任務中  暗闇の中、二つの影が戦っていた。
 一人は金蒼。敵とは違い、まだ幼い体つきだが金蒼は対格差をものともせず確実に敵を殲滅せんめつしていた。
 そして金蒼の横では朱九が緋色の髪をなびかせながら敵を炭へ変えいく。
 二人は汗一つかかず、まるで舞をしているように優雅で鮮やかだった。
「弱いな、暗部なのにどうしてだろ?」
「まあ暗部でも中の下って所だな」
 幼い金蒼は首を傾げるが、朱九は笑いながら敵の実力の格付けをした。
 この人間離れした実力を持つ二人に比べれば、どんなベテラン暗部だったとしても中の上ほどにしかならないのだろう。
 見事に敵を全滅させ、任務が終了した二人は火影のもとへ帰ろうとした。
「朱九…あれ」
 第一歩目を踏み出す直前に金蒼が朱九の暗部服の裾を引っ張り指を指した。
 金蒼が指差した先には木の葉の暗部がいた。
 その者は今、任務達成率八十%と噂される銀雷。その銀雷が金蒼たちを見ている。
「お前達は何者だ?」
 銀雷が口を開く。朱九と金蒼の名を知っているものは数多くいたが、誰にも姿を見せずにいたため、姿を知っているものは誰一人としていない。
 だから同じ木の葉の暗部だというのに銀雷は二人のことが噂の二人だとわからなかった。
「安心しろ、木の葉の暗部だ。」
 朱九が言う。
「俺たちが何者か知りたければ火影に聞くがいい」
 続いて金蒼が言う。
 二人は感情のこもっていない声で言い、姿を消した。そこに残ったのは銀雷だけ。
「よかったのか?」
 朱九が金蒼に尋ねる。
 同じ里の暗部とはいえ、姿を見られることは得策ではない。面をつけてるとは言っても、体格などが他国に知れ渡れば一目見ただけで『金蒼』だとばれてしまう。
 そうすればこれからの任務に支障が出る可能性も出てくる。
「いいよ。名が売れればもう少し楽しい奴と遊べるかもしれないし」
 さらりと言う金蒼に朱九は微笑んでいた。
 実際金蒼はまだ子供。遊ぶのが好きだった。しかし金蒼の遊びとはこま回しや鬼ごっこではない。
 金蒼の遊び。それは戦い。無論、戦いを好むように生まれついている朱九にとってもそれは楽しいものであった。
「楽しいか?」
「楽しいよ! とってもね」
 二人は笑いあいながら目にも止まらぬ速さで木の葉へ帰って行く。
 その手の中にはまだ拙いつたな子供の字で書かれた報告書があった。
 火影のもとへ到着した二人は、報告書を出してすぐに出て行った。また修行でもするのだろう。
 その数分後。金蒼ことナルトの字を解読している火影のもとへ大声を出しながら入ってくる暗部がいた。
「火影様!!!」
「な…何じゃ銀雷」
 銀雷はかぶっていたお面をはずし火影にまくし立てた。
「さっき森で狐のお面をかぶった二人組みを見たんですけど、何ですか?! あの二人! 俺あんなの聞いたことありませんよ?! めちゃくちゃ強いし、片方はまだ子供だし!!」
 顔をこれでもかというほど近づけたうえ、大声でまくし立てられている火影はたまったもんじゃないとばかりに体を反らした。
「分かったからもう少し静かにせんか」
 ぴたっと黙った銀雷。その正体は『写輪眼のカカシ』であった。
 カカシが黙ったのを見て火影は静かに真実を告げた。言うなと言われているわけではない。
「あれが金蒼と朱九じゃ」
 カカシの中で時が止まった。
「何ですとーー??!!!」
 金蒼と朱九と言えば誰もが知る任務達成率百%の暗部。カカシが驚くのも無理はない。
 誰も見たことのない暗部の姿を自分が見たのだ。それも生きて帰ってきている。
「ええい!五月蝿いわ!!」
 先ほどに比べると顔は離れているが、音量があまりにも大きく、耳が痛くなった。
「でも火影様!紅い方はともかくもう一人はあきらかに子供でしたよ?!」
「その紅い奴が一番驚く奴なのだがな…」
 火影が小さな声で呟いた。いつどこで紅焔たちに聞かれている分からないため、うかつなことは言えない。
 万が一にでもカカシに紅焔の正体を教えれば、紅焔とナルトに火影が瞬殺されるのは決定である。
 カカシがギャーギャーうるさいので追い出した火影は恐ろしい殺気に身を硬くした。
「余計なことを言うなよ?」
 火影の後ろに居たのは朱九改め紅焔であった。
「誰もお主がきゅうゲファ!!」
「言うんじゃねぇよ!!」
 見事にチャクラを練りこんだ突きを紅焔は火影の腹にいれた。老人の身体にはキツイものがあったが、そこは火影。骨が折れることもなくただその場に倒れただけであった。
 そんな火影を横で笑いながらナルトは見ていた。
 紅焔が本気ではないことも、火影がそう簡単にやられはしないことをナルトは熟知している。
 ナルトにとってはこんな光景も幸せな日常に他ならない。


