遠出
「目標との距離は?」
「五M!いつでもいけるってばよ!」
「俺もいいぜ」
「私も」
「よし!やれ」
三人が一斉に目標へと飛びかかる。
「つっかまえたぁ!!」
ナルトが一匹の猫を己の腕へ収める。
当然のごとく抵抗してくる猫に顔を引っかかれているが、サスケは無視してカカシと連絡をとっており、サクラは笑っていた。
捕まえた猫を飼い主の待つ受付へと運んで行った。
『下忍の任務って大変なんだな……』
生まれてこの方、暗部の任務ばかりこなしてきたナルトにとって、下忍の任務なんて簡単なものだろうと思ってはいけない。
今までは自分のペースでただ相手を倒すだけ。それに比べると、下忍の任務は誰かと合わせたり、長々といつまでも終わらない仕事をしなければいけない。忍術を使ってもいいなら話は別だが、使えば実力がばれかねないので、本当に基礎体力だけの任務となる。
「さて、次の七班の任務はと…老中様の坊ちゃんの子守りに、隣町までのお使い、芋ほりの手伝い……」
三代目が任務を書いた紙を読み上げる。
「ダメー! そんなのノーサンキュ!」
どの任務もめんどくさそうなことこの上ないので、ナルトが胸の前でバツ印を作る。
「俺ってばもっとこう、スゲェ任務がやりてーの! 他のにして!」
ナルトの言葉に同意するような表情を見せているサクラとサスケ。
駄々をこねていると、イルカが身を乗り出して説教をする。ナルトの本当の姿を知っていても、イルカにとってナルトはナルトらしい。
イルカの説教に耳を貸さないナルトに火影が任務のシステムを説明する。
生まれてこの方火影から直接仕事をもらったことしかないナルトにとって、少し興味のある話だったので、ナルトは黙って聞いていた。
「じいちゃんはいっつも説教だってばよ! 俺ってばいつまでもイタズラ小僧じゃねぇってばよ! もっとスゲェ任務くんねぇと、任務やらねぇってばよ!」
ナルトの言葉の裏には、表でもそこそこ楽しめる任務をくれないと、暗部の仕事はしないという意味が込められていた。
今の木の葉は金蒼と朱九の二人がSSランクをほとんどこなしている。この二人が抜けるとなると、非常に不味い。二人が抜けることは、木の葉が滅ぶのと同じぐらい不味い。
「……Cランクの任務をやってもらう。……ある人物の護衛だ」
何とか考え抜いた上での発言であった。
『同時にSランク任務をやってもらいたいのだが、いいか?』
『OK。そっちの方が楽だし』
以心伝心の術を使い、他の者に悟られぬよう言葉を交わす。
『紅焔はどうするのじゃ?』
『ちょっと聞いてみる』
ナルトは少し意識をもぐらせ、紅焔を起こす。ちょうど寝ている時間だったのだ。
『紅焔。遠出の任務に行くことになったけど、どうする?』
『……ついていく』
呟くように言うと、紅焔は再び眠りについた。
度々ナルトの身体の外へ出ているため、妖力が不足しているのだ。
妖力を回復させるには、赤い満月の光を浴びたり、生きたままの生物を食べるとよいのだが、赤い月は滅多に出ないし、紅焔の本体に生きた奴を与えるには、ナルトがそれを食べなければいけない。さすがのナルトもそれはゴメンだった。
『一緒に来るって』
『また任務が入ったら鷹を送る』
『人使いが荒いな〜。でも、そういうの好きだぜ』
ナルトと三代目がこのような会話をしている内に、タズナの紹介が終わり、それぞれが遠出の準備をするため一端家に帰ろうとしていた。
門の外で集合すると、いつも通りにナルトが先陣を切った。
その姿に依頼人、タズナは不安を隠しきれないようである。
『(俺だって、こんな忍に護衛されたくねぇもんな〜)』
表のナルトは忍者として失格な設定とはいえ、依頼人の不安そうな顔をみると、もう少しまともな設定にするべきだったかと思わずにはいられない。
ようやく七班とタズナが進み始める。だが、それは護衛の任務というよりも、少々物々しい遠足みたいな雰囲気であった。
緊張も何もなく、サクラはカカシに波の国に忍がいるのかどうか聞いていた。
アカデミー一の秀才の割りに何も知らないのだと、思わず苦笑してしまうナルトであった。
「ま……安心しろ、Cランクの任務で忍対決なんかしやしないよ」
笑いながらカカシが言うと、サクラは安心したように笑っていた。
忍の任務に絶対はない。その証拠に、依頼人が焦ったような表情をする。そして何より、不自然に水溜りがあった。
ここ数日雨など降っていないので、不可解極まりないことに気づいてないのだろうか?
七班とタズナが水溜りの横を通り過ぎると、静かに忍が現れる。
一般人のタズナや、下忍のサクラやサスケはその気配に気づいていない。
どうするべきか一瞬だけ悩んだが、カカシもいることだし特に行動を起こさなくても平気だとナルトは判断した。
素早く刃のついた鎖でカカシが縛りつけられた。
「一匹目」
二人の忍が同時に鎖を引っ張る。
刃のついた鎖によって、カカシの身体はあっけなく切り刻まれた。
赤い血が飛び散る。少なくともナルト以外の全員はそう思った。
赤い血に見えたのは一種の幻術。幻術の効かないナルトには、丸太が切り刻まれたようにしか見えない。
「二匹目」
下忍のフリをするため、わざと動かないでいると、二人がナルトの背後へ忍び寄る。
いつもの癖で、攻撃しそうになるがぐっとこらえる。
動けないナルトを助けるかのように、サスケが動く。素早く、的確に。それは下忍としてなら、間違いなくトップクラスの動きであった。
意外な服兵に驚かされた二人の忍は、ナルトとサクラをそれぞれ標的にすることにした。
サクラはタズナを庇うように動き、サスケはそのサクラを庇うように動いた。
動けないことになっているナルトは、敵の爪に手を軽く引っかかれてしまった。
「……っ」
怪我は軽いものだが、爪に毒が仕込まれていたらしく、ヒリヒリと痛んだ。しかし、ナルトにとって毒とは染みる程度のものでしかなかったため、大事には至らない。
火影の家にいた頃から毒を食べていたのだ。知らず知らずのうちに毒を食べさせられ、それを紅焔が解毒するということが何年も続いていたのだ。
しかし、その紅焔は今眠っている。それも妖力が不足しているのだから、負担をかけないようにナルト自身の自己治癒力で治せるようしなくてはならない。
ナルトがチャクラを傷口に集中させている間にカカシが敵の忍を捕まえていた。
「怪我はねぇかよ? ビビリ君」
素直に怪我はないのかと聞けない自分の性格を恨みつつサスケが尋ねた。
「大丈夫だってばよ」
不機嫌そうな声で答えてやれば、サスケは安心したように微笑んだ。
サクラも心配そうに手の甲にできた傷を見ている。
下忍の二人がナルトを心配している間に、カカシはタズナを問い詰めた。
第十四話 桃地再不斬