「あるわよ」
先ほどまでと同じ話題をしているとは思えぬほど軽い口調だった。
「一番簡単なのは、殺せばいい」
それができれば何の苦労もない。
ナナは怒りをあらわにして、めぐみを怒鳴りつける。
「まあ、落ち着きなって」
めぐみは二本の指を立てて、二つ目の方法を口にする。
「あたしがその子の精神世界に入って、邪を払う」
誰もが口を閉じることができないでいた。
魔女であるめぐみならば、できないことではないだろう。だが、それは容易なことではないだろうと予想がつく。その証拠に、鈴木は冷汗を流しながらめぐみを説得している。
「ま、待ってくださいよ!」
「ん?」
「そんな危険なことさせれません!」
怯えるような声に、他人の精神世界への干渉、その中で邪を払うということの危険を知る。しかし、やめてくださいとは誰も言えずにいた。
今日始めて会ったばかりのめぐみ。古くからの友人。天秤は揺れる。
「……それは、あんたじゃないと駄目なのか?」
クロが口を開く。
「どういう意味だい?」
予想通りの質問なのだろうか、めぐみは口角を上げてニヤついている。
まるで、魔女の手の上で踊っているような感覚に、クロは舌打ちをするが引き下がれない。
「オイラを、精神世界へ送ることはできねぇのか」
めぐみ以外の全員が驚きに目を見開き、クロの方を凝視する。
「できるよ。先着一名様だけどね」
ならと、クロは目を閉じた。
「送ってくれ。オイラを、あいつの精神世界とやらへ」
開かれた目にはゆるぎない意思が宿っていた。
「オッケー」
クロの心意気が気に入ったのか、全て自分の思い通りに動いていることが嬉しいのか、めぐみは始終ニヤけ面だった。
「無茶ですよ!!」
まとまった話を再び崩そうとしたのは鈴木だ。
めぐみを説得したときと同じように、クロにすがりつきどうにか諦めさせようとする。
「ただでさえ、精神世界はその人の影響をモロに受けて出来てるんですよ!
邪がついた状態の精神世界なんて、どんなものか想像もつかない!」
精神世界の恐ろしさを、一から語っていく鈴木に、ミーやナナは青ざめる。マタタビが平然とした顔をしているのは、今更何を言ったところでクロの考えは変わらないと知っているからかもしれない。
「やる。何て言われようとな」
「師匠……」
鈴木は眉を下げる。
今日会ったばかりの人間をここまで心配できる優しさが、クロには少しだけ痛い。
「――行きましょうか」
めぐみが立ち上がり、指を一振りする。
すると、何もなかった空間から鞄が出てくる。さすがは魔女といったところだろうか。
「めぐみさん!」
止めようと必死になっている横から、話を進めようとするめぐみに鈴木が強めに言う。
「あんたも男なら、男のすることにぐだぐだ言うんじゃないの」
鈴木のあたまをくしゃりと撫でて、めぐみは明るく笑う。
「こいつなら大丈夫よ。きっとね」
どこに根拠があるのかもわからない。クロとめぐみとは初対面で、お互いの名前以外は何も知らないと言っても過言ではない。
「素性がわからないから、信用できない。
……そんな女々しいこと言わないでよ? 男なんだからね」
ウインクを一つクロに向けて。
「……ったりめぇだろ」
拳をめぐみに向けて。
「そうこなくっちゃ」
拳同士をつきあわせる姿は、男同士の友情に似た光景だった。
to be...