盗賊ギルドというものが存在している。そのことは誰もが知っている。だが、そのギルドを実際に見た者は、実際に所属している者達しかいない。
その理由をクロ達は始めて理解した。
「こ、ここか……?」
「おう。しばし待たれよ」
そう言い残し、マタタビは茂みの中へ入って行く。クロ達の目の前にあるのは鬱蒼と茂る草。付け加えるのならば、クロ達の背後にもその草は覆い茂っている。
残された三人は呆然とそこに立っている。そもそも、今クロ達がいる場所は、本来ならば人が入いることを許されていない。盗賊ギルドは犯罪を黙認されているとは聞いていたが、まさかギルド支部がある場所からして犯罪だとは思っていなかった。
下手に動けば、ギルドの者から敵だと認識されかねない。
いつまでここで立っていればいいのだろうかと思い始めたころ、ようやくマタタビの声が聞こえた。
「よし。話はついた。行くぞ」
真っ直ぐ自分の後をついてこいというマタタビの後ろを、クロ、ナナ、ミーの順番で歩く。
マタタビの歩く道は到底人が歩くような道ではなかった。ギルドの者が出入りしているのならば、多少の道筋はできてもおかしくないはず。だが、クロ達が歩くのは文字通り『道なき道』だった。
「ここだ」
マタタビの前には小さな扉。当然、その扉の向こう側へ行くのだと思っていた三人は、マタタビが扉の右隣に手をつき、右へスライドさせたことに目を白黒させる。
「こんなあからさまな扉に入るわけがないだろ」
当たり前のように言い、奥へ入っていくマタタビ。
「ちなみに、あの扉の向こうはどうなってんだ……?」
クロが尋ねると、マタタビは今日の天気について話すかのように自然に言った。
「落とし穴がある。下には竹やりがびっしりだから、まあ生きては帰れんな」
思わずナナが息を飲む。
クロとミーは予想していたことだったが、ナナからしてみればそのような罠が待ち構えていたと思うだけで恐怖なのだろう。
「拙者がついてるから大丈夫だ」
ナナを励ますかのように、マタタビは優しく言った。だが、マタタビの真後ろにいるクロには、マタタビもここにどのような罠があるのか、警戒しながら進んでいることがわかる。
自分のすぐ後ろにクロを置いたのも、万が一見落としていた罠があったとしても、クロならば大丈夫だろうという迷惑きわまりない憶測からなのだろう。
いっそのこと、後ろから突き飛ばしてやろうかとも思ったのだが、それを実行した場合、ここから抜け出すことも困難となるのは目に見えていた。
「あと少しだ」
マタタビがそう言ってからしばらく進むと、行き止まりがあった。またスライドさせるのだろうと思っていたのだが、マタタビはその場にかがみこむ。
どうやら、地面との境目に指を入れる部分があるらしい。そこに指を入れたマタタビは扉を上へと上げた。
「お。マタタビだ」
「聞いたぜー。ゴッチを裏切ったんだって?」
扉の向こう側には見るからに悪党面の男や一見普通の市民にも見える者達。ニヤニヤとしたその表情で言うのはゴッチとマタタビのこと。盗賊ギルドの情報の早さに、クロ達は驚きを通りこして、感心してしまう。
「拙者は元々ああするつもりだったんだ」
「はいはい。で、そっちの奴らは?」
クロ達に向けられた瞳は、マタタビに向けられていたものとは全く違っていた。
冷たい、敵か味方かを判断するような瞳。
「拙者の弟分とその仲間だ」
「誰が弟分だっ!」
気恥ずかしいのか、顔を赤らめて否定するクロ。それを軽くあしらうマタタビ。その姿はどうみても仲のよい兄弟だ。
「へー」
小柄な男が、ミーに興味を示したように近づく。
一瞬体を強張らせたミーだったが、次の瞬間には杖に仕込まれた刃を男に向けていた。
「ミー君?!」
ナナが驚きの声を上げるが、ミーは男を睨みつけたまま。
「……よく、気づきましたねぇ」
そう言って、小柄な男は一歩下がる。その手には小刀が握られている。
「ミー君は強いぜぇ? まっ、オイラほどじゃねーけど」
「ちょっと! 何でボクが弱いみたいな話になってるのさ!」
「もー。やめてよ、二人とも」
談笑する三人をマタタビは遠目で眺める。
「気のよさそうな奴らじゃねぇか」
「ん? 拙者の弟分とその仲間だからな」
嬉しそうに言うマタタビを見て、男はかすかに笑う。
「何だ」
かすかな笑いを見逃さなかったマタタビは不思議そうな目を男へと向ける。
「いや、混ざりたそうだと思ってな」
「そんなことは――」
「なあそうだろ? マタタビ」
言葉を交わしていた男とマタタビの間に、クロが割り込んできた。
途端に、三人の世界は四人の世界へと変わる。
「ふっ……。楽しそうじゃねーか」
そんな様子を眺めていた男は楽しそうに微笑んだ。
to be...