カカシのフォローがイナリにどのような影響を与えたのかということも知っておきたかったナルトは、狸寝入りをして七班のメンバーを先にタズナの護衛へと向かわせた。
「ね、寝過ごした……!」
呆然と言う演技をすれば、ツナミは先生はゆっくりしていていいと言っていたので、朝食を食べてから行くといいと言って、朝食を用意してくれた。
母親という存在をよく知らないナルトはそれが嬉しく、朝食をありがたく頂くことにした。
ナルトが朝食を食べている間、何度かイナリと二人っきりになることはあったが、イナリは何も言わなかった。カカシのフォローが悪かったのか、イナリがそういう奴なのか、ナルトには計りかねた。
「……んじゃ行ってくるってばよ!」
美味しい朝食を頂き、ナルトは橋へ向かうフリをして近くの木の上で家の様子をうかがうことにした。近くまで殺気が迫ってきているのがわかる。
おそらく、ガトーの差し金だろう。
しばらく待っていると、ナルトが術をかけた二人が現れた。堂々と家の壁を壊して侵入するその様はあまりにも清々しく、ナルトは呆れるを通りこして尊敬した。
二人の命が危険に侵されたならば、すぐにでも飛び出していけるようにナルトは用意しつつも、今のところは自分の作戦通りに動いているので、あまり心配はしていなかった。
ツナミはナルトの思っていた通りの優しく強い母親で、イナリが殺されそうになれば迷わず舌を噛み切るといってのけた。
ナルトはイナリの行動を待った。もしも、このままイナリが隠れたままならば、ツナミが橋へ連れて行かれる前に二人を殺してしまう心積もりで。
「待て!」
イナリの叫び声。ナルトは笑みをもらし、ツナミを救出するために動いた。今、二人は人質などに目もくれていない。同時に、イナリへと刀を向ける二人を影分身で気絶させる。
本当ならば殺してしまっても問題ないのだが、イナリのような子供の目の前で人を殺すのはさすがにためらわれた。
「……兄ちゃん?」
助け出されたイナリは目を見開いてナルトを見つめる。自分の身に起きたできごとが信じられないのだろう。
「イナリ。お前は強えーよ」
紅焔がよくしてくれているように、ナルトはイナリの頭を優しく撫でた。イナリはナルトに認められたのが嬉しかったのだろう、涙を流した。誰かに認められたときの嬉しさはナルトもよく知っている。
「もう……泣かないって……決めたのに」
震える声で言うイナリにナルトは笑う。
「バーカ。嬉しい時は泣いていいんだぜ?」
その言葉に、イナリは涙腺が決壊したかのように涙を流し、そして笑った。イナリの笑顔を見れて満足したナルトだったが、イナリ達を二人が襲ったということは、橋の方も危険だということだ。
カカシがいるとはいえ、病みあがりの者を信用することはできない。
「もう、ここはお前に任せても大丈夫だよな」
イナリに背を向け、ナルトは橋へ向かう。
「兄ちゃん頑張って!!」
強いその言葉は何よりもナルトを力づけた。
イナリの目にナルトが消えた瞬間、ナルトは走るスピードを速めた。慎重にことを進めるサクラはともかく、案外頭に血が上りやすいサスケが死んでしまうという可能性が消えない。
「無茶すんなよ……!」
護衛対象は何もタズナだけではない。ナルトからすればサクラやサスケも立派な護衛対象だ。サスケが死んでしまえば任務は失敗に終わる。
護衛の面倒くささを噛み締め、ナルトは橋の近くでスピードを落とす。
素早く印を組み、視力を最大限まで上げる。薄っすらとかかっている靄の向こうの戦場を見極める。
「カカシと再不斬。サクラは護衛。サスケは――なんだあの術?」
白の使っている術にナルトは見覚えがなかった。大抵の術は網羅しているナルトとしてはひどく興味を惹かれた。
「氷……。風と水のチャクラ性質を混ぜてるのか?」
ここで戦場を見ているほうが楽しそうだとも思ったが、それをすればサスケは確実に死んでしまうということもわかってしまったの、ナルトは渋々橋の上へ出ることにした。
「うずまきナルト、ただいま見参!」
第二十六話