲むようにして立っている。どこからどう見ても、カツアゲの現行犯だ。
「あ? んだよ」
「お、おい! そいつ、暮威慈畏大亜紋土の……!」
咄嗟に判断がきかなかったらしい一人が紋土へガンを飛ばす。すぐさま周囲の不良が一人を止めるが、時すでに遅し。ガンを飛ばされて黙っているほど、紋土は気の長い男ではない。
こめかみに青筋を浮かべ、指を鳴らす。
日本最大の暴走族を統べるに相応しいその威圧感に不良共は引きつった悲鳴をあげた。
「てめぇはさっさとどっか行きやがれ」
思わぬ事態に巻き込まれ、腰を抜かしてしまっていた貧弱な男へ紋土が言葉を吐き捨てる。不機嫌さを残したままの声は、一般人からすれば十二分に恐ろしく、脅迫めいていた。
「は、はいぃ!」
男は腰を抜かしながらも、這うようにしてどうにか現場から逃げ出す。
紋土を前にして男を追いかけられるほど不良共も肝が据わっていない。結果、彼は何の危険もなく、安全な状態で逃げ出すことができた。
「すんませんでした!」
紋土にガンをつけた不良が即座に土下座する。
暮威慈畏大亜紋土の恐ろしさを知らぬ不良など、この日本に存在していない。さして名があるわけでもなく、喧嘩が強いわけでもない不良共では太刀打ちできない存在だ。まともに喧嘩するなど、できるはずもない。
「……チッ。
もうつまんねぇことすんじゃねーぞ」
自身を悪逆非道だと称する紋土だが、どちらかといえば彼は甘い人間だった。
女子供に手を上げないことは勿論のこと、明らかな弱者には拳を振るうことができない。土下座をしているような情けない不良を相手に喧嘩をするなど、もってのほかだ。殴った拳が腐ってしまう。
気分はすでに喧嘩モードに入っていたので、不完全燃焼な思いはあったが、紋土は不良共に背を向ける。寮に帰る前に周囲をもうひとっ走りすれば解消される程度の鬱憤だ。何も目の前の弱者を相手にする必要はない。
そんな彼の優しさをあざ笑うように、不良共の頭の中にはある噂が浮かんでいた。
曰く、暮威慈畏大亜紋土の二代目総長である大和田紋土は非常に甘い男だ。一代目総長である大和田大亜は一度敵として認識すれば、相手が白旗を揚げようが腹を見せようが叩き潰す。対して、大和田紋土は逃げる敵や腹を見せた敵を追撃するようなマネはしない。彼は大亜とは違う。日本一の暴走族を作り上げた人物ではない。
この弱味につけこめば、あるいは倒せるのではないか。そんな砂糖菓子よりも甘い考えだった。
不良共は近場に置いてあった金属バットを手にし、思いっきり振り降ろす。
「――ッガ」
油断しきっていた紋土はその一撃をモロに喰らってしまった。
彼から上がった鈍い声に、不良共が笑みを浮かべる。総長を倒したとなれば、自分達の地位も一気にうなぎのぼりだ。
だが、現実はそれほど甘くない。
「……てめぇら」
紋土は倒れない。
わずかに前のめりにはなったが、しっかりと地面を足で踏みしめ、両の足で立っている。
「よっぽど死にてぇらしいなぁ?」
頭からは血が流れていた。元々、派手に出血する場所とはいえ、流れてる血の量は少なくない。常識的に考えれば、倒れるのが普通だ。不意打ちでそれだけのダメージを与えたというのに、立っているほうがおかしい。
