夜の微笑み  ナルトはネジに興味をもってから、ネジにちょっかいをかけまくった。
 水をかけたり、カエルをネジの頭へ落としたり……あのイタズラに比べればマシなものであるが、ネジもさすがに疲れてきた。
「おいナルト! お前何をしたいんだ?!」
 ネジが校舎裏でナルトを怒鳴りつけるが、ナルトは平気な顔をして笑っていた。
「やっと喋ったてばよ」
 ナルトは満面の笑みであった。ネジを喋らすための数々の仕掛けが、見事その役目を果たしたのだから、嬉しくないはずがなかった。
 無論、ネジの驚く表情を見るということも、数々の仕掛けの役目の一つである。
「お前ってさ、面白いよ……」
 いつもと違うナルトの雰囲気に、ネジは思わず背筋が凍る思いがした。
「お…まえ……ナルト…か?」
 信じられないと言うようにネジが声を絞り出す。
 いつもとは違う冷たい雰囲気。ナルトとは思えないほどの鋭い気配。目の前にいるのは、誰だ。
「そうだってばよ? ネジってば今日は変だってばよ」
 いつものように言っているナルトだが、口が別の言葉をつむぐ
『俺の正体が分かるかな?』
 ネジとナルトに生徒が近づいてきていたから、ナルトはネジだけにこの言葉を聞かせた。
 その後のナルトはいつもどおりのナルトで、何も違和感などなかった。本当に奇妙なほど、あの時のナルトはいない。
 ナルトと話した後、ネジは自分なりにナルトのことを調べた。
 自分でもある程度は知っていたが、第三者からの情報も考慮しようとしたのだ。
 だが、アカデミーの生徒にナルトのことを聞けばみんなそろって「馬鹿」「明るい」「うぜぇ」などの言葉が返ってくる。そんなことはネジもよく知っていた。
 アカデミー生に聞いてもしかたがないと思ったネジは次に大人に聞いた。
 答えはそろって「近寄ってはいけない」
 もしくは眉間にしわをよせて黙っている。
「何なんだ…?」
 ネジはナルトの正体をつかめぬまま悩んでいた。ナルトの秘密。ナルトの正体。何もかもわからないままであった。
「日向ネジもたいしたことねぇってばよ!」
 ナルトについて何もつかめぬままであったネジのもとにナルト自身が現れた。
「そうだな……分家とはいえ甘やかされて育った餓鬼がきだからな」
 ナルトの隣には紅焔がいた。ネジにとっては見慣れない青年だった。
 しかし二人は親しげで、他人でないことはすぐにわかった。
「お前には……とんでもない秘密があるようだな」
 ネジが真剣な顔で言うと、ナルトはニヤリと一瞬笑った。
「探れ、捜せ、俺の正体を。俺が始めて興味をもったお前に、俺は期待している」
 ナルトが言い終わると、紅焔はナルトを抱えて姿を消した。
「ナルト…お前の正体……暴いてみせる…!」
 後に残ったネジはひっそり呟いた。
 まさか今日の夜にその正体を知るとは夢にも思わずに……。
 ナルトに正体を探れと言われたその日の夜、ネジは見てしまった。
 里の者がナルトに暴行を加えているところを。体中から血を流し、口からも血を吐いている。それでもなお蹴られ、さらには刀を突き刺される。
 ネジはしばらくの間それを呆然と見ていた。
「や…やめろ!!」
 ネジは慌てて大人達を止めに入った。
「何だあ?! おめえも木の葉の者じゃねぇのかぁ!!」
 一人がの大人が怒鳴るように問いかけた。
「俺もそいつも同じ木の葉の者じゃないか!!」
「何言ってんだ! こいつの…この……狐が俺達の友を肉親を、殺したんだろうが!!」
「!!!」
 ネジには何を言っているか理解できなかった。
 大人のいう狐とは……ナルト? ナルトが里の者を殺した? そんなはずはない…狐……そういえば九尾の狐がいたな……。
 頭だけが酷く冷静に情報を整理していた。しかしその情報はネジの頭の中でグルグル回っているだけで、何処かに行きつくことはなかった。
 呆然としていたネジだったが、気づくと口から言葉がもれていた。
「違う……違うだろ! ナルトじゃない…ナルトじゃないだろ!!
