その日はサスケとナルトだけ、修行を続行させられていた。
サクラはタズナの護衛を任されている。身動きがとれないカカシの代わりに、誰かがタズナを護衛しなければならないのだ。
本来ならば、カカシよりも実力が上のナルトがいけばいい。しかし、それはあくまでもナルトの本当の姿であって、他の者はそんなことを知っているはずがない。そこで、チャクラ量が少ない代わりに、コントロールが一番上手いサクラを護衛につかせたのだ。
「ここらでやめにしねーか?」
その言葉にタズナは揺らがなかった。
たとえ最後の一人になっても、タズナは橋を作り続けるのだろうとサクラは思う。
「…………」
タズナの仲間が去って行く姿を見て、何か言わなければと思いつつも、サクラには何も言葉が浮かばない。タズナは励まされることなど望んでいなかった。
無表情で仲間と別れ、昼ご飯の材料を買いに行くときもタズナは恨み言を言うことはなかった。
そのことに疑問を感じたサクラだったが、その理由はすぐにわかった。
「ここでは大人はみんな腑抜けになっちまった……」
その言葉は悲しそうだった。
あの橋さえ完成すれば、また昔のように戻れる。タズナは言うが、その橋を作り上げることが一番難しい。
ガトーを倒せれば、全て解決するのだが、それは依頼されていない。
「綺麗事じゃないのよね」
サクラは小さく呟いた。
ガトーを倒す任務ならば。と考えた直後、サクラはそれが暗殺だということに気がついた。波の国の人々を救うために、ガトーを殺さなければならない。
サクラにはまだその覚悟はなかった。再不斬は自分達くらいの歳には人を殺していたと言っていた。木の葉の里が他の里と比べて、かなり甘い忍教育だということは風の噂で知っていたが、これほどだとは知らなかった。
そこでサクラはふと思った。
自分は何のために修行をして、任務をして、忍として生きているのだろうか。
ナルトは火影になるため。サスケは復讐のため。では自分は一体何のため。
「……わからない」
優しい両親はどちらも忍ではない。周りの親達がアカデミーに子供を入学させるというから、サクラも入学したと言うだけの話。
サスケのような忍のエリート一族でもない。ナルトのように自分を認めさせなければいけないわけでもない。ただ、なんとなく入学して、なんとなく忍をやっているだけ。
「どうしたんじゃ?」
タズナが心配そうに尋ねてくれたが、サクラは首を横にふった。
誰に言ってもしかたがない。自分で考えて、答えをださなければいけない。考えるのは苦手ではない自分の頭にサクラは感謝した。
サクラが様々なことを考えている頃、ナルトとサスケは必死に修行に取り組んでいた。とは言っても、ナルトは必死に取り組むフリをしているだけなので、実際に必死になっているのはサスケだけだった。
サスケの場合、チャクラコントロールが下手だというよりも、集中力が欠けていると言った方が正しい。
ナルトがアドバイスをしてやってもいいのだが、ナルトからのアドバイスなどサスケは受けないだろう。
結局は自分で見つけ出すしかない。
「つきやってやるか……」
先ほどよりも高く駆け上がっていくサスケを見上げ、ナルトは呟いた。
アドバイスはできないが、自分がいることによって、焦りが生じればいい。少しでもチャクラコントロールを上手くしなければと考えさせるようにすればいいだけのことなのだ。
その日、ナルトは夜遅くまでサスケに付き合った。
「おかわり!!」
タズナ家での食事は静かなものであったが、サスケとナルトの大食い競争もどきによって賑わっていた。
金もなく、食料もないようなこの国で、タズナ家は他人に食事を与えてくれた。嘘の任務だったとはいえ、金で雇った忍なのだから、多少の無理はさせても問題はないというのに。
この国で、少なくともタズナは心まで貧しくなっていないのだろう。
その理由を、ナルトはすぐに知ることになった。
「この写真……なんでここだけ破れているんですか?」
サクラの何気ない疑問に、空気が凍りついた。
「夫よ」
ツナミの一言。
「かつて、町の英雄と呼ばれた男じゃ……」
そしてタズナの一言によって、イナリは席を立った。
ツナミはタズナを責め、タズナは昔話を始めた。ナルトはタズナの昔話に耳を傾けつつ、木の葉の里の英雄の姿を想像した。自分とよく似た金髪と碧眼。写真でしか見たことのないその存在を。
重い枷を息子に託し、自分は英雄となって死んでしまったその男を恨んだこともあったが、今では少し尊敬している。
タズナの話が終わったとき、ナルトは少しだけイナリと自分が似ていると思った。
父親を亡くしていること。父親が英雄だったこと。そして、父の死に傷ついていること。
この国がどうなろうが知ったことではないが、イナリの笑顔が見たくなった。
「このオレが……。この世に英雄ががいるってことを、証明してやる!!」
第二十二話