今度は、悲鳴をあげる暇さえなかった。
紋土は素早い動きで自身を殴った不良の胸倉を掴み上げ、そのまま拳を不良の顔面に叩きこむ。骨がぶつかる嫌な音がし、歯が地面に落ちた音がかすかに聞こえた。
その一撃で不良は地面に体を横たえる。
「次はどいつだ」
ゆらり、と紋土が他の不良共を目に映す。
彼らもまともな判断がつかない状態に陥っていた。ありえないと思うようなことが続き、彼らの脳における許容量を越えてしまっていたのだ。まともな状態であれば、逃げるのが正解だとわかっただろう。
それがわからないから、全員が紋土へ向かって突撃するという悲劇がおこったのだ。
数人からの攻撃をくらいつつも、彼は着実に一人と捉え、沈めていく。
不良共の最大の不幸は、甘さを抱えたまま日本一のチームを存続させ続けている紋土の力に気づくことができなかったことだろう。
「キミ達!」
立っているのが紋土を含め、三人ほどになった時だ。嫌になるほど聞き覚えのある声が紋土の鼓膜を通って脳みそにまで伝わってくる。
思わずうんざりとした表情をしてしまい、残っている不良から、声の聞こえた方へと視線を移す。
「喧嘩はやめたまえ!」
そこには、やはりというか、予想通り、超高校級の風紀委員こと石丸清多夏がいた。
「……てめぇ、何しにきやがった」
紋土は目にかかる血を拭い、改めて石丸を見据える。
血を流してはいるが、弱い者イジメをしていたと取られても無理はない惨状だ。頭の硬い風紀委員に、ここまでの経緯を説明したところで素直に受け入れるかどうかわからない。そんな、ある意味では失礼なことを紋土は脳内でつらつらと考えていた。
「喧嘩を止めにきたに決まっているではないか!」
胸を張って宣言した後、石丸は大股で紋土に歩み寄ってきくる。
無駄な説教が始まり次第、石丸を殴ってやろう。こっそりと決心し、紋土は拳を握った。
だが、その思いは不発に終わこととなる。
「まったく。頭は大切にしたまえ。
当たり所が悪ければ、そのまま死に至ることもあるのだぞ」
予想外なことに、石丸はそっと紋土の額に手を伸ばしてきたのだ。
「……は?」
間の抜けた声が出る。
目を丸くした紋土だったが、石丸はそれを無視して残った不良に向きなおった。
「喧嘩の原因は、キミ達がカツアゲしようとした者から聞いている。
これ以上はキミ達の傷口を広げるばかりだぞ。
今が退き時ではないかね?」
石丸の人差し指が勢いよく不良共に向けられた。
人に指を差すな、だとかいう一般常識的なことを紋土が言いそうになる程度には、その光景は衝撃的なものだった。
「は、はいっ!」
第三者の加入により、幾分か冷静さを取り戻したらしい不良共は短く返事をした後、倒れている仲間をどうにか回収してその場から去って行く。
残されたのは石丸と紋土の二人だけだ。
「……おい」
「どうした。
意識が朦朧としてきたのかね?
ならば、一先ず座るといい。ボクが救急車を呼ぼう」
「違げーよ」
血を流しすぎたため、多少はぼぅっとしてしまっているが、今はそれどころではない。
紋土は本気でわかっていないらしい石丸の目を見て、ため息をついた。
「何しにきたんだよ」
たった一つ、問いたい事柄だけを口にする。
「先ほどの発言を聞いていなかったのかね?
