とりあえず外に出た四人は基本中の基本であるチャクラの存在から入った。
ドベで馬鹿なナルトのために、サクラが簡単に説明する。サクラは案外教師に向いているのかもしれないとナルトは思った。
「そんなもん、体で覚えるもんだってばよー」
とりあえず駄々をこねてみると、意外なことにサスケが同意して来た。
「ナルトの言うとおりだ」
いや、言うとおりじゃねーだろ。と心の中でツッコミつつ、ナルトは笑顔で頷いた。
九尾のチャクラというほぼ無限のチャクラ量を持つナルトですら、チャクラのコントロールはしている。より効率的に術を使い、任務をこなすのにチャクラコントロールは必要不可欠なのだ。
その辺りの説明はカカシがキチンとしてくれたのでナルトは何も言わずにすんだ。
「で、何をするの?」
遠まわしな説明にイライラし始めたサクラが単刀直入に聞く。
「ん? 木登り」
さも当然のように言いきったカカシだが、サスケとサクラにはさっぱり意味が分からない。表面上ではサクラ達と同じく首を傾げているナルトも、やっぱりそれなのか……。と納得していた。
手を使わず木を登るという、常人では考えられない言葉に呆然としているサクラ達にカカシは原理を説明した。これはコントロールが得意な者ならば特に難しくないものだ。
「こんな修行、オレにとっちゃ朝飯前だってばよ!」
戸惑っているサクラとサスケにやる気を出させるために、ナルトが一番に言ってのけ、木に向かって走って行く。もちろん、成功などしない。チャクラの吸着力をわざと弱めていたナルトは木を登ることができず、そのまま地面に落下した。
「…………もう。馬鹿なんだから」
カカシの言うようなことが、本当にできるのだろうかと不安に思っていたサクラの心は一気に軽くなった。頭を抑えて転がるナルトに手を差し伸べ、立ち上がらせる。
「コントロールが大事って言われたばかりだろうが」
登る勇気が持てなかったサスケも、ナルトの行動に励まされた。
「わかってるってばよー」
立ち上がったナルトはサクラ達と並び、一斉に木に向かって走り出した。
結果、サスケはチャクラが強すぎ、木から弾かれてしまう。一方、サクラの方は木の葉の下忍にしては上手いチャクラコントロールでかなり高い位置まで登っていた。
「チャクラコントロールが一番上手いのはサクラのようだな……」
カカシの言葉は続く。
「火影に一番近いのはサクラかなー? うちは一族って案外たいしたことないのね」
挑発するようなカカシの言葉にサスケは容易く乗った。ナルトはカカシの言葉は案外的を射ているのではないのかと考えていた。
知識の面から見れば、シカマルの方が上だろうが、シカマルの性格では里の者達は火影に支持しないだろう。里の人間の支持を考えても、サクラのような者は火影に似合っているのではないだろうか。
『まあ、今のままじゃ到底不可能だがな』
唐突に紅焔の声が聞こえてきた。
妖力の不足はそうとうのもののはずだ。それこそ、こうして術をもちいて会話するのも辛いほど。そのことを肯定するかのように、紅焔は次の言葉を紡ぐことはなかった。
「無理すんなよ……」
思わず呟いてしまった。
「別に無理なんてしてないわよー」
ナルトの呟きを聞き取ったサクラが軽く返事をする。
「え、あっ。そうだってばね」
口に出していたと気づいていなかったナルトは動揺した。
一目で動揺していることがわかったが、サクラはあえて追求しなかった。いつもなんでも喋ってしまうナルトが隠し事をしている。それはつまり、絶対に言えないことなのではないだろうか。
「でしょー?」
いつの間にか、ナルトを弟のように思い始めたサクラとしては、弟の言いたくないことを無理に聞き出したくはない。
「おい、ウスラトンカチ。足手まといだけにはなるなよ」
ほのぼのとした二人の空間に疎外感を感じたのか、サスケが刺々しい言葉を投げかけた。
「わかってるってばよー」
挑発に乗って、ナルトは再び木に向かって突進してゆく。先ほどよりも少し高く登ることができた。
何度も挑戦していくうちに、サクラはすっかりバテてしまった。チャクラのコントロールはともかく、スタミナがなければ意味がない。その日は、初日からとばしすぎてもいいことはないと、サクラを連れてタズナの家へ引き返した。
『明日も基礎か……』
ほんの少しの期待を込めて言ってみるが、やはり返事はなかった。
今まではウザイくらいの奴だっただけに、静かになってしまうと寂しい。ナルトの表情がわずかながら暗くなっていたことに気づくものはいない。
第二十話