鈴木に案内された家は、確かにいかにも魔女が住んでいそうな雰囲気だった。それは、オンボロだという意味でだ。
「……ここに、住んでんのか?」
鈴木の身なりをもう一度よく見てみるが、金に困っている風ではない。
「ボクら、こういう家が好きなんですよ」
そう言うや否や、鈴木は家の良さについて語り始めた。魔法の気配だとか、雰囲気重視だとか、風水だとか、一般人には理解しがたい知識を次々と披露していく。
上機嫌に話続ける鈴木の声を受け流しつつ、四人はこの男がオタクと呼ばれる人種であることを把握した。さらに、先ほど『ボクら』と言っていたことを考えると、めぐみも同じようなオタクである可能性が高い。
「まあ、とりあえず入ってみてくださいよ!」
話したいことをあらかた言い終えたのか、ようやく扉を開けてくれる。鈴木自身がクロ達の歩みを止めていたということには気づいていないらしい。
「おじゃましまーす」
行儀良く挨拶をするのは、ミーとナナだけで、クロとマタタビは無言で辺りを見回す。家の中に入ってみると、外観ほどボロくはない。むしろ、綺麗なシャンデリアなどがあって、貴族が住んでいてもおかしくないような内装である。
他人の家だというのに、四人は各々勝手に動き出す。
「あ、これ結構すごい美術品だよね」
家に飾られている装飾品に目をつけ、一つ一つ鑑定しているのはミーだ。鈴木はそれらの価値がわかってもらえて嬉しいのか、ミーの傍へ行き、それを手に入れるための苦労などを話している。
「すっごーい」
綺麗な家で、お姫様気分に浸るのはナナだった。もしこんなところで生活していて、クロが執事だったらなどと、ありもしない妄想を展開させる。
「んで、めぐみって奴はどこだ?」
「こら、勝手に動き回るな!」
扉を無断で開けようとするクロと、マタタビ。唯我独尊すぎるクロに手を焼いたマタタビは鈴木を呼び、すぐにでもめぐみのもとへ案内するように促した。
ミーやナナはまだ家を堪能したりないようだったが、話が終わった後にでもしてくれと頼んだ。
「こちらです」
案内されたのは、二階にある大きな扉だった。プレートに『書斎』と書かれている。
「めぐみさーん。お客さんです」
ノックをしながら声をかけると、扉の向こう側から声が返ってきた。
「入れて」
若い女の声。
鈴木が扉を開けた。
「あたしに何か用?」
先ほど聞こえてきた声と同じ声だった。
大きな椅子に腰をかけ、分厚い本を手にしているめぐみは、ごく普通の女に見えた。
「あんた、人を生き返らせることができるって本当か?」
歯に絹を着せない質問に、めぐみは立ち上がり、頭をかく。
「できるかできないかって言えば――」
分厚い本を閉じ、目を細くする。
「できるよ」
その言葉に四人が喜びの表情を浮かべようとしたが、その前にめぐみの言葉が耳を突いた。
「でも、それは完全な形じゃない」
生き返らせることはできるが、それが完全な形ではないと言う。
四肢が欠けるのかと問いかけると、めぐみは違うと返す。
精神が壊れるのかと問えば、惜しいが違うと言う。
「いいかい? 人は死んだらあの世へ行くんだ。生き返らせるってのは、そこから連れ戻すってことさ。
だけどね、あの世は怖いところだよ。行くときは何てことない。そのまま進んで、転生の中に入っちゃえばいい。でもね、戻るときはそうはいかないんだ」
真剣で、真面目な口調だった。
「引き返すとき、あの世はその魂を連れ戻されまいと、たくさんの邪で魂を縛ろうとするんだ。でもね、生き返らせるとき、その邪はくっついたままなんだよ。
黒く染まった魂は、人を変える。魔の者を呼び寄せる力をつける。そんなの、人間って言えるのかは、あたしは知らない」
悲しい言葉に、ナナは顔を青くして口元を覆う。コタローの話を聞いたときから、予想はついていた。友人を救いたいという純粋な気持ちが、今の魔王を作り出してしまっているのだと。わかってはいたが、専門家から直接言われた言葉は重い。
「どうにか、その邪を消し去る方法は、ないんですか?」
震える声で、ナナが尋ねた。
to be...