再不斬の回復に時間がかかっているのか、ガトー達は一向にナルトを襲ってこなかった。
秘宝の見張り番をしていた男達に暗示をかけておいたので、ニ、三日の内に襲ってくると考えていたため、ナルトの中で予定が狂い始めていた。
「退屈だ……」
丑三つ時。修行という名目で外へ出てきてはいるが、下手な動きはできない。
「オレの妖力もかなり数十年はもちそうな勢いだぞ」
妖力不足で外へ出てくることができなかった紅焔も、今では暇さえあれば出てきている。
「秘宝だけでも木の葉に送るべきかな?」
「いや。やめておけ。動物なんぞにその秘宝を渡せば、妖力に魅入られるだけだ」
ナルトの手から秘宝を受け取り、月にかざしながら紅焔は言う。
月の光りを浴びる秘宝は禍々しい。人間だったとしても、意思の弱い者はその輝きに魅入られてしまうだろう。
「んじゃ。やっぱオレが持っとくしかねぇのか」
「そういうことだな」
秘宝をナルトの手へ戻し、紅焔は笑った。
「その秘宝は幸運をもたらしてるわけではないようだ」
「え? だってガトーは……」
ナルト以上に秘宝や妖力について詳しい紅焔がいうのだから、間違いないのだろうと思いつつも、ナルトは聞き返した。
「強い妖力が、大きな運命を呼び寄せているにすぎない」
石のようななものに宿った妖力は、その力を抑えることなく垂れ流し続けている。強大な妖力が垂れ流しにされていれば、そこに大きな運命が引き寄せられる。
ガトーの場合、その運命が吉とでたがけにすぎない。
「お前にとって、吉となればいいな」
その言葉にナルトは静かに首を横にふる。紅焔が不思議そうにナルトの顔を見つめると、ナルトは瞳を光らせ、好戦的な声色で言葉を紡いだ。
「どんな運命であろうと、それを全て吉にしてやる。
それが、金蒼だ」
凶などあるはずがないと言うナルトに、紅焔は豪快に笑った。
「お、おい……。気づかれるぞ」
周りには誰もいないが、いつどこで誰がいるかわからない。下忍として任務をしている最中なので、ナルトとしては、今の姿を見られるのは好ましくない。
だが、そんなナルトにはお構いなしに紅焔は笑い続けている。
「その強い意思。それでこそ我を封じ込める器だ!」
鋭い牙をのぞかせて笑う紅焔の瞳は、間違いなく九尾のものであった。気分が高揚しているのか、口調や声色も変化している。
「別に、お前を封じ込めるつもりはねーよ」
嬉しそうな紅焔とは裏腹に、ナルトは拗ねたような素振りを見せる。
ナルトは紅焔を封じ込めていることを是とはしていない。できることならば封印を解きたいとも思っているのだが、そのために自分が死んでしまうのは勘弁願いたい。
「ああ。そうであったな。我を封じ込めているのがお前で本当によかったと思ってる」
気持ちが落ち着いてきたのか、紅焔はいつもの口調に戻り、ナルトを愛おしげに見る。
「もうすぐ日が昇るな」
紅焔に言われ、ナルトも太陽が昇る方角に目を向ける。確かに、もうそろそろ日が昇りそうだった。また退屈な一日が始まると思うと、欠伸がでそうなナルトであったが、視界の端にあるものを見つけ、欠伸は引っ込んだ。
「どうやら、秘宝はさっそく運命を引き寄せてくれたらしい」
紅焔を中に引っ込ませ、ナルトは白に近づいた。
「兄ちゃん、なにしてんだってば?」
表の口調で話しかけると、白はゆっくりと振り向いた。
仮面を外したその顔は、長髪なのもあってか、女にも見えた。
「薬草を……探しているんです」
「へー。まだ日も出てねぇし、探しにくいんじゃねーの?」
白はナルトが自分の正体に気づいていないと思っているので、攻撃をしてくるような素振りはみせない。
「そろそろ日も出ますよ」
「じゃあ、オレも探してやるってばよ」
上手くいけば、何か聞き出せるかもしれないと思い、ナルトは笑顔で言う。
「……では、これと同じものを」
ナルトの思惑など知るよしもない白は、躊躇しつつもナルトが手伝うことを了承した。いっそのこと、薬草とよく似た毒草でも摘んでやろうかともナルトは思ったが、さすがにそれは冗談ではすまないのでやめておいた。
できるだけ白と会話をしたかったナルトは、話題を止めることなく話し続けた。
「君は、その人達のことがとても好きなんだね」
「もっちろん!」
白はナルトの話題、一つ一つに返事はしてくれるが、白から何かを話すことはなかった。
「……ボクにも、大切な人がいます」
「へー。どんな人?」
ようやく白からの話題が振られたときは、ナルトは笑いそうになった。ようやく何かが掴める。
「そうですね。とても強い人です」
「他には?」
「え?」
「あっ……。も、もっとすげー人なんかなって」
問い詰めるようなナルトの言葉に、白は驚いて聞き返し、ナルトは慌てて言い方を変えた。
気になるのだ。白がどうして再不斬といるのか。白があそこまで再不斬に依存する理由が。
「そうですね……。その人は、ボクに光りをくれました」
「光り?」
「ええ。もう生きることに意味なんてない。そう思っていたボクに、生きる理由をくれました」
心の底から嬉しそうに白は笑い、ナルトは心のもやが少し晴れたような気がした。
「オレにも、いるってば」
「そうですか」
「でも……」
和やかに笑い合い、終わると思っていた白とは違い、ナルトは言葉を続ける。
「オレはそいつのためだけに動く気はねぇってば」
紅焔や仲間達に何かを言われたとして、それを行動に移すかどうかを考えるのは紛れもなくナルト自身。ナルトは兵器になどならない。それを仲間達が望んでいないということを知っている。
「本当にそいつは兄ちゃんがいいなりになるのを望んでんのか?」
「君は、何者なんですか?」
白の言葉に、つい地が出てしまったことに気づき、慌てて立ち上がった。
「い、いや、別に変な意味はねーってば!」
いつもならばこのようなことはない。常に冷静に相手の行動や言動を探る。決して自分の真意など見せない。それが金蒼という名を持った暗部のはず。
「……そういうことにしておきましょうか」
ナルトを怪しいと思いながらも、白は今の失敗を見逃してくれた。この後、敵になるかもしれない者の弱みを握るチャンスだったはずだ。ナルトならば決して見逃さない失敗だった。
「借りは返すってばよ」
それだけ言い残し、ナルトはタズナの家へと去って行った。
第二十四話