ボクはキミ達の喧嘩を止めにきたんだ」
あっけらかんとした口調だ。そこに嘘は見えない。第一、石丸が嘘をつけるとは思えない。
「風紀委員様だからか」
同じ学校の生徒が喧嘩をし、風紀を乱しているからとわざわざ出動してきたのだろうか。否、石丸のことだから、紋土だけではなく他校の生徒である相手の不良にも風紀を叩きこむつもりだったのかもしれない。
何とはなしに想像できてしまうところが、石丸の恐ろしさだ。
「ふむ。勿論、喧嘩を見過ごせなかったということもある」
そこまで言って、石丸は何かに気づいたような顔をしてポケットからハンカチを出し、紋土の額にそれをあてる。血を抑えようとしているのだろうことはわかったが、その行動に至った理由がわからない。
とりあえず、紋土は身長差のためにやや背伸びをするはめになってしまっている石丸のためにも、ハンカチを受け取り自分で傷口を抑えることにした。
「すまない。
それでだ。下校済みの生徒が寄り道をしていないかチェックしていたボクのもとに、キミが助けた男子高校生がやってきた。
彼から詳しい話を聞いたボクは、喧嘩を止めるつもりもあってここへ駆けつけたのだよ」
良くも悪くも希望ヶ峰学園の生徒は有名だ。紋土が助けたあの男も、超高校級の暴走族と風紀委員のことを知っていたのだろう。紋土を止めたかったのか、助けたかったのか、どちらにせよ同学園に通っている生徒の姿を見つければ助けを求めたくもなるだろう。その点に関しては特に疑問はない。
問題なのは、その後のことだ。
「……信じたのかよ」
石丸から受け取った白いハンカチが赤く染まっていく。
「信じるもなにも。あの彼が嘘をつく理由などないだろ?」
疑うことを知らないわけではない。彼は彼なりに考え、導きだした結論によって行動したにすぎない。
「オレが怖ぇから嘘をついたのかもしれねぇだろ」
「彼からそういった印象は受けなかった」
真っ直ぐな赤い目が、紋土の薄紫の目を射抜く。
「それに、キミならばありえる話だと思った。
キミはカツアゲや弱い者イジメが嫌いだからな」
紋土は言葉をなくした。
二人の間にあるのは真逆の性質を持つが故の嫌悪のはずだ。そのはずなのに、相手は自分を見てくれていた。その事実に目がくらむ。
「喧嘩はよくないことだ。
だが、時には武力で制圧することも必要だろう。
ボクも風紀を守るために武道を学んだことがある」
口を挟む間もなく、石丸が次々に言葉を紡いでいく。彼が空気を読むことをしない人間だということは、紋土も重々承知しているつもりだった。だが、これほどまでとは正直なところ思っていなかった。
「聞けば、複数対一という。
なのでこうしてボクがやってきたというわけさ」
「じゃあ、何か……。
てめぇは、オレを助けにきた、ってのか?」
呻くように言い、石丸を睨めつける。
犬猿の仲であった人物に、助けなければと思われるほど弱い自分ではないはずだ。そうあってはならないのだ。紋土の胸には燃え上がるような熱さを伴った靄が渦巻いていた。
一触即発の空気の中、石丸は平然と言い放つ。
「いや。それはない」
取り付く島もないほど、きっぱりとした口調だ。
胸の内に渦巻いていた靄でさえ霧散してしまう。
「んじゃ何できたんだよ!」
思わず語調が強くなる。
意味のわからないことばかりだ。
「キミがやり過ぎる可能性があったからだ!」
紋土に対抗したのか、元来のものなのか、石丸も声を大きくした。
「何度も言ってきたことではあるが、キミには自制心が足りない!
遅刻も珍走も、他者のことを思いやり、自分を制するということができないからだ!
故に、ボクは今回もキミがやりすぎて相手の不良達を不必要なほどに傷つけるのではないかと思った!」
「じせーしんだぁ?
てめぇ、また説教か!」
血に濡れたハンカチをポケットに突っ込むと、紋土は目の前にいる石丸に額を付ける。血が付着してしまうかもしれないが、そんなことは知ったことではない。
弱いと思われていなかったのは良いことだが、それとこれとは話が別だ。今日は暑苦しい説教を黙って聞いてやれるような気分ではない。いくら暴走ったところで、根本の気持ちは簡単に変えられないのだ。
「さっき言ってたなぁ?
武力で制することが必要なときもあるだとかなんとか。
なら、オレを制してみやがれよ。そしたら、てめぇの言うことを聞いてやるよ!」
「決闘か! 受けて立とう!
と、言いたいところではあるが、キミは負傷している。
不平等な状態のもとで決着をつけてもしかたがない」
「うっせー。こんなもんハンデだ、ハンデ!
