『死を受け入れる』

 死。それは生きていればいつかくるものだ。恐るるに足らん。死を恐れ、悲しむのは残された者だ。拙者はそれをよく知っている。キッドも、それは同じだ。
 だからこそ、数年前ミーを壊したのだろう。
 あの科学者が死んで、数日。キッドはふらっと出ていった。何をしにいくのか問い詰めるようなことはしなかった。あやつも拙者もそんな子供じゃない。
 帰ってきたとき、奴は何抜け落ちたような表情をしていた。その表情一つでキッドに何があったのか理解できた。
「キッド……」
 キッドのしたことを責めるつもりはない。何故ならば、拙者がその役を担っていてもおかしくなかったからだ。
「マタタビぃ……。ミー君を、オイラが、壊した」
 一つ一つをハッキリ区切り言う。悔いてるようすも悲しむ様子もない。しなければならないからした。けれどもしたくなかったと言ったところか。
「そうか」
 他に言うべき言葉が見つからなかったからそう答えた。
「えらくあっさりしてるな」
 少し驚いたように、けれども予想通りと言った風に言う。
 生きていれば何時か死ぬ。だが、キッドやミーは自然の死はやってこない。それでもミーは望むだろう。己の死を。誰かが殺してやるのが一番いい。
「数日様子を見たかいあったぜ。やっぱり剛の奴、ミー君が自殺できねーようにしてやがってよ……」
 いつも通りの調子。それが逆に痛々しい。無理をする必要などないというのに。
 キッドは残される悲しみを知っている。知っているが涙を流さない。自分の弱さを見せない。だから拙者はキッドの傍にいてやらんといかん。
 でないと、こいつの悲しみに気づいてやれる者などいなくなってしまう。
 だから少しでも長く生きようと思った。一日でも長く、傍にいてやりたかった。少しでも一緒に暴れてやりたかった。悲しみを忘れさせてやりたかった。
「……死ぬのか?」
 冷めた声色。必死に感情を押し殺してる証拠だ。
「たぶん、な」
 ああ、せっかくここまで来たのに、見つかってしまうとは情けない。せめて死体は見られぬよう。死んだと悟られぬよう、桜町から離れたというのに。
 拙者がキッドのことを理解しているように、キッドも拙者のことを理解しているということか。
「…………悪かったな」
 何に対して謝ってるのだ? もう、それを尋ねる力さえ残っていない。
「目とか、さ」
 さすがだな。言わなくても伝わる思い。目……。そんなこともあったな。いつまでもそんなことを気に病む必要などないというのに……。
 キッドが拙者の体を抱き込んだ。暖かい。キッドの体は機械だが、確かに暖かかった。
 震えるキッドの体を抱きしめてやれるほど拙者の体に力は残っていない。
 死は怖くない。だが、心残りならある。
 キッドを一人置き去りにしなければいけないことだ。

ナナ