情報の示すがままに魔女の住みかを探していた。町の外れに、隠そうともせずその家は建っているという。
もう見え始めてもいい頃だというのに、目的の家はまったく見当たらない。見るからに魔女が住んでいそうな家ということだったので、簡単に見つかるだろうと鷹を括っていたのが悪かったのだろうか。
「あー。本当にその情報正しいのかよ」
「信用してないなら別にいい」
そんなことはないと言いきらないのは、偽の情報を掴むこともあるからだ。偽の情報の可能性がないとは言わないが、マタタビは情報が正しいと信じている。
マタタビが信じるならばと、ナナも情報を信じて魔女の家を探す。当然ミーも魔女の家を探す。蚊帳の外となってしまったクロも文句を言いつつ探し始める。多数決を覆すことは相当の体力を消費することであり、そこまでして通したい意地でもない。
「ん?」
三人から少し離れたところにいたクロが見つけたのは、魔女の家ではなくチンピラに絡まれている青年だった。ひょろりとしたもやし体系の青年は、ゴツイ体格をしているチンピラ共からしてみれば標的に最適の人材なのだろう。
弱い者虐めはよくない。そう考えるのはミーやナナだ。マタタビは我関せずを貫くタイプであるし、クロは弱い者虐めをする側の人間だ。だが、青年に絡んでいるチンピラ共はクロの嫌いなタイプだった。
自分よりも強い者が入れば媚へつらい、弱い者にその鬱憤を晴らす。男ならば強い者にも弱い者にも同じ態度でいろというのがクロの考えだ。
クロは腰のホルダーから銃を抜き、ためらいもなくチンピラ共に向かって銃弾を放った。銃弾はチンピラのリーダー格であろうと思われる男の髪を数本地面へ落とした。
平和な町外れの午後に響いた銃声は、一瞬の静けさを作り出した。
「――何してるんだよっ!」
静けさを打ち消したのは駆け寄ってきたミーの怒声だった。
それを引き金に、マタタビとナナがクロを怒鳴りつけ、町の人々がこそこそと何かを囁き始める。沈黙が消え去った後も、しばらく呆然としていたチンピラと青年だったが、意識を現実へと引き寄せることに成功したチンピラが青筋を立てて怒鳴る。
「貴様っ! どういうつもりだ?!」
殺気だった声に、ナナが一瞬身をすくめるが、当の本人は飄々としていた。
「だーって、ムカつくんだもん」
ニタニタといやらしい笑みを浮かべる。
クロの態度にチンピラ共はナイフを取り出す。彼らにはクロの腰にある剣が見えていないのかもしれない。
「クソ野郎!!」
ナイフを突き刺そうと突進してくるチンピラだったが、クロはわずかな動作でその攻撃から身をかわす。攻撃が避けられたチンピラは無防備だった。
鋭く光るナイフを握っている手を掴み、首に腕を回して締め上げる態勢を取る。
「お前らそれ捨てねぇと、こいつがどうにかなっちまうぜぇ?」
ハッタリに決まっていると考えるチンピラ共はナイフを捨てない。その様子を見ると、クロは掴んでいる腕を無茶な方向へと曲げる。悲痛な呻き声がチンピラの口から漏れた。
ナナもミーも、クロはやると言ったらやるとわかっている。なので、チンピラ共に言うことを聞くように促す。マタタビはこのまま放置していたら、クロはうっかりでチンピラの首を絞めて殺してしまうだろうと予測していた。その証拠に、チンピラの口から悲鳴が上がる。
「あ、関節外れちまった」
照れくさそうに笑うが、笑いごとではない。チンピラ共も、仲間がどのような人物に捕まってしまったのかようやく理解できたようで、大人しくナイフを捨てる。
「そうそう。始めっからそうしとけよな」
満足そうに笑い、未だうめいているチンピラを解放する。そのついでに蹴りをいれたことには誰も触れない。
チンピラ共の前にまできたクロは、拳を握り、一人ずつ顔面を殴っていく。誰一人として文句を言わないのも、逃げださないのも、先ほどのクロが恐ろしかったに他ならない。
「あーすっきりした」
「あまり目立つ行動をしないの!」
チンピラが全て横になったのを見て、クロはようやく暴力をやめた。
ナナに叱られ、ミーに説教をされ、マタタビに嫌味を言われた。
「あ、あのー」
気弱そうな声が聞こえた。
「ありがとうございます」
声をかけてきたのは絡まれていたもやし体系の青年だった。チンピラを退治してくれたことに対してのお礼なのだろうが、助けたつもりがないクロからしてみれば余計な言葉だ。
「別に」
そっけなく言ったのだが、なぜか青年は嫌な顔一つしない。むしろ、先ほどよりも目をきらめかせている。
「ボク、鈴木っていいます。あなたの弟子にしていただけませんか?!」
「…………はぁ?」
たっぷりと間を開けてからクロは言った。同時に、マタタビとミーが吹き出す。
「師匠! お願いします!!」
吹き出した二人を殴ってから、クロは鈴木と向きあう。
「何も言ってねぇのに、呼び方が『師匠』になってるのはまぁいいとして、何でオイラが弟子をとんなきゃいけねーんだよ」
心底嫌そうな顔をしてのける。
対して鈴木は先ほど絡まれていたとは思えぬほどの根性でクロに弟子にして欲しいと頼みこんだ。
結果、折れたのはクロだった。狙撃も喧嘩も何もかもが独流であり、何も教えることはできないとも言ったが、鈴木は漢の姿を見習いたいと言った。
「そうだ。お主、この町の住人ならば『めぐみ』と呼ばれる女を知らないか?」
ついでに、聞いてみる。
「勿論知ってますよ! ボクの奥さんですもん」
一瞬、四人の時間が止まる。
偶然クロが助けた人物が、目的の人物の夫だと誰が思うだろうか。
「……お前、結婚してんのか」
「はい師匠! ラブラブです!」
だらしのない顔をしている鈴木の顔面を殴って、クロはめぐみのもとへ案内しろと要求した。
「ふぁ、ふぁい」
殴られた拍子にでた鼻血を抑えながら、鈴木はクロ達を自宅へと案内した。
to be...