「ナルト、どうした?!」
 我愛羅とナルトが睨みあっていると、不穏な気配に気づいたのか、サスケが現れた。
 これは面倒な展開になるのではないだろうかとナルトが思った瞬間、サスケは我愛羅達を瞳に映していた。
「お前ら、木の葉の忍じゃないな? 何をしにきた」
 威圧的な言い方。とてもじゃないが、友好的な関係は築けそうにない。敵意を向けられているわけではないのだから、多少は友好関係を築こうとしてみても罰は当たらないのだはないだろうか。
「知らねーのか? 中忍選抜試験を受けにきたに決まってんじゃん」
 我愛羅に答えさせればこの場の空気がさらに不穏になるだろうと察したのか、カンクロウが答えた。サスケは不満気に顔をしかめたが、カンクロウは気にも止めない。
 テマリは我愛羅の機嫌をうかがうかのように、我愛羅の方へ目線を向けたが、我愛羅はテマリの方を見ない。その視線の先にはナルトがいる。テマリには何故我愛羅がそこまでナルトのことを気にするのかわからなかった。
 肌で感じる力は明らかにサスケの方が上だ。ナルトと我愛羅では実力に差がありすぎるように感じた。
「へー。お前が……」
 テマリは思わず目を見開いた。ずっと我愛羅のことを見ていたはずだったというのに、我愛羅の目の前に男が突然現れたように見えた。いや、テマリには理解できなかっただけで、男は本当に突然現れたのだ。
 紅焔は緋色の長い髪をなびかせて我愛羅の頭に手を乗せようとする。
「我愛羅に触るな。腐れ狐」
 紅焔の手を別の男が掴んだ。
 優雅な雰囲気のある紅焔とは違い、粗暴な雰囲気のあるその男は茶色く短い髪をかきあげた。
「おお。久しぶりだな」
「こっちは一生会いたくなかったぜ」
 二人の男は知人らしいが、けっして仲がよいわけではないらしい。険悪な雰囲気が辺りに広がる。
「おい……何で出てきたんだい?」
 テマリが粗暴そうな男に話しかける。どうやら、知りあいらしい。
「ん? まあいいじゃねーか」
 男はケタケタと笑い、ナルトの方へ近寄った。
「オレは橡砂。よろしく」
 橡砂と名乗った男はナルトに握手を求め、それに答えようとナルトが手を伸ばすと、紅焔が橡砂の手を叩いた。
「触るな」
 紅焔に睨まれても橡砂は笑っていた。紅焔の独占欲というものを目の当たりにできて嬉しいというのが表情に出ていた。結局は橡砂の策に乗ってしまった形になってしまったことが紅焔は悔しく思った。
「行くぞガキども」
「あ、待つじゃん」
 紅焔を一瞥してきびすを返した橡砂の後をカンクロウが追う。その右手には我愛羅の腕があった。我愛羅はカンクロウに引っ張られる形になりながらもナルトのことを見ていた。
 それは野生の獣が飼われている獣を見るような目だった。何故お前はそこにいる。こっち側にこい。そんなことをナルトに伝える暗い瞳。
「ナルト」
 四人の姿が消えるまで黙ったまま立ち尽くしていたナルトにサスケが声をかけた。
 何を聞かれるのか予想がついているナルトはちらりと紅焔を見る。紅焔が小さく頷いたのを確認して、ナルトはいつも通りの口調で言う。
「この兄ちゃんはオレの友達だってばよ」
「……友達?」
 明らかに疑っている。それはそうだろう。紅焔とナルトは見るからにかなりの年齢差がある。
「一楽のラーメンが好きなんだってば」
「あそこのラーメンは天下一品だからな」
 ナルトの話に上手くあわせて紅焔は笑う。ついでに、木の葉の者ではないということを遠まわしに言ってやれば、サスケはあっさりと納得した。
 木の葉の里の中で、紅焔の目立つ緋色の髪を見たことがないのは妙だと思っていたのだ。木の葉は狭いわけではないが、広いわけでもない。どんな人間でも一度は見かけたことがあるはずなのだ。
「あの橡砂って男とはどんな関係なんだ?」
 紅焔に対する疑いが解けたところで、サスケは次の疑問を口に出す。
「年上には敬語を使うことを忘れるな。小僧」
 低いその声にサスケは体をビクッと奮わせた。
 大人げのない紅焔の行為に、ナルトは紅焔の足を力のかぎり踏みつける。チャクラを使わなかったのはせめてもの情けだ。
「……腐れ縁。と言ったところだ」
 ナルトに足を踏まれ、渋々答えた。紅焔の言葉で、ナルトの予想は確証に変わる。
「サスケ。オレってば用事があるから行くってばよ!」
 紅焔の手を取り、ナルトは走る。後ろの方から木の葉丸達の声が聞こえたが、今はそれどころではない。心の中で木の葉丸達に謝りつつ、ナルトは紅焔と二人っきりになれる場所へ急いだ。
 誰にも話を聞かれる心配のないところといえば、地衣鬼達と共に住んでいる自宅ぐらいしかない。
「ただいま」
 家に入ると、地衣鬼と恐女がナルトを迎え入れる。
「お帰り」
「お帰りなさい」
 いつもなら笑ってもう一度ただいまというのがナルトなのだが、今はそれどころではない。
 二人の横を通り過ぎ、ナルトの自室へと入る。
「あれは、人柱力だな?」
 砂隠れに一尾がいるという話は聞いていた。
「そうだ。やつは化け狸でオレの知りあいだ」
 ナルトは頭を抱えた。
 確実な情報ではないが、砂隠れが木の葉崩しを目論んでいるという話がナルトの耳に入っていた。まだ未確定な情報なので、誰にも話していないが、木の葉崩しに一尾が関わっているとなると、自分一人の問題ではなくなる。
 人柱力の力は強大だ。ナルトが考えていた通りにことが運ぶとは思えない。いざというときは、三代目火影の警護にあたろうとも考えていたのだが、それも不可能となる。人柱力の力は並大抵ではない。同じ人柱力でなければ到底倒せないだろう。
 普段ならば、腐っても火影と思い、三代目を心配することなどないナルトだが、今回は嫌な予感がしてならない。
 まるで、大蛇がこちらをじっと狙っているような、そんな感覚。
「心配するな。お前には仲間がいるだろ?」
 紅焔は優しくナルトの頭を撫でる。
 キバも、シカマルも、ネジもいる。もちろん、下忍としての仲間達もいる。何も心配することはない。きっと全て上手くいく。
 ナルトはそう思い、ぎこちない笑みを浮かべた。


第三十二話