興味
護衛の任務を受け、アカデミーに入学してからしばらくがたったある日、ナルトは護衛する人物とまだ接触していないことに気がついた。
今まではただドベのナルトとして毎日を過ごしていただけ。よく遊び、よく悪戯し、よく嫌われていた。
「やっぱまずいよな〜」
もちろん知られなくてもよいのだが、やはりある程度の交友関係を持っていると任務がよりスムーズに行える。
というのは建前で、この退屈な任務に少々苛立ちが募っていたのだ。
どうにかして、自然に接触を試みようとした結果、ナルトは得意の悪戯を実行することにした。
用意するものは『起爆札』『煙球(赤)』『クナイ×二十本』『竹やり』
これだけのものを用意したナルト。用意したもの自体は誰でも簡単に手に入れることのできるものであったが、ナルトにかかればこれだけの道具で十分に人を抹殺できる。
「さあて、楽しみだなあ」
そんなナルトだが、微妙な常識が欠けているため、一介のアカデミー生相手に手加減できるかは疑問である。
ナルトを止められるのは、火影か紅焔だけ。火影はこの場にいないため、これからネジを襲うであろう事態を把握することはできない。
頼みの紅焔はネジがどうなろうと知ったことじゃない。それどころか、ナルトが楽しむのならネジなんて死んでもいいと考えていた。
ナルトを止める者はおらず、ナルトは着々と仕掛けをほどこしていった。
仕掛けを完成させたナルトはアカデミーの裏側でネジを待った。ネジは人と触れることを好まないために、ここをよく通るのだ。
そのあたりはしっかり暗部の力を使って調査済みである。
いつもどおり澄ました顔で歩いているネジにナルトは赤色の煙玉を投げつける。
「うわ! なっ、何だ?!」
いきなり投げつけられた煙玉にさすがのネジも慌てた。それを見てナルトは微笑む。予想通りの反応。
白眼を使い、ネジは障害物のない方向へ移動する。見事にナルトの予想通りの動きをしたネジはトラップを踏んだ。
やや斜め後ろが起爆札が爆発。その衝撃でネジの真上から鋭く光ったクナイが二十本も降ってきた。
白眼を使っていたためいち早くクナイ気づいたネジは、起爆札で火傷を負った体で素早く後ろへ避ける。しかしここで終わるナルトじゃない。
後ろへ避けたネジの背中に向かって、地面から竹やりが飛び出る。それがネジの背中をわずかに削り取った。
ネジの背中からは赤い血が流れ出す。
「はぁっ…は…ぁ…」
日向でも有能なネジとはいえども、このトラップの数々には息を切らせた。
そろそろかと、ナルトは木の上から飛び降りた。
「はーはっはっはっは!! う・ず・ま・き・ナ・ル・ト見参!!」
ナルトは『表』の仮面をかぶってネジの前に現れた。
「な……ナルト? お前がこのトラップを?」
ネジが息を整えながら尋ねてくる。
「へっへーん!そうだってばよ!!」
得意げに胸を張るナルトに、ネジが狂ったような怒りをナルトにぶちまけた。
「おっ……お前は…!! 俺でなければ死んでるところだったぞ!!」
もちろんナルトはそこの所をよくわかっていて、死ぬぎりぎりまで抑えたのだ。
「えっ! そうなのか?! 悪ぃ!!」
ことの重大さを分かっていないような言い方をするナルトに、ネジが殴りかかった。
「お前……人の死が分かっているのか?!」
怒りを顔に出して怒っているネジは、いつもの澄ました顔とは全く違った。
「だから悪ぃって!」
内心、全く別のことを思いながらも、表面だけは謝った。
ナルトは思う。ネジは本当の意味での人の死を知っているのだろうかと。
暗部として人を殺してきた。うずまきナルトとして殺されかけた。ナルトほど人の死を知っている人間が里にいるとは思えない。
言い合いをしていた二人の間に学校のチャイムが聞こえた。
「あー。授業……さぼるってばよ!」
そう言ってこの場を離れようとするナルトをネジが引き止めた。
「まて……お前…」
まだ何か説教をするつもりかと思い、顔をしかめたナルト
「お前……この後片付けをしないつもりか?」
ネジの言葉に、ナルトは先ほどのトラップの残骸を見た。
確かに普通の者が見たら、大騒ぎしそうなものだ。焼け焦げた草、突き刺さるクナイ、突き出る竹やり。
「あー。するってばよ」
仕方がないので、後片付けを始めるナルトをネジはじっと見ていた。
じっと見ているくらいなら、手伝えばいいのにと思いつつ、ナルトはネジに話しかけた。
「何だてばよ?」
「いや…ちゃんと後片付けをするのかと思ってな」
ネジの失礼な言い方に、少し腹を立てたナルトだが、少し別の考えが脳裏を過ぎる。
以外にネジは面倒見がいいのかもしれない。人と関わりをもたないが、根本的な部分では社交性があるのかもしれない。
別に他人と関わる気など毛頭ないのだが、少々興味がわいた。
「ネジってば意外と喋るんだなあ」
ナルトの言葉に、ネジは眉間にしわを寄せる。
「ふん…お前には関係ない」
そのまま去っていくネジを見て、ナルトは静かに笑った。
シカマル達といるときは楽しいと思った。それでも深く知りたいとは思わなかった。そんな自分にも他人への興味というものがあったのだとナルトは笑わずにはいられなかった。
第六話 夜の笑み