 そんなの八つ当たりだ!やめろ!ナルトに何をする!!!」
 ネジにも自分が何を言っているのか分からなくなっていた。大人の言うことから、九尾とナルトが何らかの関係があることはわかった。
 もしかしたら、自分が知らないだけで、本当にナルトは九尾が変化した姿なのかも知れない。だが、ネジは自分の目を何よりも信じていた。
 その目が見てきたナルトは未知の部分が多くあるにせよ、けっして里を脅かすような者ではなかった。
 だからネジは動いた。そこにあるのはナルトを助けたいと言う思いだけ。
「何だ?! てめえも狐の仲間か?!」
 一人の男が刀をネジに向ける。
 死ぬかもしれないと思った。けれども、同じ里の者を守って死ねるならば、それは喜んでいいことだろうとも思っていた。
 しかし、結果的にいえばネジは死なずにすんだ。
「やめろ、そいつは日向の坊ちゃんだ」
 ネジび刀が当たる前に、暗部がクナイを男の首筋に当てたのだ。
 躊躇のない口調に、男は暗部が本気だと知っ
「やめる! やめるから助けてくれ!」
 無様にも泣きながら懇願こんがんする男を見て、暗部がクナイを放す。
 すると男を筆頭に、大人達は一目散に逃げていった。
「大丈夫か? 日向の坊ちゃん?」
 暗部の男がネジに手を差し出す。
「俺は大丈夫だ……ナルトの手当てを……」
 ネジが言うと暗部は鼻で笑い、ナルトを足蹴にした。
「狐を? 大丈夫さ、狐なんだからな」
「あんたもか…?」
 一気に憎しみがネジの心に湧きあがった。
 助けてくれた者も腐っていた。ただ、名家の子どもが危険だったから助けた。それだけだったのだ。
 ネジは暗部を睨みつけ、暗部に飛びかかった。許せない。腐った大人が許せなかった。
 面があるのもかまわず、ネジは暗部の顔を殴ろうとした。
「ストップ! ストップ! 分かったって!!」
 ネジは暗部の声を聞いて、正気に戻った。
「あ…! 俺は…暗部に……」
 暗部に喧嘩を売ろうとしていたことを思い出し、ネジは血の引く音が聞こえた。
 暗部相手に、アカデミー生が敵うわけない。いくら名家の者だとはいえ、殺されない保障などどこにもないのだ。
 正気に戻ったネジは暗部の背が自分より少し小さいことに気づいた。
「お……まえ?! ナルトだな!」
 ネジが暗部のお面を奪い取ろうと手を伸ばすと、簡単に面を取ることができた。
 奪い取った面の下にはよく知った蒼い目があった。
「正解♪ どこで分かった?」
 嬉しそうに聞くナルトはまるで全てを見通していたようにも見える。
「……声と雰囲気。それと……お前は狐を本当に嫌ってるようには思えなかったからな」
 ネジの説明を聞いて、満足したのかナルトは笑っていた。それの笑顔は綺麗で、思わず見惚れてしまう。
 見惚れた勢いで、ネジはナルトに言った。
「な……ナルト! 俺を鍛えてくれ!お前を守れるように…」
 ネジの言葉を待ってましたと言わんばかりにナルトは笑みを深くする。
「俺を守れるだけってのは無理だろうけど、この金蒼が直々に暗部になれるよう鍛えてやるよ!!」
 金蒼と言うのは忍の中でも一部の暗部しか知らない名なので、ネジは金蒼がどのような人物か気づかなかった。
 だが、金蒼のことをよく知っている者が聞けば、金蒼との修行などいくら命があっても足りないと、丁重にお断りしただろう。
「紅焔。俺の言ったとおりだろ?」
「ああ、ナルトの目に狂いはなかったな」
 どうやら、ナルトは本当にこうなることを予測していたようだ。得意げに紅焔を見上げる。
 紅焔とナルトの会話の邪魔をしてはいけないと思いつつも、ナルトの傍にいつもいる紅焔が木に鳴ったネジは思い切って聞いてみた。
「その人は……?」
 ネジの言葉に紅焔は笑って答える。ナルトを認めた人間に正体を隠す必要はないとでもいうのだろうか。
「俺は紅焔、九尾の狐だ」
「え……」
 ナルトと九尾の関係をまだよく知らないネジは、どうしてナルトと九尾がそれほどまでに親しげなのか、また、九尾は四代目に倒されたのではないのかと、混乱するばかりであった。


第七話 違和感