てめぇみたいな奴を潰すのに、このくれぇの怪我なんてないと同じだこの野郎!」
「言ったな!」
「言ってやったよ!」
互いに寄せあっていた顔を離し、人一人分の距離を開ける。
「……いや、待て。
ここでは店に迷惑がかかってしまう」
紋土が腰を落したところで石丸が言った。
カツアゲに使用されていた場所だけあって、目立つ場所ではないのだが、ガタイのいい男が二人、喧嘩を始めれば人の目にも止まるだろう。
「じゃあどーすんだよ」
どうにもペースが掴めない。紋土は自身の首に手を添え、考える様子を見せている相手に目を向けた。
「よし。近くに河原があったな。そこにしよう。
男の決闘は、夕焼けの中、河原でするものだと相場が決まっているしな!」
後半は漫画の世界だろうと思いつつ、紋土は近場にあった河原への道を思い浮かべる。何度か通ったことのある道だ。人通りも少なく、静かに単車を走らせたいときなどはそこを通ることもあった。
「うっし。んじゃ、後ろ乗れや」
石丸の返事を聞かず、紋土は停めておいた単車へ向かう。後ろに誰かを乗せて暴走ったことはないが、大きさ的には十分であるし、運転には自信がある。
「免許は持っているのか」
「学園にきたときに取らされた」
「ならば、免許の取得から一年未満なのではないか」
単車の二人乗りが許可されるのは、免許の取得から一年が経過してからだ。紋土達は一年生として編入を果たし、現在も高校一年生として生活している。つまり、どう考えてみても二人乗りが許可される年数に達していない。
わかりやすい石丸の顔は、誰がどうみても不満気だった。
「んなもん今さらだろーが。
こちとら、小学生のときから暴走ってるっつーの」
無論、彼の単車にヘルメットなど保管されていない。
乗るとすれば、ヘルメットなしでの二人乗りだ。
「キミはっ……!」
「説教は勝負の後だろーが。
大体、場所の移動はてめぇが言い出したんだ。移動手段くらいはこっちに合わせろ」
薄紫の瞳が細くなる。
遅々として進まない現状にも、未だにじわりじわりと流れている血にも苛立っているのだ。これ以上、つまらない話は聞きたくない。
「……確かに、場所の変更を申し出たのはボクだ。
キミの意見にもあわせなければ、フェアではない」
苦渋の決断なのだろう。石丸は拳を強く握り、紋土の単車へ近づく。
「だが! ボクが勝ったあかつきには、この単車ももっと静かで小さなものに変えてもらう!」
「勝てたら、な」
紋土は口角を上げた。
頑なに規律を守り続けてきていた風紀委員を、こうして悪の道に引っ張ってやれたことが彼の心を軽くさせる。
「振り落されんじゃねーぞ!」
「キミの運転が下手でなければな!」
「言ってろ!」
次の瞬間、単車は豪快な音を上げて河原への道を猛スピードで進んで行った。
少しして、二人は目的の場所にたどりつく。歩いていてはこれほどの早さで到着することはできなかっただろう。
「んじゃ、始めるか」
単車を人の邪魔にならないところに停めると、二人は河原に降りて向かい合う。オレンジ色の夕日は、対峙する二人を絵画のように魅せた。
先に動いたのは紋土だ。武術の心得などなく、完全我流の動きは変則的であり、実戦的だ。暴走族の総長に相応しいスピードとパワーを兼ね備えた攻撃は、当たればただではすまないことを示している。
向かってくる紋土を円の力でいなす石丸は、相手とは真逆の動きを身につけている。理論と先人の経験から作り上げられてきた武術により、暴力を制していく。
いなしきれぬ攻撃に石丸は呻き、長い年月をかけて作り上げられてきた型によって紋土は歯を食いしばる。
「オレに喧嘩を売ったこと、後悔させてやるよ!」
「キミのように気合が足りていない人間に、ボクを後悔させるなどできるはずがない!」
蹴りと拳が二人の間に舞う。
派手な喧嘩ではあるが、石丸が周囲に迷惑のかからない場所をと指定しただけあって、人に見られる心配はない。
「暴走族というのは、社会とも学校とも向きあえずにいる者達の溜まり場だろう!
