暇つぶし
銀雷と出会ってから数年、体も大きくなり、金蒼として名を広めたナルト。
そんなナルトが今、手にクナイを持ち最大の敵と直面している。
「今何て言った?」
ナルトは手に持ったクナイを火影に向けながら、さわやかな笑顔で火影に聞き返す。
「……じゃから、アカデミーに…」
「ガキの護衛?!そんなの別の奴に頼めよ!!」
先ほどまでの笑顔は何処へやら、怒り爆発の表情をナルトは見せた。
ナルトと火影の間にある机の上には、ナルトへの任務が書かれた書類がある。
内容はこうだ。
SSランク
依頼人 猿飛
期間 今から名家の子供が全て中忍になるまで。
アカデミーに入り、名家の子供を守ること。
および、一人だけ入学時期が違うので留年すること。
報酬 禁書三冊
しかし入学は来年となっている。
百歩。いや、一億歩譲ってこの任務を引き受けるとしても、依頼が早すぎる。
「これはどういうことだ?」
「うむ、これから一年間で、アカデミーに入る準備をする」
たかがアカデミーに入るとはいっても、ナルトにとっては色々と面倒なことが多い、そこで火影は考えた。
まず、これから一人暮らしを始める。ときおり世話役の忍が来ることにすればナルトが一人で暮らしていても何の不思議もない。
そうやって『危険でない九尾』を印象付ける。
まあそれでも一部のものは迫害をするだろう。そこでそれを案じた火影がナルトをアカデミーに入学させるという体裁を整えて入学させようというのだ。
そうでもしないとナルトはアカデミーにも満足に入学できないだろう。
「まあ、いいけどな…家はどこだ?」
真剣な顔をしている火影を見ていると、どうやら撤回をする気はないらしいと悟ったナルトはとうとう諦めた。
諦めが肝心だと学んだ今日この頃である。
「ここじゃ」
そういって住所の書いてある紙をナルトに渡す。
なんとも用意周到な狸であった。ナルトに拒否権は全くなかったようだ。
「じゃあ、荷物運ぶからな」
飽きれるような口調でそう言うと、ナルトは姿を消した。
新しい家となる場所で『危険でない九尾』を演じるためにナルトは決まりをつくった。
一.実力は出さない。
二.表は明るくて、ドベで悪戯小僧。
三.紅焔のことは知らない。
四.ライバルを作る
五.好きな女の子を作る(ライバルのことが好きな子だとなお良し)
ボロを出すつもりはないが、こういうことは決めておいたほうがいざというときに役に立つ。
基本をまとめたら、新しい我が家でくつろいだ。一人暮らしは願ってもないことだった。
誰かに狙われる心配もなにもない。紅焔と話すことも気軽にできるようになる。
気を使う必要のない夜の静かなひと時をすごしていると紅焔が現れた。
「ナルト、良いとこへ連れて行ってやる」
紅焔が窓から出て行ったのをナルトが追いかける。
「どこへ行くんだ?」
何処へ行くのかわからずついてきたナルトは尋ねた。
「家だ!!」
紅焔が嬉しそうに答える。
ナルトは家か……と、のんきに考えた。
「て…家ぇぇ?!あるじゃん!!」
驚いたナルトを見て、満足そうに笑う紅焔は森を指差した。
「あそこに、昔俺が使っていた家を隠してある。広いし、なんだったら俺があの狭い部屋とつなげてやるよ」
紅焔は得意げに言う。人間には到底出来ないこともこの九尾はやてのける。
紅焔の妖術の凄さをいまさら驚くことのないナルトはただその広い家とはどのくらいなものか考えていた。
森の中にあるその家は、どうしてこんなに大きな家がどうして誰にも気づかれないのかと、思うほど大きく、豪華であった。
中に入ればこまめに掃除されてたかのようにきれいで、書物庫が二つ、キッチンに五十畳はある大広間、その他にも多くの部屋があった。
「な? ここなら奪った禁書や武器も置いとけるだろ?」
禁書とは里の重要機密などが書かれているもので、奪っていいものではないのだが紅焔はまったく気にしない。
「いやいや、何でここ誰も知らねえの?」
ナルトも紅焔と同じく禁書についてはまったく気にしていないが、このあまりにもでかい家の存在を誰も知らないことに疑問を覚えた。
「ああ、結界だよ。妖特有のな、人間には感じることすら出来ない」
得意げに言う紅焔にナルトは笑うしか出来なかった。
他の何も知らない人間に比べればずいぶん妖のことを知っていると思っていても、全てを知ることはできないのだと思い知らされる。
「「旦那ー!!」」
どこから出てきたのか、小さい鬼と女が現れた。
「おお!!地衣鬼)、恐女)!」
二人の姿を見た紅焔は親しげにその名を呼んだ。ナルトは二人のことを知らないが、紅焔は知っているようだ。
仲良さげに話している様子を見ていたナルトは紅焔に尋ねた。
「そいつら……誰?」
「こいつらは俺の知り合いの妖だ。俺がいない間ここの掃除とかしてくれてたんだ」
妖の結界。妖の住む家……まさしく妖怪屋敷。
「オイラは地衣鬼ってもんです」
小さい鬼。とはいっても、ナルトの腰ぐらいの背丈はある一つ目が自己紹介をした。
「私は恐女です。よろしくね」
地衣鬼にならい、片目を隠した女もあいさつをする。
紅焔がナルトの中に封印されていると知っても、二人はナルトを責めるようなマネはしなかった。むしろ、封印された紅焔を馬鹿にするしまつである。
「そうだナルト。手、貸してみ」
