退屈な修行も七日目になり、ようやくサスケのチャクラコントロールがまともになり始め、カカシの体は回復した。そろそろ再不斬も動き始めるだろうとナルトが予測した。
 無論、そのことをカカシに教えることはない。
「橋も、もう少しで完成じゃ」
 感慨深げなタズナの言葉を聞き、ナルトはチャンスは次の戦いただ一度。と覚悟を決めた。イナリを笑わせることも、白と再不斬を見極めるのも、次が最後なのだ。
「なんで……」
 イナリの言葉が室内に響いた。
「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!!
 修行なんかしたって、ガトーの手下には敵いっこないんだよ!」
 涙を流しながら、イナリは叫んだ。
「いくらカッコイイこと言って努力したって、本当に強いヤツの前じゃ弱いヤツはやられちゃうんだ!」
 イナリの言葉は間違いではなかった。世の中は綺麗事だけで進んでいけるわけではない。誰もが言葉を噤んだ。特に、大人達はイナリの言葉がどれほど正しいか、身を持って知っている。
「オレは勝つってばよ」
 弱いヤツは強いヤツには勝てない。だからこそ、ナルトはガトーなどには負けない。
「お前みてるとムカつくんだ!
 この国のことなんて何も知らないくせに、でしゃばりやがって!」
 ナルトの真の強さなど知らないイナリは、怒りが噴火したかのように、強く怒鳴りつける。
「お前にボクの何がわかるんだ!
 つらいことなんか何も知らないで、いつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよぉ!」
 聞いている方が辛くなりそうな言葉と、口調だったが、ナルトは同情しなかった。むしろ、イナリの言葉に怒りすら覚えた。
「確かに、この国のことも、お前のことも知らねぇってば」
 白の時のようなボロは出さぬよう、気をつけて言葉を紡ぐ。
「でもなぁ。悲劇の主人公ぶって、ビービー泣いてるだけの泣き虫は、一生泣きやむことなんてできねぇってばよ」
 本当の辛さなど、ナルトにはわからない。
 命を狙われたことも、裏切られたことも、死にかけたこともあり、ナルトは悲劇の主人公と言っても問題ない日々を歩んでいたが、ナルトは自分のことを不幸だとは思ったことがなかった。
 仲間がいて、家族のような者がいた。それだけで幸せだった。だから、イナリのように、家族がいて、後ろに気をつける必要もないような生活を送っている者が不幸ぶっているのは癪に触った。
『……オレも、まだまだだな』
『お前もまだ子供だからな』
 何となく自分の居場所を失くしたナルトは、イナリのフォローをカカシに任せて外へ出た。
『紅焔。オレ、最近おかしい』
 空に浮かぶ月を見上げる。どこにいても、月は同じように輝いている。
『そうか?』
『……小さい頃はこんな風に、感情に任せるなんてなかった』
 成長し、自制できるようになったはずだというのに、ナルトは自分の感情が抑えられないと感じていた。今はまだ仕事に影響が出ていないが、白にある程度の自分がばれてしまったのは確実に悪い方向へナルトを導くだろう。
『それはお前に譲れないものができたということじゃないのか?』
 姿は見えないが、紅焔が笑っているとナルトは確かに感じた。
『譲れないもの……?』
『仲間や理解者ができ、自分の生きかたにも信念ができれば、それを否定したり、邪魔したりする者を排除したくなる。それは当然のことだ』
 紅焔の言葉には不思議と説得力があった。
『オレは自分が間違ったことをしているとは思っていない。
 何度も命を狙われ、疎まれたとしても、それが紅焔と出会うために必要なことだったというならば、喜んで受け入れる』
 だが、イナリがもしもあの程度のことで不幸だと嘆くのならば、ナルトも不幸だということになるような気がした。それがナルトは嫌だった。
『お前にはお前の。あの子供には子供の幸せと不幸がある』
『うん。わかってる』
「あとな。無理に大人になるなよ」
 外へ出てきた紅焔は優しくナルトを抱き締めた。
「お前は強い。でもな、まだまだ子供だ」
「……子供扱いすんなよな」
「オレから見れば、人間はみんな子供だ」
 不安定な年頃に入ったナルトを支えられるということが、紅焔は嬉しかった。


第二十五話