不安要素はできるかぎり排除したい。そう考えたナルトは、恐女と地衣鬼に頼みごとをすることにした。シカマル達にはできない頼みごとだった。
「砂の国を、偵察してほしい」
 同盟国である砂の国を探るのは、ルール違反だ。木の葉の忍がそれをすれば間違いなく罪に問われるだろう。しかし、妖怪ならば話は別だ。恐女も地衣鬼も、誰かに仕えているわけではない。木の葉に所属しているわけではない。
 ナルトが頼んだことがバレれば、ナルトは罪に問われるだろう。しかし、誰がそれをバラすというのだろうか。
「任せて」
 二人とも二つ返事で頷いてくれた。
 本当にいい友人を持った。ナルトが微笑むと、二人も微笑んで、消えた。
「別に今すぐじゃなくても良かったのに……」
「善は急げと言うからな」
 広い家で紅焔と二人っきりになってしまい、どこか寂しさを覚える。暗部として、何人もの人を殺めていようと、所詮はまだ十数の子供なのだと、ナルトは実感してしまう。
 紅焔はナルトの寂しさを感じ取り、そっと抱き寄せてくれる。
「何も起こらんさ」
「……だよな」
 全てが杞憂ですめばいいと、偽りなく願う。



 カカシに中忍試験へ推薦しておいたと聞かされたとき、七班の面々は誰一人として拒否する者はいなかった。三人は自分の強さがどこまで通用するのか興味があった。そして何より、試験を通して自分をさらに強くしたいという思いがあった。
「行くわよ!」
「おー!」
 波の国での任務を通して、サクラは自分の無力さを痛感していた。覚悟を決めなければならない時がきているのだ。
 人を殺す覚悟。人に殺される覚悟。そして、生きる覚悟。生かす覚悟。何もなかったと改めて思い知る。サクラは拳を強く握った。
「とりあえず、この場所に行けばいいのね」
 試験会場へ向かう。
 階段を登ってみると、年齢性別、里もバラバラな下忍達が溢れていた。どうやら、何かもめているらしい。
「お前らのために言ってるんだって」
 見れば、教室の前に二人の男が立っている。
 中忍試験はまだ早いのだから帰れということらしい。この溢れる下忍の中で、何人がここが目的地ではないと気づいているのだろうか。この程度の幻術も見抜けないようならば、確かに中忍試験はまだ早い。
「早く行きましょ」
「そうだな」
「おう!」
 三人は下忍達の横を通りすぎ、本当の目的地へと足を進める。
 この程度の忍が試験を受けても意味がないという、ナルト達なりの優しさだ。
「――――あ」
 馬鹿な下忍達の顔でも拝んでやろうと思い、ナルトがちらりと目線を向けると、そこには不機嫌な顔をしたネジがいた。班の仲間達が幻術に気づいておらず、そのことを言うべきかどうかで悩んでいるらしい。
 ネジの方もナルトの視線に気づいたらしく、目を向ける。その目には明らかに疲れが見えていた。
『ドンマイ』
 どちらかといえば、偏りのないナルトの班とは違い、ネジの班は戦闘班といった感がある。そこをサポートするために、ネジがいるのだろうが、あまり口出しをすると自分で幻術を見破る力がつかない。
 これからも少し苦労しそうなネジを横目に、ナルトは目的地である教室へ行く。
「キャー! サスケ君!!」
 扉を開けた途端に飛んできたのは、サクラのライバルであるいのだった。
 相変わらずだと、ナルトが苦笑していると、同じように苦笑しているシカマルと目が合う。視線を彷徨わせてみると、キバとも目が合った。
「もー。サスケ君が嫌がってるじゃない」
 波の国での任務を通して、少し心境に変化が出たサクラは、以前ほどいのを敵視しなくなっていた。だが、それはあくまでもサスケがらみでの話であり、やはりいのに負けるというのは気に喰わないらしい。この中忍試験でぎゃふんと言わせてやろうという意気込みが見て取れる。
 騒がしい女は放っておいて、ナルトはシカマルの方へ歩み寄った。女に挟まれているサスケが助けを求めているようにも見えるが、あえて見えないフリをしておく。
「ああいうのは、放っておくってばよ!」
「だな」
 同期の仲間達が勢揃いし、テンションを上げるフリをするナルトに、キバやシカマルもあわせる。あまり表情を読むことができないが、シノも心なしか嬉しそうだ。
「君達。ここには遠足にきてるのかい?」
 騒がしいナルト達に、優しげな声がかけられた。
「ん? 兄ちゃん誰だってばよ?」
 声をかけてきたのは、声と同じで優しげな青年だった。
「ボクは薬師 カブト。君達の先輩だよ」
 木の葉の額宛をしている青年に、安心したような表情を見せる。だが、ナルトはその裏で警戒態勢を取っていた。カブトは、ここにいてはいけない人物だと瞬時に読み取ったのだ。
『おい。気づいたか……?』
 他に悟られぬよう、以心伝心の術を使い、シカマル達に問いかける。
『ああ。こいつ、強い』
 笑顔で寄ってきた優しい先輩に、今年の中忍試験のデータや恐ろしさを聞いている裏で、三人はさらに話す。
 今の下忍でこれほどの力を持っているのは明らかに不自然。あってはならないことだ。自分達以外の忍がそのことに気づかないことを不安に思いつつも、カブトは九番隊の中で一級警戒人物とされた。
「さあ、そろそろ席に座ろうか」
 優しげな笑みの裏側に何が隠されているのか、警戒しつつもナルトは指定された席へとついた。


第三十三話