意外な真実  キバとシカマルはナルトの正体をどうあばくか考えていた。
 キバにしては真剣に、そして静かに考えていると、シカマルがキバにふともらした。
「ナルトは俺達を試してるんだと思う」
 シカマルが急に言い出すので唖然としているキバを横目にシカマルは続ける。
「よく考えてみろ、ナルトが本当に俺達が考えているような凄い奴なら、あんな風に正体がばれるようなへまはしないはずだ。
 考えられる答えは一つ……俺達がナルトのそばにいるに値するか試してるんだ」
 シカマルの言葉に何となくではあるが納得したキバは静かに頷いた。その後、シカマルの提案で各々がの知っていることを話すことにした。
「ナルトはどうやら里の……特に大人に嫌われている、と言うより憎悪の対象になっているようだ」
 シカマルは洞察眼を生かして知ったことを話す。
「ナルトは時々薄っすらと血の匂いがするぜ、ナルトの血のこともあるけど大抵は他人のだ」
 キバは己の嗅覚を生かして知ったことを話す。
 それぞれの話をシカマルがまとめていくと、どうやらナルトは二十歳以上、一般的に大人と言われる年齢の者に嫌われており、おそらく影で暴行を受けている。ナルトの血はその時流れた血で、他人の血というのは、やり返した時の返り血ではないのだろうか。
 わずかに真実とは違うとはいえ、少ない情報でここまで真実に近いものを得れた。だが、シカマルはどこか納得がいかないようだ。
「何だよ?」
 キバが何が不満なのか尋ねると、シカマルは自分が不満な点を述べた。
「ナルトが里の奴にやり返すほどの力があるのなら、ナルトは危険だってことで、ナルトを恨んでいる上忍などに殺されているんじゃないか?」
 シカマルの意見も尤もなのだが、キバがそんなことをここで悩んでいても仕方がないと、先に走って行ってしまったのでシカマルも行動に移すことにした。
 キバは獣並みの聴力を生かしナルトに対する言葉を聞き、嗅覚を生かしナルトが暴力を受けている現場を探ることにした。もはや完全に『犬』である。
 シカマルは頭脳を生かしナルトが生まれた時から今までにあった出来事を調べ、大人の憎悪の対象になりそうなもの探す。それに加えてキバの情報も照らし合わせる。
 二人が行動に移すと情報を得るのは驚くほど簡単であった。
 キバがナルトのやや後ろを歩けば「化け物」「人殺し」「死ね」「狐」と言う言葉が次々に聞こえてくる。ナルトが暴力を受けているところもすぐに見つかり、なぜ今まで気づかなかったのかと言うほど悲惨なものであった。
 その様子と言葉を聞いてシカマルが書物をあさると、「狐」と言う単語で人々が憎悪するものは一つだった。
「『九尾』だ……里の奴らがナルトを嫌ってるのはこれが理由か…?」
 九尾のことをつかんだが、ナルトと九尾が一体どのような関係にあるのか、これではわからない。
 しかし、人類の英知が詰まったもの。すなわち書物からナルトと九尾の関係があきらかになった。
 その書物は木の葉で一番大きな図書館の秘密の扉の向こうにあった。
「おい……シカマル…。ここ、入ったら怒られるんじゃね?」
 キバが怯えながらシカマルに聞くが、シカマルは返事をせずに黙々と進み続ける。この図書館の秘密の扉の向こうには、里の重大機密や、表には出せない情報がゴロゴロしているのだ。
 しばらく進んでいくと、大量の巻物がある部屋に出た。シカマルはその中から目的の巻き物を探しあてた。
「あったぞ。ほら……。ナルトの中にはあの九尾が封印されてるんだ!」