そんな場所で頂点を取ったからといって、何の意味もないぞ!」
言葉は拳よりも的確に紋土を刺す。向きあえない「弱さ」を認めはしないが、それでも痛みはあるのだ。奥歯を噛みしめ、右ストレートをおみまいする。
「オレらは何も考えずに暴走ってるんじゃねぇ!」
風を切っているその瞬間は、何も考えずにいられる。それは否定できない。だが、単車に跨るその瞬間までは違う。悩むこともあり、苦しむこともある。暴走族も人間の集まりだ。一人一人、違うものを抱えて生きている。それを乗り越えるために暴走るのだ。一つのチームになるのだ。
紋土はチームの連中を思い浮かべる。どいつもこいつも馬鹿ばかりで、世間からみたらつまらないと一蹴されるようなことを担ぎ込んでいる。辛さに顔を歪めているところだって見た。全てを忘れた爽快感に笑みを浮かべているところも見てきた。
「この世界にはなぁ! 居場所のねぇ奴ってのは山ほどいやがるんだ!」
石丸の目がわずかに見開かれる。
「そんな奴らの居場所を作って、何が悪ぃってんだ!」
一人でも立っていられるからといって、一人っきりが平気なわけではない。辛さに膝を折りそうなとき、誰かが傍にいてやれるのならば、帰る場所があるのだと思えるのならば。それはどれほど幸いなことなのだろうか。
弱いから群れるのではない。強いから、共に支えあうのだ。輪を広げ、様々な人間がいれば、どんな時にだって平気な顔をして戻ってくることができる場所になる。紋土が兄と作り上げた暮威慈畏大亜紋土は、そういう場所なのだ。
「キミも、そうだというのか!」
居場所の無い人間のために暴走族が作られたというのならば、紋土はどうなのだろうか。石丸としては浮かんで当然の疑問だった。クラスメイトとはいえ、出会ってそれ程時間が経っているわけでもなく、まともな会話をしたことのない両者が互いの家庭事情まで知っているはずがない。
「オレは違う!」
即座に否定を吐く。
それは、居場所のなさを「弱さ」と認識したからではない。
「オレはあいつらの頭だ! 居場所を作って、守って、引っ張っていってやるだけだ!」
かつて、兄がそうしてくれたように。
絵に描いたような駄目親父と、子を捨てて出て行ってしまうような母親の間に生まれた紋土は、これまた絵に描いたような荒んだ家庭の中で育った。一見、安心して身を置ける居場所にはなり得ない場所だ。しかし、彼には兄がいた。
いつも優しく己を守ってくれる兄は、いつの間にか他の連中にまで優しく手を差し伸べ、新たな居場所を作り上げていた。最前線に身を置き、周囲と自分を守り、引っ張って行ってくれていたことは忘れられない。
紋土はいつも兄のようにありたいと思っていた。今も思っている。そして、これからもずっとそうなのだ。
「なるほど」
二人の間に距離ができた。
互いに肩で息をし、ボロボロな状態だ。
「キミは強い」
唇の端から流れている血を拭いながら、石丸は言う。
真っ直ぐに受け取るより他にない声を、彼は紋土に向ける。
「あ、当たり前、だろーが」
貫かれた胸が痛い。
自分は強いと言い聞かせてきた胸が、第三者からの言葉で軋む。
「単純な力の話ではない。
心も強い人間だ」
刺さった言葉がさらに深く深く埋まろうと力を入れてくる。じくじくとした痛みに紋土は顔をしかめかけたが、どうにか堪えた。こんなことで「弱さ」を見せるわけにはいかない。
「だからこそ、キミの強さはもっと多くの人のために使うべきではないのかね!」
石丸の拳が紋土の顔面にめりこんだ。
紋土が油断をしていたわけではない。蓄積されていたダメージもあいまって、拳の速さに目が追いつかなかったのだ。
「ぐあっ!」
耐えることのできなかった呻き声が上がる。しかし、紋土は倒れない。ふらつき、後ろに後退しながらも、まだ地面を踏みしめている。
「居場所を作るのは素晴らしいことだ。ボクのような凡人にはそうそうできないことだ。
今日のようにカツアゲされている学生を助けたことも素晴らしい」
肩で息をしながらも、石丸は言葉を続けた。
「だが、キミほどの強さを持った男ならば! もっと視野を広く持てるはずだ!
