サクラもサスケも寝静まった頃、ナルトは静かにタズナの家から出て行った。
 カカシはナルトがそろそろ何らかの行動を起こすだろうと予測していたため、ナルトが出て行ったのに気づいた。何も知らなければ、ナルトの行動に気づけなかっただろう。
 任務を共にしたいという気持ちがないわけではないが、ナルトの足手まといになるのは目に見えている。カカシは自分の実力を客観的に見ることができる忍なのだ。
「いってらっしゃい」
 闇夜に駆けてゆく金の子供に小さく言った。



 ナルトはとりあえず偵察に行くことにした。
 任務の内容は至極簡単。ガトーの持つ秘宝を奪うこと。
 それだけならば、Aランクの任務なのだが、問題はその秘宝が一体何かわかっていないのだ。ガトーの調子が良くなったのはその秘宝を手に入れてからだという情報なので、持ち主に幸運を運ぶ類のものなのだろうが、実際のところは何もわかっていない。
 形や色も不明。秘宝に対する知識があるものならば、ある程度は見れば秘宝だと判断できるが、秘宝の知識がないものが見たところで、それはただの石にしか見えない可能性もある。
 そういう様々な面を考慮したうえでのSランク任務なのだ。
 ナルトはどちらかといえば、敵を殲滅させるような任務の方が好みなのだが、忍としては任務を選り好みすることはできない。
「っと、ここか……」
 森の奥に小さな建物があった。小屋と言うには大きく、屋敷と言うには小さい。ナルトの中でその建物を説明するのに一番相応しい言葉は『秘密基地』だった。
「しょぼいな」
 今まで進入してきた場所はもっと大きな屋敷か、小さいながらも数々の罠がしかけられているような場所だった。それに比べ、目の前にある秘密基地には大した罠が仕掛けられているようにも見えない。
 おそらく、ここが波の国で忍者が存在しないということと、波の国の者達には忍を雇う金もないという計算の上の構造なのだろう。
 事実、ナルトが請け負った任務も波の国の者からのものではない。どこかの秘宝マニアの大名がガトーの持つ秘宝に目を付けただけのことだ。
 わざわざ偵察しにくることのなかったかと、ナルトは立ち去ろうとした。
 窓の一つに一人の少年を見つけなければ。
「あれは――」
 そこにいたのは、再不斬を助けた少年だった。
「ガトーの差し金だったのか」
 別に驚くようなことではなかったのだが、何故かナルトは気になった。
 少年が再不斬に絶対の信頼を持っていることはすぐにわかった。再不斬もそれを当然のように受け取り、疑問に感じていない。それだけならば、ナルトは気にも止めない。そういうことができる人間はそう多くはないが、確かにいるのだから。
 だが、少年は絶対の信頼と同時に、心を殺した人間特有の冷たさも持ち合わせていた。相反する二つのものは同時に存在できないはずだ。ナルトは、少年のことを知りたかった。
 自分は心を殺せていない。殺す必要もないとナルトは思っている。
 心を殺さずとも、人を殺すことができるから。
 籠の中で大切に育てられていたナルトにいきなり突きつけられた嫌悪と憎悪の感情は、ナルトに人を殺すということの罪悪感を与えさせなくした。欠如ではなく、元よりない感情なのだ。だからこそ、ナルトは人を殺しながらも仲間と笑い合い、仲間を守ろうと思うことができる。
 ならば、あの少年の心は一体どうなっているのだろうか。
 少年の真実はどこにあるのだろうか。
 絶対の信頼か。絶対零度の心か。
「面白い」
 今、ここでガトーを襲撃することもできたが、今日はあくまでも偵察。ナルトは今すぐにでも少年と話したいという欲求を抑え、引き返していった。
「明日またくるからな」
 少年に声が届かないことを承知でナルトは言った。
 その口は楽しげに歪んでいた。


二十一話