対決
大きな首切り包丁がカカシの首と胴体を離れさせるために振られたが、カカシが間一髪身を伏せ、首と胴体がさよならすることはなかった。
首切り包丁はその勢いのまま、地面に突き刺さったが、再不斬は素早く首切り包丁を持つ手を変えてカカシの胴体を蹴る。遠心力がついた蹴りはカカシの身を高く昇らせた。
再不斬がその無防備な体を狙いに行くが、カカシが放っておいたまきびしによってその動きは封じられた。
だが、動きを封じることができるのも一瞬。再不斬はやけに重く感じる水の中から這い上がろうとしているカカシの後ろに再び現れた。
同時に再不斬は印を組む。
「水牢の術!」
再不斬が印を組み終えるとカカシを水牢が捕らえた。
「ククク……ハマったな。脱出不可能の特性牢獄だ!」
カカシを捕らえる水牢は再不斬の言う通り、一度入ってしまえば脱出不可能であった。牢としての役割を果たし、中の者を決して外には出さず、液体である水は純粋な力で破壊することもできない。
自らの失敗を戒めるカカシだが、そうばかりもしていられない。再不斬が水分身を作り、ナルト達を殺そうとしている。
「本当の『忍者』ってのは、いくつもの死線を乗り越えた者のことを言うんだよ」
それを言うならば、この中で最も忍らしいのはナルトということになるが、再不斬はそれを知らない。
「お前らみたいなのは忍者とは呼ばねぇ」
水分身が音もなく消えた。
次の瞬間、ナルトの顔面に衝撃が走った。あの程度の素早さならば見切れていたナルトだが、避けることもできず、ダメージを半減させるために顔をそらすこともできなかった。
万が一、実力がばれてしまってはことだ。
「お前ら! タズナさんを連れて早く逃げるんだ!」
カカシが叫ぶ。
今優先されるべきなのはタズナの安否であり、再不斬を倒すことでも、自分を助け出すことでもない。
そのことについてはナルトも同意していた。カカシは助け出さなくても自分でどうにかするだろうし、再不斬の始末をする必要もない。任務を優先するのは忍として当然の行動だ。
何とか表の仮面を被ったまま、サクラ達とタズナを連れて逃げようとした。したのだが、再不斬の足に踏みつけられている額宛を見たら気が変わってしまった。
自分になにか大切なことを教えてくれた恩師がくれたものをあいつは踏みつけている。
何か、自分の心の中にある大切なものを穢されてしまったような気分になった。
「うおおおおおおおお!」
何の捻りもなく再不斬の水分身に突っ込んでいく。あいてに反撃されるのも覚悟の上だ。
予想通り腹に一発くらったが、それ相応の仕返しはした。
サクラの怒鳴り声と同時に水分身が消えた。後にはナルトが持っていたはずのクナイが落ちている。
「おい……そこのマユ無し」
大切な物は取り返した。ついでに水分身も消した。
「お前の手配書にのせとけ! いずれ木の葉隠れの火影になる男」
後は本体を倒せばいい。誰にも実力がばれないように、上手く。
「木の葉流忍者! うずまきナルトってな!!」
金蒼としてではなく、ナルトとして相手をしてやる。
そのためにはチームワークが必要不可欠だが、今のサスケとなら上手くやれそうな気がした。根拠なんてものはない。ただ、できる。とナルトの第六感が告げている。
「さーて暴れるぜぇ……」
作戦を告げる時間はない。先ほど、ナルトが水分身を破壊したために、再不斬は明らかにナルトを警戒している。作戦をサスケに話す時間など与えてはくれないだろう。
再び水分身を出した再不斬は予想通り、すぐにナルトに襲いかかる。その素早さのために、カカシはタズナを守るという任務を優先させるように言うこともできなかった。
だが、心の中ではその必要がないことも知っていた。あのナルトが自ら戦いを挑んでいるのだ。負けるわけがない。きっとサスケ達を上手く煙に巻きながら再不斬を倒すのだろう。カカシの知るうずまきナルトとはそういう人物だ。
「さっきのには驚いたが、やっぱり甘いんだよ!」
首切り包丁を振り回しながら再不斬がナルトに言う。
「オレぁよ……お前らくらいの歳のころにゃもうこの手を血で紅く染めてたんだよ!」
再不斬の太刀筋をなんとか避ける演技をしつつ、再不斬の話を聞くナルトの心の中はあきれで一杯だった。
十二歳で手を紅く染めているなんてなんの自慢にもならない。
「こちとら三歳の時から真っ赤だっつーの」
小さく呟いたその言葉は誰の耳にも届かなかった。
十七話>