これより、物語の幕が上がります。
 冷たく、暗い物語。
 どうぞ、最後までお付き合いくださいますようお願い申し上げます。

 それでは物語の始まり――。




【避けられ続けた黒猫は虎猫と共に闇へと堕ちる】



 狭く、汚い路地裏には多くの孤児がいた。
 親に捨てられた子供。親を殺された子供。そんな子供を狙う大人も数多くいた。無法地帯。そんな言葉がよく似合う場所だ。
「今日も上手くいったな!」
「ああ!」
 地獄のような世界で、笑いあう二人の子供。
 黒い瞳に黒い髪を持った子供は楽しそうに銃を構える。
「本当にキッドは銃を使うのが上手いよな」
 ナイフを手のひらで遊ばせているのは赤い目が印象的な子供だ。
 二人は気づいたころから仲が良く、お互いに協力しあいながら今まで生きてきた。銃を使い、ナイフを使い、誰かを殺して奪う。そんな汚い行為が正当化される世界なのだから、仕方がない。
 いつ死ぬかもわからない生きかただったが、それを悲観できるほど二人は幸せな世界を知らない。
「そうだ、これやるよ」
 赤い目の子供がキッドに一つの箱を渡す。
「これ、弾じゃねーか。どうしたんだ?」
「なぁに、ちょっとな」
「……サンキュ、マタタビ」
 銃を持っていたとしても、弾がなければそれはただのオモチャにすぎない。
 マタタビのナイフと違って、キッドの武器にはかぎりがある。
「ま、これからもよろしく」
「おう!」
 生きていくことに必死だった。
 朝目が覚めて、まず隣を見る。ある日隣が死体になっていても不思議ではないから。お互いに存在を確認し合いながら、今日も悪事を働く。それがやってはいけないことだと二人は知らない。
 知っていたところで、止めるわけにはいかない。
「やあ、キッド君」
 汚い路地裏に、小奇麗なスーツを着た男がやってきた。
「んだよ。あんた見たいな人にここは似合わないぜ?」
「とっとと帰れよ」
 二人に睨まれ、男は軽く肩をすくめる。
「君達のことは噂で聞いていますよ。
 なんでも、かなりのワルガキだとか」
 男の表情が人を見下す類の笑顔だと二人は知っている。
「へー」
「そのワルガキに何の用だ?」
 ガラクタの上に立ち、男を見下ろす。子供ながらに威嚇しているのだ。
「私はね、キッド君。君の腕を買いにきたんだよ」
 男が指を鳴らすと、後ろから黒スーツの男が二人やってきた。手に持っている鞄が開かれると、そこには見たこともないような大金が詰められている。
「この程度の金、君ならすぐに稼げるよ」
 笑う男に二人は恐れを抱く。
「あんた……何もんだ?」
 震える声で尋ねる。
「『サクラファミリー』 マフィアのボスさ」
 二人はそっとお互いの手を握る。
 サクラファミリーの名を知らぬ者などいない。ここ一体を締めているマフィアだ。最近では『ニャンニャンファミリー』と対立しているとの噂がある。
「キッドを、連れて行くのか?」
 手を強く握り、尋ねる。
「ああ。断るのなら、無理にでもね」
「――――っ」
 偽りのない目で告げられた。
 何をしてでもキッドを連れて行く気なのだ。選択肢など始めから存在していない。
「……一つだけ、条件がある」
「君にその権利があるとでも?」
「ある」
 目をそらさずに、男を見る。
 しばらく無言でにらみ合った後に、男が口を開く。
「何だい? 少しくらいなら聞いてあげよう。
 ボクは優しいからね」
「マタタビも一緒なら、いく」
 今さら離れることなど考えられない。
 危険が伴うかもしれないが、それ以上の物も手に入る。金があれば、食べる物も十分にあるだろう。生きるか死ぬかの世界はここも同じだ。
「行くよな?」
「ああ。お前が言わなかったら、オレから言ってた」
 マタタビはキッドの手を強く握る。
「いいだろう。
 マタタビ君もそれなりにナイフを使えるみたいだしね」
 キッドとの待遇の差に眉を寄せるが、何も言えない。自分の技術が人並みだということは自分が一番よく知っている。
「それでは行こうか。私達の家へ」
 二人は男に誘われるがまま、黒い車に乗り込む。



 
 
 
 



第二幕