「今日の任務は?」
 金の髪をなびかせ金蒼が聞く。
「禁書の奪還」
 答える朱九。
「で、どこにあるの?」
 なぜかいる銀雷。
「何でてめえがいる?」
 先日の感情のない声とは打って変わった声。殺気と怒気が混ざった朱九の声に銀雷は我知らず鳥肌がたった。
 さすがは百戦錬磨の暗部の殺気だと半ば感心する勢いである。
「いや……だから一緒に任務」
 今夜は何故か銀雷と共に任務をすることになってしまった。おそらく一緒に任務をさせてくれないとストライキをするだの言って火影を脅したのだろう。
 銀雷がいるという不本意な事実に朱九と金蒼は不機嫌だが、張本人である銀雷はご機嫌であった。
「…朱九。きた」
 先ほどまではずっと不機嫌な声色だった金蒼の声が途端に感情を失くした。
 金蒼の静かな言葉に朱九と銀雷が戦闘体制になる。
 相手側もこうなることを予想していたのか、かなりの数を送り込んできているようだ。一人、また一人と数が増え、とうとう周りを埋め尽くした。
 その数は百近い。
 三人はとりあえず周りの敵を片付けることにした。
 銀雷は様々な術や写輪眼を使い敵を着実に倒していく。
 しかし金蒼はそれよりも多くの術や禁術を使い、朱九は見たこともない術をくりだす。二人が現れるまで木の葉最強であった銀雷もまるで子供のようであった。
 勝てない。それを銀雷に受け入れさせることはあまりにも簡単であった。
「――――!」
 銀雷は目を見開いた。
 金蒼の術が自分の近くに迫っていたのだ。いくら銀雷でも金蒼の術をくらえばただではすまない。
「っ!!」
 気づいた金蒼が術の進行方向を変える。
 その隙を逃すはずのない敵の暗部。紅焔が止める間もなく敵がナルトの横腹を切り裂いた。
「がっ!」
 ナルトの横腹から血が流れ出す。
「貴様!!」
 一瞬にして辺り一帯に禍々しいチャクラが溢れた。
 気がつけば敵は消えていた。否、敵は影だけを残して消滅していた。
「ナルト! ナルト! 大丈夫か?! 今治すからな!」
 金蒼の傷の深さを見た朱九は金蒼にナルトと呼びかけながら傷口にチャクラを流し込み傷をふさいでいく。
 幼い体にはあまりにも大きな傷。早く治療しないと命に関わるだろう。
「ナルト……? 金蒼が? あの狐が…」
 銀雷が呟く。暗部であっても数年前の事件の真相は知らされてないのだ。
 呆然としている銀来を朱九は殺気を込めて睨みつけた。
「狐? それはわしのことか、わしはよいがナルトを狐というなど許さん…!!」
 紅焔の殺気に身をすくめる銀雷。
「紅焔……いいよ。大丈夫」
 なんとか回復したナルトが紅焔を止める。紅焔が怒ることではない。紅焔が怒る相手はばれる原因を作ってしまったナルトのはずなのだから。
 ナルトに止められ、紅焔は不満気な表情をしていた。ナルトはそんな紅焔を無視して、恐ろしい笑みを浮かべ銀雷に詰め寄った。
「誰にも言うなよ?」
 銀雷は素早く何度も頷いた。命には代えられない。それに、元々誰かに話すつもりなどなかった。
 せっかく掴んだ秘密を何故簡単に他人に渡さなければならないのだろうか。
 紅焔とナルトは紅焔のチャクラにあてられ、動けない銀雷を残し素早く移動して禁書を取ってきた。
 先ほど紅焔に消滅させられた忍が全てだったようで、禁書の奪還はずいぶんと楽にできた。


 あの出来事から紅焔には悩みが増えた。
「ナ〜ル〜ト〜」
 なぜかカカシがナルトにくっついてくるようになったのだ。
「うぜえ…」
 ため息混じりにナルトが呟く。
 嫌われなれているナルトにとって、カカシの行動はよくわかならい。よくわからないとそのまま面倒につながってしまう。
「殺すか?」
 と紅焔は言うが、ナルトがカカシのことを心底嫌っているわけではないと知っているので実行することはない。
 そんなこんな会話の中、紅焔は思い出したようにナルトに刀を渡した。
「何だこれ?」
「妖狐に伝わる宝刀<幻狐>木の葉のごとく軽く、敵に幻覚を見せる事も可能だ」
 紅焔はナルトに術だけでなく刀も使って欲しかった。
 この間の怪我も、術でなく刀ならなかったかもしれない。
「ありがとう、早速使うよ」
 にっこり笑うナルトを可愛いなと考えていた紅焔は横から聞こえるカカシの悲鳴なんて、気にならなかった。


第四話 暇つぶし