紅焔にそういわれ、ナルトは素直に右手を出した。
人間ではありえないほど長く、鋭く爪を変形させた紅焔は軽くナルトの手の平を傷つけた。
薄っすらと赤く血が滲む。多少の痛みを感じながらもナルトは何も言わない。紅焔を信頼しきっているため、多少のことでは動揺しないのだ。
「これで譲渡成立だ」
ナルトの傷口に己の血を垂らした紅焔がニッコリと微笑む。
紅焔曰く、妖の結界に入れるのは結界の主が許した者だけ。この結界の主は紅焔だったのだが、これからはナルトの家となると言って結界の権利をナルトに渡したのだ。
これで誰を家にいれるのか決めるのはナルトになった。
その後、紅焔は予告通り妖怪屋敷とナルトの家を繋げた。そこには常識なんてない。
妖怪屋敷から火影が用意した家へ行き、そこから買い物へ出かけた。
これからは表面上、一人暮らしをするのだから、必要な物が多い。
「旦那! ナル坊! お気をつけて〜」
地衣鬼が妖怪屋敷からナルトを送り出す。
こんな風に誰かに送り出されたことのないナルトは少し照れながらも手を振り返した。
小さな家の玄関から商店街へ行くと、そこは多くの人で賑わっていた。
「……嫌な目だ」
多くの殺気がナルトを襲う。
ナルトの監視役の忍として近くにいる紅焔も良い気はしない。
ナルトと紅焔の斜め前の親子たちも何か子供に囁いている。
どうせ近づくなと言っていると思っていたら、子供たちがナルトのもとへよってきた。
それも笑顔で。どうみても嫌がらせを言うために近寄ってくる顔ではない。
「ねー。あんた何ていうの? 私は山中 いの!」
クリーム色の髪の元気な女の子が自己紹介をする。
「ボクは秋道 チョウジ」
団子を食べながら、丸い男の子が続く。
「俺は奈良 シカマル……」
やる気のなさそうな男の子が呟くように言う。親たちはそれを楽しそうに見ている……。
それだけでもこの木の葉の里ではおかしいが、どこか知った気配だとナルトは感じた。それはそこいらの暗部じゃわからないくらいかすかな気配。
「ねー? 聞いてるの?!」
気配を探っていたため、ナルトはいのが何度も自分の名前を聞いていたことに気がつかなかった。
いつまでも返事をしないナルトに痺れを切らしたいのがナルトを除き込んでいた。
「え! あ、ええと…俺ってばうずまき ナルトだってばよ!」
表の口調で自己紹介をすると、子供達は満足そうに笑い、遊ぼうと誘ってくる。
「え?! ……うん! 遊ぶってばよ!!」
何も知らない元気な子供を演じていたナルトは見た。
ナルトを受け入れてくれる子供を見て微笑んでいた紅焔も見た。
いのの父親がシカマルの父親をからかい、チョウジの父親がそれをなだめる…それは暗部の任務で見た光景。そしてをあの見知った気配とあわせると納得がいく。
「陰・心・態!?」
ナルトが口に出すと、親たいは目を見開いてナルトを見た。そして素早くナルトを俵抱きにする。
「ちょっとお前達、こいつを借りるぞ」
シカマルの父、シカクが子供たちを見下ろして言う。
「ええー?!」
「何すんの?」
「親父…そんな趣味があんのか?」
息子に変な目で見られたことにショックを受けつつも、シカクは素早くナルトを連れ去り、いのの父、いのいちとチョウジの父、チョウザは子供たちをなだめてシカクを追った。
「おいおい、何で俺達の暗部名を知ってんだあ?」
はたから見れば脅しているように見えるが、シカクはいたって普通に聞いていた。
「やめろシカク、脅しているようにしか見えん」
いのいちがシカクをなだめる。チョウザはナルトに団子を渡しながらニコニコしている。
「お前ら……ナルトを連れて行くなど……どういうつもりだ?」
殺気がシカクたちを襲う。
振り向けば、今にも周り全てを瞬殺しそうな勢いでシカクたちを睨みつける紅焔がいた。いくら知っている者、さらには同じ里の者とはいえ、ナルトに危害を加える奴を紅焔は許さない。
「まっ! 待て! 俺たちはただ、このガキが何で俺たちの裏の名を知ってるのか聞きたくて……!!」
慌てて弁解するシカク、紅焔はそんなことかと殺気を引っ込める。
「なぜも何も、お前達も俺達を知ってるだろ?」
シカクの後ろでナルトが答える。
「俺達だけお前らの正体を知ってたらフェアじゃないな。まあお前らは信用できるし、教えてやるよ。俺は『金蒼』そいつは『朱九』だ」
あっさり正体をばらしたことにシカク達だけでなく、紅焔も驚いた。
慎重な性格のナルトは今まで誰かに正体をばらしたことはなかった。カカシには事故でばれてしまったが、あれは例外である。
「……いいのか?」
「いいさ、陰たちのは世話になったこともあるしな」
カカシと同じ任務につけられた後、金蒼たちも別の奴を任務をすることがあると噂が流れ、何度か別の奴とも任務をするはめになっていたのだ。
陰たちとも何度か一緒に任務をしたことがある。
木の葉のトップと、影のトップを目の前にして混乱するシカクたちにナルトが呼びかける。
「何してんの?早く行こうてばよ!」
暗部の時のあの冷静で落ち着いたイメージと、今目の前にいるナルトのギャップにさらに苦悩する親たちを残して、ナルトは子供たちと遊ぶのであった。
「いい暇つぶしになりそうだな」
そう呟いたのは誰だったのだろう?
第五話 興味