打ち合わせなんていらない。第一、そんなものをする隙を与えてくれるような敵ではない。
再不斬の攻撃を紙一重で避けていくナルトに嫌気がさしたのか、再不斬は標的をサスケに変えた。素早いその動きについていけなかったサスケは地面に叩きつけられた。
口から血を吐くサスケを見てナルトは小さく舌打ちをした。
再不斬を倒すことは簡単だけど実力を見せるわけにはいかない。
サスケを放っておけば楽だけどうちは一族の生き残りを死なせるわけにはいかない。
面倒だと思いつつも、ナルトは全てを投げだすわけにはいかない。
得意忍術ということになっている影分身を使い、再不斬を囲む。
「ほー影分身か。それもかなりの数だな……」
影分身は数が増えれば増えるほどチャクラを必要とする。普通の分身以上に。だからこそ再不斬は素直に感心した。小さなナルトの体の中には一体どれほどのチャクラがあるのかと。
ナルトの影分身達は各々クナイを握り、一斉に再不斬に遅いかかる。だが、個々の力はあくまでも下忍レベル。いくら数で圧倒していようとも再不斬には歯も立たない。
カカシとナルト、そして再不斬以外の者は勝てないと思いった。それほど再不斬は強かった。
「サスケェ!!」
力では勝てない。そんなことは百も承知だ。
ならばどこで勝つ? 頭で勝つに決まっている。
背負っていた鞄からナルトが取り出し、サスケに投げつけた物はこの事態を変える最終兵器。
ナルトの意図を理解したサスケは立ち上がった。
「風魔手裏剣 影風車」
普通の手裏剣とは比べ物にならないほどの大きさの手裏剣を手にしたサスケは高く跳躍した。
「手裏剣なぞオレには通用せんぞ!」
再不斬が言うが、そんなことサスケもわかっていた。だから、狙うのは目の前の再不斬ではなく、本体。
「なるほど。今度は本体を狙ってきたって訳か……が……」
身動きの取れない本体を狙う手裏剣はいとも簡単に受け止められてしまった。
だが、それで終わるのならば最終兵器の意味がない。
「手裏剣の裏に手裏剣が……!」
影手裏剣の術。
敵の油断をさそうこの技ならば再不斬を倒せる。サクラは一瞬そう思った。
「が、やはり甘い」
再不斬は軽く跳躍することにより、二枚目の手裏剣を避けてしまった。
その事態にサクラは絶望を感じ、サスケは口元を歪ませた。二段構えのありきたりな技で終わるわけがない。
二枚目の手裏剣は再不斬の後ろで姿を変えた。派手なオレンジ色の服を着た少年へと。
誰も気づきはしなかったが、ナルトは得物を狙う鷹のような目をしていた。確実に相手を死に追いやろうとしている鈍い光りを宿した瞳は瞬き一つで消えてしまった。
やるべきことをわきまえたのだ。
ナルトの放ったクナイは再不斬の顔に向かって一直線に飛んだ。
だが、そんなクナイを避けれぬ再不斬ではない。間一髪のところで再不斬はナルトのクナイを避けることができた。代償はカカシの解放とほんの少しの血。それとプライド。
再不斬にとっては大きな代償となった。それも、まだ小さな子供に支払わされた代償だと思うとよけいに腹がたった。
殺してやる。殺さねばならない。
先ほど受け止めた手裏剣を手にナルトに襲いかかろうとする再不斬を見たナルトはかすかに笑った。
カカシが下忍のナルトを救ってくれるとしっている。
「…………ナルト……『作戦』見事だったぞ……」
実力も感情も隠した完璧な忍の作戦だった。
再不斬の持つ手裏剣を手の甲で受け止めたカカシは言う。
「成長したな……お前ら」
当然だろ。という気持ちは内側に隠してナルトは笑う。
「へっ。カッとして水牢の術を解いちまうとはな……」
それこそお笑い種だとナルトは思う。忍が自分から術を解くなんてあってはならない。
カカシは術は解いたのではなく解かされたのだと言うが、そちらの方がマシだと思う。自分の意思ではない。そんな言い訳が成り立つのだから。
『馬鹿だな。言い訳もできないなんて』
返事は返ってこないとわかりつつもナルトは語りかける。己の中にいる者へ。
カカシと再不斬の心理戦などに興味はない。トロくさい印に興味はない。興味があるのは木の上に潜む少年。
「……ナゼだ……。お前には未来が見えるのか……?」
「ああ…………。お前は死ぬ」
カカシがトドメを刺すより一瞬先に再不斬に致命傷を与えた者がいた。
「フフ……。本当だ。死んじゃった」
ずっと木の上で潜んでいた少年だとナルトだけが知っている。
あっさりと再不斬を殺した武器は千本。カカシが再不斬の死を確認したのだから、間違いではないのだろう。少なくとも今は。
「ありがとうございました。ボクはずっと……確実に再不斬を殺す機会をうかがっていた者です」
少年は己のことを追い忍だと言い、カカシはそれを信じた。サクラやサスケは追い忍という存在すら知らなかったようだ。
そういえばアカデミーでも追い忍のことは説明されていなかったと思いあたり、ナルトは人知れずため息をついた。残酷な教育をしろとは言わないが、平和ボケした教育は確実に身を蝕む。
「…………ちっ」
納得ができないと言わんばかりにサスケが舌打ちをする。
少年はどう見ても自分達とそう変わらない歳のはずだ。それなのに、あまりにも大きな実力の差がある。
「この世界にゃお前達より年下で、オレより強いガキもいる」
世界は広い。そう言うカカシの言葉をサスケは黙って受け止めた。おそらくその脳裏には兄の姿があるのだろう。
十八話 休戦期間