まだ眠りの中にいるミーとナナを叩き起こしたクロは、先ほど聞いたコタローからのメッセージを二人に聞かせた。ゴローとチエコの存在を知らないマタタビには、クロがコタローの言葉を邪魔しない程度の音量で説明した。
その声色と、瞳に宿る力を見て、マタタビはクロがゴローと呼ばれる少年を助けるのだろうと簡単に想像できた。
「よくわからんが……。やるのだろ?」
どのような困難が待ち構えていたとしても、クロは仲間を助けるために突っ走るのだろう。なら、それを手助けしてやりたいとマタタビは思うのだ。
コタローからのメッセージを聞き終えた二人の目も、クロと同じような瞳をしていた。
「クロ……助けよう。二人を」
ミーの言葉にクロは静かに頷く。
とはいえ、実際問題どうすればいいのかわからない。魔王と化してしまったゴローを元に戻すことができるのならば、それが一番いいに決まっている。いくら諸悪の根源とはいえ、ゴローを殺す気にはなれない。
「光魔法、役に立つかな?」
反魂法で甦った人間の話しなど、聞いたことがない。ましてや、魔王となってしまった人間を戻す方法など、普通のやり方で知ることができるとは思わない。
真剣に悩む三人を、マタタビは一歩離れたところから見ていた。ゴローやチエコのことをよく知らないため、三人ほど本気になれないというのも本当なのだが、マタタビには気になっていることがあった。
ゴローを元に戻すということは、再び殺すことと変わりないのではないかということ。
本来は死んでいるはずの人間なのだから、元に戻せば死ぬということが自然なのではないだろうか。
「…………」
マタタビは自分の思う仮説を口には出さなかった。
おそらくは、誰もがこの仮説に気づいている。だが、それでも口には出さない。出さなければ、どうにかなると思っている。そして、どうにかするつもりでいる。
眉間にしわを寄せ、マタタビはたった一つ、自分の中にある情報について考えていた。
ゴッチとともにすごしてきた時間。マタタビは盗賊として、ギルドに所属していた。盗賊ギルドは、合法とされてはいるが、深く踏み入れれば非合法の情報、物品が溢れている。
そんな情報の中で、非合法の魔術を使う女のことを耳にしたことがある。その女にかかれば、死人も甦らせることができるらしい。
今、ゴローを元に戻す手がかりとなるのは、その女だけだろう。わかってはいるのだが、それを言い出す気にはなれずにいた。盗賊ギルドはお世辞にも綺麗なところではない。
世界の汚れを集めたような腐ったところだ。
そんな世界にいたと、クロに思われたくなかった。クロのことなので、自分のせいでマタタビがあのような場所にいることになってしまったと、自分を責めかねない。
気配を消して、一人で女を捜すという手も考えたが、その場合、再びクロと合流できるかどうか怪しい。素直にこの話をすれば、絶対にクロは盗賊ギルドまで付いて来るだろう。
頭の中で様々な考えが巡る。だが、結局何も思いつかなかった。
「で、さっさと話せよ」
突然、クロが振り向いてマタタビに言った。
クロが何を言っているのかわからず、マタタビが呆然としていると、クロは薄く笑いながらお前の考えなどお見通しなのだと言う。
「……そうか」
マタタビも薄く笑う。
「拙者がいたギルドで、死人をも甦らせることができる女がいるという情報を聞いたことがある。行ってみるか?」
この提案に反対する者はいない。
盗賊ギルドにいいイメージは持てないが、そこへ行く以外、手がかりはないのだ。
「なーんか。ボク達、役立たずってかんじだねぇ」
近くの盗賊ギルドについて話し合うクロとマタタビの後ろで、ミーがポツリともらした。
ミーは自分とクロは中々にわかり合えているコンビだと思っていた。だが、急に現れたマタタビはその上を行く。多くの情報を持ち、クロと息の合っているその姿を見ていると、ミーは自分がここにいる意味がわからなくなる。
「でも、クロちゃん楽しそう」
ナナもまた、マタタビの介入により、クロの傍に近づくことができなくなった。
再会を果たした二人に、遠慮しているというのも勿論あるが、二人の間には他者を寄せ付けない空間がある。少しばかり悲しいが、クロが笑っていられるなら、それもいいかとナナは思う。
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