波の国から無事に帰ってきた後、ナルト達は前と変わらない日々を過ごしていた。だが、それは表面上のことだけで、三人はそれぞれ思うところがあった。
忍としての生きかたに疑問を感じ始めたサクラと、己の力不足を痛感したサスケ。そして、ナルトは大切な者を見失わず、守り続けようと決めた。
「だから、お前らも強くなれよ」
結果。一番被害を受けたのは九番隊の暗部である、シカマル達であった。
ナルト一人の力では限界がある。ならば、信用できる実力を持つ者達に頼ればいい。頼られること自体は非常に嬉しいことではあるのだが、ナルトと紅焔による地獄の特訓はできることならば遠慮したいものだった。
毎日、毎晩、ボロボロになるまで特訓をし、ナルトの掌仙術によりその傷を癒すという日々が続いた。
「あー。マジで死ぬ」
そんな文句を言いながらも、ナルトの傍から離れないのは、ナルトが自分達のことを同等と見て、隣に立たせてくれているとわかっているから。それが嬉しいから。
「そういえば、そろそろ中忍試験だな」
地面に倒れたままネジが呟いた。
「そろそろ召集されるんじゃね?」
暗部になるための試験を受けたことはあるが、中忍試験は始めての四人。他国の忍もやってくるということで、胸を高鳴らせていた。
「いいか? くれぐれも実力をばらすんじゃねーぞ」
今回の中忍試験は荒れそうな予感がした。木の葉のルーキー班全てに暗部が潜んでいるからではない。何か、直感的な予感がそこにはあった。
「ナルト。オレ、不安だ。動物達が怯えてる」
一番始めに掌仙術を受けたキバが、赤丸を抱きかかえながら言った。
人間よりも直感が鋭く、自然の変化に敏感な動物が怯えているということは、それなりの理由があるのだろう。だが、中忍試験を中止することはできない。ナルト達にできるのは、何が起こっても木の葉や仲間を守ることだけ。
「……いざとなったら、バラすのも止む終えないな」
苦虫を噛み潰したような顔でナルトは言う。
全てをバラすということは、下忍としての一生を捨てるということ。まだ一緒にいたい。そう願う。
「そんなことにはならねーよ」
ナルトが正体をばらしたくないというのならば、それが叶うように力を尽くす。当然のように言ったシカマルと、それに同意する二人。仲間達の優しさが嬉しくて、ナルトはふわりと花が咲くように笑った。
深くにも、胸をときめかせてしまった三人は、次の日から紅焔の修行が厳しくなった。
下忍としての任務をこなし、それなりにボロボロになっていたナルトはサスケ達と別れ、これからの修行のことと、後ろからついてくる下手くそな隠れ方をしている木の葉丸達のことを考えていた。
適当にあしらおうかとも思ったが、何だかんだで木の葉丸のことは気にいっているため、あまりいい案とはいえない。
「と、見せかけてフェイントっ!!」
前を向いて歩いているところを、急に振り向いて木の葉丸達の下手くそな隠れ蓑を見破る。ある意味では可愛い弟分である木の葉丸は昔のナルトのようなゴーグルをつけている。
聞けば、修行をして欲しいだとか、一緒に忍者ごっこをして欲しいだとか、子供めいた要求ばかり。それでも悪い気がしないのは、三人が純粋に自分を慕ってくれているからだろう。
気づけば、三人に流されて一緒に道を歩いている。周りの大人達が何か言っていたような気もするが、ナルトの耳にも三人の耳にも届かない。
「よしっ! じゃああの角まで競争だコレ〜!」
唐突に競争を始めた木の葉丸は真っ先に駆け出して行く。それに慌てて二人が追いかける。ナルトはどうしたものかと思いつつも軽く駆ける。
当然一着には木の葉丸がなるはずだった。ゴールである角から男が現れなければ。
「いてーじゃん」
角から人が現れることなど想定の範囲内であったはずなのに、楽しさからつい忘れてしまっていた。木の葉丸は一応火影の孫なので痛い目に合わされることはないだろうが、謝るくらいはさせなければいけないと、普段はからでは考えられないような兄貴風を吹かそうとしていたナルトの目に、砂隠れの額宛が映った。
迂闊にも忘れてしまっていた。中忍試験が始まるということは、他国の下忍が集まるということ。よそ者が木の葉丸のことを知っているはずもない。
どうしてもっと気配に気を配っていなかったのかと悔やまれるが、今さら遅い。
今できることと言えば、相手が温和な相手であることを願うくらい。
「このクソガキ」
全身黒ずくめで、顔にペイントをほどこした男が木の葉丸の胸倉を掴み上げる。温和である線は消えた。
「木の葉丸を離せっ!」
「やめときな。後で文句言われるよ」
ナルトが怒鳴りつけるのとほぼ同時に、男と共にいた女が言った。
他国で問題を起こすのはご法度だ。それも、同盟国で起こすなど問題外だ。
「オレ、こういう生意気そうなガキは嫌いじゃん」
木の葉丸にむけて拳を繰り出そうとする男を止めるために、ナルトは足に力を入れた。
「やめておけ」
砂が男の手を捉えた。
「……我愛羅」
男が見た先には、大きなひょうたんを背負った少年がいた。
「木の葉は同盟国だ。余計な騒ぎを起こすな」
我愛羅の瞳を見た瞬間、ナルトは我愛羅を仲間だと確信した。
第三十一話