決意  シカマルとキバの恐怖のアカデミーもそろそろ終わりを告げていた。もうすぐしたら卒業試験があるのだ。
「俺も今年でようやく卒業か……」
 長かったぜと呟くナルト、そしてナルトと違う班になることを願っているキバとシカマルを見て、ネジは苦笑いをしていた。
 去年の自分もナルトと離れられてホッとしていたことを思い出す。
「あっ!そうだ、ネジ、シカマル、キバ」
 ナルトに呼ばれて返事をした三人に、ナルトは爆弾発言をした。
「お前ら暗部の試験受けろよ」
 三人の時は一瞬止まった。
 いくら強くなったとはいえ、三人はまだ暗部になれる自信がなかった。というよりナルト以外の暗部は見たことすらなかった。
「アカデミーの卒業試験の日だから忘れんなよ?」
 そういうとナルトは姿を消してしまった。
「なぁ……暗部の試験ってどんなのだ?」
 キバが恐る恐る聞くと、ネジがさらに恐怖をあおるようなことを言った。
「知らんが…確か暗殺戦術特殊部隊……通称暗部は火影直属の部隊のため、普通の昇格試験とは比べ物にならないほど厳しい試験らしい。
 それを受けたため……死んだ忍も大勢いるそうだ」
 ネジの言葉にシカマルの眉間にしわがよった。
「おいおいマジかよ……」
 さすがに生命の危機となってはめんどくさいなどと言っていられない。
 試験を受けないという道は残されていない。もしも断ってしまえば、ナルトはこれ以降試験を受けさせないであろう。
 ナルトの傍で戦うことは一生できなくなる。
 三人は、きたる試験のために必死になって訓練をすることにした。
 そしていよいよ試験の日。
「ナルト、どこ行くんだ?」
 アカデミーの卒業試験を終え暗部の試験を受けに行こうとしたシカマル達だが、ナルトが別の場所へ行こうとしているのを発見した。
「いや…ミズキの奴が『うずまきナルト』を使って禁術書を奪おうとしてたからお仕置きにな」
 黒い笑みを浮かべるナルトの横にはいつの間にか紅焔がいた。
「ナルトを心配してるのなら無駄だぞ」
 確かに紅焔の言っていることは正しいナルトは里一番の実力者。その傍らにいるのは最凶の妖魔九尾こと紅焔なのだ。
 その辺の上忍や暗部など一瞬で髪一筋残さず消すだろう。むしろ心配なのはミズキの身の安全である。
「……分かったよ」
 三人は渋々ナルトと別れ、暗部の試験を受けに行った。心なしか体が重いような気がしたが、木にしないことにする。
 三人が行ったのを確認すると、ナルトは紅焔に話しかけた。
「じゃあ行くか紅焔」
「どこぞの中忍が紛れ込みそうだな」
 イルカのことをさす言葉だろうが、ナルトは別に気にも留めずに予定していた場所へ向かった。
 誰が割り込んでこようが、ナルトには関係ない。上手くまいてしまえばいいだけの話しだ。
「さぁどう料理しようか…」
 ナルトは心底楽しそうな顔をしていた。
 イルカが先にナルトを見つけたのは予想外だったが、ミズキとも会えてほぼ予定どおりに進んでいるはずだった。
 イルカがナルトを庇うまでは―――。
「…何で……」
 ナルトには分からなかった。
 大人には嫌われているナルト、確かにイルカは普通に接していたがそれでも嫌われ者の、それも身内でも何でもない他人を庇うなんてナルトには信じられなかった。
 ナルトは仲間は庇うが他人は庇わなかった。仲間とは紅焔やシカマル達…ときには共に行動する暗部。他人とは里の者。
 任務の帰り道、山賊に襲われているところを見たことがなんどかあったが、ナルトは関わらなかった。
「…オレなァ…」
 自分の思いを言うイルカの姿はナルトにとって異端であったが、それはとても暖かく感じた。
「ごめんなァ…ナルト、オレがもっとしっかりしてりゃこんな思いさせずにすんだのによ」
 涙を流しながら俺はもうこんな思いしなれてるから
 ナルトを思い涙を流すイルカの姿はナルトの心を少し変えた。
「イルカ……先生」
 いつもとは違う雰囲気のナルトの声がイルカを呼び、いつもよりも不安定な目がイルカを捕らえる。
「ナルト……?」
 そのいつもとは違う様子にイルカは思わず呟く。
 だが、ナルトは返事をせず、素早くイルカの下から抜け出しミズキを殴った。
「なっ?! バケ狐がぁ!!」
 殴られた頬を押さえながらミズキが吼えた。しかしナルトはそれを鼻で笑い、ミズキに恐怖の言葉を投げた。
「それは……本人に言えよ?」
「だからそれはお前の――――」
 ミズキはその続きを言えなかった。
 背後から腕を伸ばされ、首に爪を押し付けられていたのだ。
 その爪は明らかに人間にものではない。もっと硬く、鋭い、獣の爪。
「わしが九尾の狐じゃ……何か文句でもあるか?」
 紅焔の口調が変わっているのは怒っている証拠。今にもミズキをとって食いそうな雰囲気の紅焔をナルトは止めなかった。
「俺の分も残しとけよ?」
 むしろやってしまえと言わんばかりの言葉を投げかける始末であった。
「ナルト……どういうことだ?」
 真剣な顔のイルカを見て、ナルトはまず背中の傷を治した。
 傷は思ったよりも深い。
「イルカ先生…今ここであったことは内緒だってばよ?」
 どこか黒い笑みを浮かべながらナルトがイルカに言った。
 イルカの傷はすでに治っている。
「なるほど…わかった。……その口調も演技か」
 ため息をつきながらイルカが言うと、ナルトはわかる? と笑っていた。
「実は俺、暗部なんだ。暗部名は『金蒼』っての、あっちは紅焔……まあ、九尾で暗部で『朱九』って言うんだ」
 『金蒼』『朱九』その名前を聞いてイルカは驚きを隠せなかった。どうやらイルカは『金蒼』の活躍を知っているようだ。
 驚きはしたが、イルカは何も言わなかった。九尾が表に出ていることについても、ナルトが実力を隠していたことについても何も聞かなかった。
 何か理由があるのだとわかってくれているのだ。ナルトが話したくないことならばそれでいい。ナルトが話してくれることならばじっとその言葉を待つ。
 イルカはそういうことのできる大人であった。
 そんなイルカだったからこそ、ナルトは全てを話した。紅焔との出会いも今の状態も全て。
「そう…か……なら、オレの助けはいらなかったな」
 自分の非力さを嘆いているのか、イルカは悲しそうな表情をした。
 だが、ナルトは微笑んで言った。
「イルカ先生……俺はイルカ先生を見て一つ決めたよ」 
 ナルトはその決めたことをイルカに告げ、紅焔と共にミズキを連れて闇へ消えていった。
「そうか……オレでもナルトを変えれたのかな?」
 イルカが嬉しそうに言葉を漏らした。
 ナルトがイルカに言ったこと、それは――。