 九尾とナルトの関係はわかったが、ナルトにはそれ以外のものもあるような気がした。
 だが、あまり長い間この部屋にいれば、この秘密の部屋を利用する暗部に見つかる可能性があると考えたシカマルは、キバをつれていったん図書館を出た。
 ゆっくり話し合えるところで詳しい話をしようというのだ。
「そうだ……ナルトは強さを隠してるんじゃねぇか?」
 ようやく落ち着いたシカマルが呟くと、キバは不思議そうに聞き返した。
「考えてみれば、ナルトは幼い頃から暴力を受けていると考えていい、ならば自分の身を守る術ぐらいもつだろ……。
 そして自分の強さがばれれば上忍……もしくは暗部に殺されるかもしれないことは簡単に想像できるだろう。だから強さを隠していると考えられる」
 シカマルの説明に頭を抱えているキバは自分の思考をスッキリさせるために、自分の中で重要な一つを質問することにした。
「とりあえずナルトは殺されたくないから強さを隠してるんだな?」
 シカマルはそれに無言で頷き、何の違和感もない動作でキバにクナイを向けた。
「なっ…何すんだ?! シカマル!!」
「お前はどうする……。ナルトの正体を知った今、俺達には三つの選択肢がある。
 一つ目はこのまま何も知らないふりをする。
 二つ目は里の奴らと一緒に奴を迫害する。
 三つ目奴を信じ奴の手助けをする……さあどれだ?」
 シカマルの真剣な声を聞きながら、キバはつばを飲み込み答えた。
「俺は……ナルトを信じるぜ」
 キバの言葉にシカマルは嫌悪するような目を見せた。
「お前は『狐』を信じるのか……?」
 シカマルの意外な言葉にキバは目を見開いて呆然となった。
 シカマルの言葉は先日まで一緒に笑いあった仲間へ向けるものではない。ましてや、シカマルはキバよりもナルトとのつきあいが長いのだ。
 キバは力いっぱい拳に力をいれてシカマルを殴った。
「シカマル……お前そんな奴だったのか?! てめえ…許さねぇ!!」
 怒りを身体全体で表しているキバは、さらに殴りつけようと再び拳を握った。
「ちょ…まてって!! 冗談だよ!」
 慌ててキバを止めたシカマルは、めんどくさそうにかつ痛そうに事情を説明した。
「いや……俺がナルトを信じないって言ったぐれぇで、あっさり思いが変わっちまうような奴をナルトのそばに置けねぇだろうが」
 なあナルト? とシカマルが言うと、何処からともなくナルトが現れた。
「なっ! ななな?!!!」
 驚きのあまり声が出ないキバを見て、ナルトが笑った。
 それはいつものナルトの笑いとは違い静かなものだったが、キバの耳には確かに笑い声が聞こえた。
「いやー。ネジが俺の正体を知ったときを思い出すな」
 懐かしむような口調でナルトが言う。
「ああ、そういやぁ、ネジにばらしたときはナルトが殴られたんだっけか」
「ばーか。俺はちゃんと殴られる前に止めたよ」
 お前みたいに頬を赤くするようなマネはしてないと言って、シカマルの心をナルトは綺麗に抉った
「何だよ! わけわかんねぇよ!」
 頭を抱え、大声で叫ぶキバをシカマルがなだめる。
「まあ……簡単に言うと実はな俺はけっこう前にナルトの実力も『九尾』のことも知ってたわけだ」
「んで、キバを試すためにシカマルに協力してもらったんだ。まあキバ一人じゃ俺の正体わからなさそうだったし」
 ナルトとシカマルの言葉にキバは脱力し、その場に座り込んでしまった。
「何だよそれぇ……」
「キバ……ナルトに試されるってのはけっこうすげぇんだぞ?