騒音に迷惑している人やキミ達の姿を見て怯えている人も大勢いるのだぞ!
何故、もう一歩上を目指し、キミ達よりもずっと弱き者の助けになれないのだ!」
紋土は地面を蹴り上げ、石丸の懐に飛びこむ。その勢いのままに、拳を彼の腹へ入れる。
腹筋に力を入れていたとしても、紋土の拳は重い。石丸は声にならぬ声を上げ、後ろへ下がった。彼もまた、倒れない。
「うるせぇ……」
石丸から目を離さないまま、紋土は小さく零す。
「何でてめぇが!」
拳を振り上げる。
石丸も同じような動作をしているのが映るが、両者とも体の動きを止めない。
真逆の二人であるとは思えぬほど、同タイミングで拳が交わる。二つの拳は、互いの顔に当たった。クロスカウンター。それは互いにトドメを刺す結果となった。
ぐらり、と彼らはまたしても同じタイミングで体を揺らし、草原に体を横たえる。
「くそっ……」
見上げた空は、すでに赤から紫へと変化していた。
もうすぐ、寮の門限になるはずだ。不良である紋土はともかくとして、規則に厳しい石丸がこの事態をなんとも思わないわけがない。
「あぁ。ボクは今日、二度も規則を破ってしまった……」
単車の件と寮の門限。石丸は悲しげな声をあげる。
すぐに帰らなければとは思うのだが、如何せん体が動かない。体力には自信がある方なのだが、日本一の暴走族を率いている男との喧嘩は予想以上に過酷なものだったのだ。
無念の声を聞きながら、彼とほとんど同じような状態の紋土は複雑な感情を抱いていた。
石丸が言った言葉が、どうも兄の言葉と被る。
強い男は、弱い奴を助けてやらないといけない。そのためには、多くのものを見なければならない。
「何で、てめぇが兄貴と同じことを言うんだよ……」
小さく零した。誰にも聞き取られることのなかった声は、静かに消えていく。
風紀委員である石丸が、暴走族の元総長である兄と似ているはずがない。そう思っているのに、やはり似ているのだ。熱いところも、真っ直ぐなところも。
紋土の心にできた傷がそっと手を伸ばす。
「思ってたよりも、てめぇは熱くて良い漢だな」
「大和田君の方こそ。
キミがあれほど熱い気持ちを持っていたとは、思わなかった。すまない」
素直な謝罪が入る。意固地にならず、自分を省みることができる人間は案外希少だ。
「……よし。今日からオレ達は兄弟だ」
「何? ボクとキミとの間に血縁関係はないぞ」
「バーカ。血の繋がりがなくたって、義兄弟にはなれるだろ。
オレとお前は互いを認め合った漢だ。ただの男友達よりも、ずっと強い絆で結ばれるべきだろ?」
どうにか体を動かし、石丸の方へ目を向ける。見れば、石丸も同じようにして紋土の方を見ていた。
前々から、妙なところでタイミングのあう仲だとは思っていたが、こうしてみればそれは必然のことだったのかもしれない。
「そうだな。兄弟」
「おう。兄弟」
二人は大きな声で笑いあった。互いを認めあうということは、自身の体がどのような状態であったとしても、清々しさを感じるものだ。
紋土もその清々しさを身に宿していた。ただ、その反面、紋土の心にできた傷は、嫌な音をたてて膿んでもいた。己の「弱さ」から目を背けるために、心の底から認めることができた男を代償にしてしまった。
自分勝手で、女々しい自分に吐き気がする。
心の片隅でそんなことを思いながらも、紋土は笑う。「弱さ」を奥底に隠し、別の感情だけを外に示す、というのは、もう慣れきってしまった行為だ。今さら躊躇することもない。
大和田紋土は、その日、代替品を手に入れた。
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