再不斬は最期の願いをカカシに言った。
「あいつの……顔が見てぇんだ……」
カカシは再不斬を持ち上げ、白の横へと再不斬を連れて行った。
「……雪だ」
空を見上げていたナルトの目に、白い雪が映った。
白は雪のように白い忍だった。白いが故に、辛いこともあったが、幸せでもあった。
「……できるなら……お前と同じ所に……行きてぇなぁ……」
もう動かすことのできない腕を無理矢理動かし、再不斬は白の頬を撫でる。その仕草はあまりにも優しくて、壊れ物を扱うかのようだった。
大切な者を大切だと気づけなかったのが罪。全てが終わった後に気づかされたのが罰。二人並んで死ねたのがせめてもの救い。
あまりにも悲しい二人の死にかたをナルトは目に焼き付けた。応援にかけつけてくれた人達も、二人が悲しい死にかたをしてしまったということだけはハッキリとわかってしまい、涙を流していた。
「……二人で地獄に逝っちまえ」
ナルトは小さく、誰にも聞こえないように呟いた。その声があまりにも悲しそうだったので、カカシは優しくナルトの頭を撫でた。幼い子供にするような手つきに、ナルトは悪態をついてやろうと思ったのだが、言葉がでなかった。
ならば睨みつけてやろうと考え、カカシを見上げると、相手がゆっくりと地面に倒れる姿が目に映った。
「カカシ先生っ!」
写輪眼を使いすぎたための疲労と、再不斬に返り血を浴びせさせるために流した大量の血。いつ倒れてもおかしくないような状態だったのだ。
「ワシの家まで運ぼう」
波の国にきたときのように、タズナはカカシを軽々と持ち上げた。
「……先生。大丈夫なのかな?」
サクラが不安気な顔をする。
「増血丸くらい持ってるだろ。帰ったら探すぞ」
対してサスケは冷静に対処しようとする。その中で、ナルトは一人拳を固く握りしめていた。
『ナルト。どうかしたか?』
明らかにナルトが動揺しているということは、ナルトの中にいる紅焔に直に伝わる。
『死なない、よな』
ナルトは多くを殺したが、身近な者の死を体験したことはない。大切な者はしなせないという自信があった。守ると自分が決めたのだから、守れると思っていた。
『カカシは馬鹿だし、遅刻魔だし、実はそれほど強くねぇけど……。死んだら嫌だ』
始めて正体を明かしたその日から、優しくしてくれた大人。担当上忍になってからはさりげなく励ましたり支えてくれたりしてくれていた。気づかないうちに、カカシの存在は大きくなっていた。
死んで欲しくないという気持ちを始めて持った。
『掌仙術は使えたな?』
一通りの術を学び、会得したナルトは当然掌仙術も使えた。
『ああ』
『なら、あいつを治してやれ』
その方法があったと思い当たると、ナルトは自分がどれほど動揺していたのかがわかった。
『これからもそうすればいい。ナルトだけではダメだというのなら、オレも手を貸す』
優しく、心強い言葉に、ナルトは自分が落ち着いていくのを感じた。
何も心配することなどない。ナルトには誰かを守るだけの力があり、大切な者を大切だと気づける。気づかせてもらえる。失わない。
一つ結論が出て、ナルトはタズナ達を追った。カカシの傷を癒すのは夜中がいいだろう。あくまでも回復を促す程度にしなければいくらなんでも怪しまれてしまうだろうだとか言うことを考える。
「オレは、大切な奴を見失わない」
自分に言い聞かせるように呟き、ナルトは笑った。
ナルトが掌仙術を使ったというのに、カカシの回復には一週間もかかった。
「お前、あんまり無茶すんなよ」
二人っきりのときに、ナルトが零した言葉にカカシは思わず感動した。あのナルトがそんな優しい言葉をかけてくれるとは思っていなかった。
仲間や認めた人に対して優しいナルトだが、始めて一緒に任務についたときの印象が悪すぎたのか、ナルトはカカシに対して優しいとはいえない対応だった。
「ナルト……っ!」
「弱いんだしな」
言い訳のように付け加えられた言葉も不思議とカカシは嬉しかった。
「うん。もう無茶しないよ」
「わかればいい」
そして余談だが、タズナが作り上げた橋は、波の国を救った英雄の名にちなんで『ナルト大橋』と名づけられた。
第三十話