 俺は小さい頃ナルトの正体を見ても嫌いにならなかったからこうしてそばにいる。
 ネジは興味本位で関わったらしいけど、自分から正体をばらすつもりはなかったって言ってる。
 ナルトが自分から……。それもわざわざ俺を使ってまで、誰かを試して仲間にしようとするのはこれが初めてなんだからそんなにしょげるなって。な?」
 どうにかしてキバを慰めようとするシカマルだが、キバは納得いかなそうな顔をしている。
「何で……何で俺なんだ? そりゃ嬉しいけど……でもチョウジだってサスケだってよかったはずだろ?」
 キバが腹立たしげに言ったが、ナルトは心底信じられないという顔をしていた。
「お前、自分で気づいてないのか?」
「何がだよ?!」
 牙をむくようにうなるキバを見てナルトとシカマルは大きくため息をついた。
「お前は霊獣に認められて、その身に特別な力をやどしている」
「はあ?」
 ナルトに言われてもキバは信じられない…というよりも何を言ってるのだろうと驚くことしか出来なかった。
「大体俺はサスケが大っ嫌いだし…おいキバ? 聞いてるのか?」
「………聞いてるよ」
 色々なことがありすぎて、キバの頭はパンク寸前だった。もっと簡単に話しをしてほしいものだが、これがナルトにとっての精一杯簡単な説明なのだろう。
「ってか俺は霊獣? なんかに会ったこともないし……」
 ぶつぶつと呟き始めたキバを心配してシカマルが説明をする。
「昔、その霊獣の棲む森に小さな子供が迷い込んだんだってよ。
 本来ならそこで罰を与えるんだけどよ、その子供は普通の子供よりも無邪気で動物達とまるで昔からの仲間のようにに接しているのを見て霊獣はその子供を気に入ったらしくてある力を与えたんだと」
 キバは昔の記憶をゆっくりと、地道に手繰り寄せる。
 遡っていく記憶の中にキバは赤いたてがみを見た。
 それは記憶に残らぬほど小さいころの記憶。
 真っ赤な鬣の獅子との記憶であった。
「あ……そういえば、真っ赤な鬣のライオンに会ったな……。で、特別な力って何だよ?」
 キバは最初に比べると、だいぶん落ち着いた声でナルトとシカマルに尋ねたが、帰ってきた答えは―――
「さあ?」
「俺が知るか、めんどくせぇ」
 だった。
 今の一言で、キバは二人の実力が今まで自分が知っていたものとは違ったとしても、中身はあまり変わってないことを思い知らされた。
 そしてそれが少し嬉しかった。
 なんだかナルトが自分を選んだことも、霊獣のこともめんどくさくなってきたキバは、最後に一つだけ質問することにした。
「俺はお前のそばにいれんのか?」
 これは本当に大切な質問。このことにさえ答えてもらえれば、霊獣のことなどどうでもいい。
 キバの真剣な声に、ナルトはしっかりと答えた。
「ああ、もちろん修行は必要だけどな」
 ナルトの言葉に心底嬉しそうなキバを見て、赤丸も嬉しそうに吠えていた。
「じゃあ……紅焔に頼むか」
「はぁ?! やめろ! キバがマジで死ぬ!!」
 ナルトの発言を聞き、これまでにないくらい必死なシカマルを見てキバも不安になってきた。
「なあ……紅焔ってそんなに怖いのか?」
 キバの質問にシカマルは頷きナルトは首を横に振る。
「けっこう頼りになるし、霊獣からお前のことを聞いたのも紅焔だぞ?」
 ナルトが明るく言うので、キバは安心した。この後のシカマルの言葉がなければ安心したままでいられるはずだった。
「いいかキバ……紅焔てのは九尾だ」
 キバの身体が一瞬で固まった。
 ナルトの中に九尾がいようがどうでもよかったが、実物の九尾がいるとなれば話は別だ。九尾は恐ろしいものだとしてみっちり教えられている。
「お前がキバか」
 突然の声に驚いてキバが振り向けば、緋色の髪の紅焔がいた。
「え? あの…はい」
 キバは紅焔の威圧に負けて思わず頷く。犬塚家の獣としての本能が目の前にいる男こそ九尾だと告げた。
 色々聞きたいこともあるのだが、何も言えず紅焔を見ていると、突然紅焔がキバの頭をクシャリと撫でた。
「そう緊張するでない。確かに俺の修行は厳しいが取って喰うわけではない」
 どこか優しい声の紅焔をすっかり信用してしまったキバは、数日後、地獄を見たと言う。
「だから言っただろ? あいつの修行は半端じゃねぇんだ」
 苦笑いをしたシカマルが言う。シカマルもネジも一度は通った道なのだ。


第九話 決意