イナリの笑顔を見るためには何をすればいいのだろうかとナルトが考え、たどりついた結論はガトーを殺せばいいというものであった。だが、ただ殺しただけではこの国は変わらない。
 ガトーの死という奇跡に酔いしれるだけだ。
 上手く状況を運ばないと何も解決しない。
 そう。国の者達が一致団結してガトーを滅ぼそうとするようにしなければならない。
「……面倒だな」
 元々、ナルトはあまり作戦を考える性格ではない。力技で十分やっていけるだけの力があった上に、シカマルという力強い参謀がいたので、作戦を考える必要がないのだ。
 しかし、だからと言って頭が悪いわけではない。ナルトは様々な事態を予測し、作戦を練ることにした。
『あの再不斬という男とイナリという少年。その二つを使えばいい』
 悩んでいるナルトに紅焔が助言した。
 ナルトよりも遥かに長い時を生きている紅焔の助言は非常に役にたつ。
『あの少年は少しの自信を与えてやれば、自分で行動できる力を持っている。国の者は少年に任せ、お前達は再不斬と接戦を繰り広げろ。
 業を煮やしたガトーが表舞台へ出てくるようにな』
 そこまで言われれば、ナルトも紅焔の作戦の全貌がわかった。
『さすがだな! ……って、紅焔なんか元気だな』
 元気なことが悪いわけではないが、妖力が不足しているため、最近元気ではなかった紅焔がここまで言葉を話すのは珍しい。
『どうやら、ガトーの持っている秘宝が関係しているようだな』
 そう言われ、ナルトは目の前にあるガトーの隠れ家に目をやる。
 昨日、宣言した通り、ナルトはガトーの隠れ家に再びやってきていた。今日は偵察ではなく、任務を達成するために。
『妖力を宿したものってわけか……』
 秘宝にはよくある話なので驚きはしなかった。
 特殊な力を宿しているということは、それ相応の何かがあるということだ。
『わずかとはいえ、この距離でオレの妖力を回復させるのだから、そうとう強いな』
 強い妖力を宿した秘宝ならば、ガトーにここまで運が向いていたとしても不思議ではない。
『……なら、手に入れればもっと回復するよな?』
 ナルトはニヤリと笑った。
 任務は達成できる。紅焔の妖力も回復する。さらにはガトーの運を下げることができるのだ。一石三鳥と言うべきなのかもしれない。
 それほど難しい任務ではないが、やりがいはある。
「それじゃ、行きますか」
 ナルトは音もなくその場から消え去り、紅焔がいう妖力の出どころへ向かう。
 念のため、罠や忍の気配に気をつけたが、隠れ家の中にある気配はたったの四つ。どうやら、ガトーは不在らしい。昨日の偵察でこの隠れ家には二人の侍がいることがわかっている。
 ガトーは大方、別所に待機させている無法者どもの所か、他国で豪遊でもしているのだろう。さすが秘宝がもたらす運を受けているだけのことはある。もしも今日、ガトーが隠れ家にいれば、ナルトが多少なりとも痛い目にあわせていただろうから。
 ナルトの方も、ガトーの不在に気づくと少々がっかりした。
「ま、任務はやりやすいか」
 小さく呟き、秘宝があるであろう部屋の前まで行く。
 予想通り、二人の侍が立っていた。二人はこの部屋に何があるのかなど考えたこともないのだろう。考える必要なのありはしない。
「…………いいこと考えた」
 ナルトは素早く印を組み、二人に幻術をしかけた。
「お前達はガトーに作戦を進言する。
 簡単な作戦だ。タズナの邪魔をするために、タズナの家族を人質にとればいい。人質にとるのは母親だ」
 幻術にかかり、意識が朦朧としている二人にナルトは囁きかける。
 ナルトの声は二人の脳内に染み渡る。
 小さく頷いた二人を見て、ナルトは満足気に笑った。あとは部屋の中の秘宝を手に入れるだけ。
 罠がないことを確認し、扉を開く。
「ふーん。これか」
 小さな部屋の奥に、崇められるかのように鎮座している秘宝は拍子抜けするほど小さかった。 
 その秘宝は手を握ってしまえば簡単に包み込める大きさだが、色は美しくも禍々しい。見る者を魅了するようなその輝きに、ナルトでさえ取り込まれそうになってしまった。
『おお……。この秘宝の力ならば、二日間肌身離さず持っておれば、数年持ちそうだ』
 紅焔の力が回復していくのがナルトにもわかった。
『下忍の任務が終わるまで持っておくか……』
 小さなものなので、ポケットにでも入れておいても大丈夫だろうと判断し、ナルトは下忍の任務が終了するまで秘宝を持っておくことに決めた。
 本来ならば、今すぐにでも里へ送るべきなのだろうが、ナルトには関係なかった。
「じゃあ、とりあえず帰るか」
 それなりに修行をしていた風に見せるためにも、体を汚さなければならない。ナルトは部屋に幻術をしかけ、秘宝があるかのように見せかけた後、ガトーの隠れ家を後にした。


第二十三話