俺は今まで里を滅ぼすつもりもなければ助けるつもりもなかった…。
でもイルカ先生みたいな人がいるなら俺は里を守ろうと思う。


 ナルトが後一撃でもいれれば確実に死ぬであろうミズキを連れて火影室へ行くと、そこにはシカマル達がいた。
「お! お前ら受かったか?」
 ナルトが尋ねるとシカマル達はため息をついた。
「何だ落ちたのか?」
 まさかそんなことはないだろうと思いつつナルトが聞くと、シカマル達は首を横に振った。合格はしたらしい。
「何だよアレ…………」
「「「簡単すぎじゃねーか(だろーが)!!」」」
 暗部の試験……それはAランクの任務をこなし、帰ってきたところを現役暗部に攻撃されるというもので、普通は死ぬ。
 無論、攻撃とは言っても本気の攻撃ではない。最後の最期まで気を抜いていないかということをチェックする程度のものである。
「まったくナルト…お前どんな鍛え方をしたんじゃ…」
 ため息をつく火影を放置してナルトはシカマル達に面の形と暗部名を聞いた。
「俺の面は鳥……『鷹』だ。暗部名は『白鷹』」
「俺のは『虎』、暗部名は『影虎』」
「俺は『狼』!暗部名は『赤狼』!」
 ネジ、シカマル、キバがそれぞれに面と暗部名を告げる。
「そうか…では『白鷹』『影虎』『赤狼』お前ら三人を『金蒼』および『朱九』が隊長を勤める暗部九番隊への入隊を宣言する!」
 ナルトの言葉に紅焔以外の誰もが固まった。
「ナルト……お前隊長だったか?」
「ていうか九番隊は不吉だから使わないことになってるんじゃ…」
 それぞれが言うが、ナルトは今決めたの一点張り
「俺は…決めたんだ……里を守る。
 イルカ先生みたいな人が里に一人でもいるなら……。俺は俺と紅焔が隊長を務める最強の部隊を作る!」
 ナルトの決心は固く、誰にも崩せそうにはなかった。というよりも、誰もナルトに逆らうつもりなんてなかった。
 約一名火影だけは不安なので反対したかったのだが、ナルトには逆らえない。
 渋々と暗部九番隊の設立を許可した。
「ナルト…俺達は守るべき者には入らなかったのか?」
「そうだよな! 俺達だってイルカ先生みたいにナルトの為に身をはれるぜ!?」
 不満を言う三人にナルトは最高の殺し文句を言った。
「お前たちは守られるほど弱くないし、俺を残して死ぬようなまねはしないだろ?」
 里人は弱いから……と呟くナルトに三人は嬉しそうに笑った。
「「「これからお願いします!!隊長」」」
 ナルトは照れくさそうに笑って、任せとけと言い三人に飛びついた。


第十話 班決め