4:私達は戦う  泣いていることにナルトは気づいていなかった。
 サクラに言われ、自分で涙を拭い、始めて気がついた。
「泣くぐらいなら……泣くぐらいなら怒ってよ!」
 血が出そうなぐらい手を握りしめ、サクラは怒鳴った。
「もっと怒っていいのよ?! なじってもいいのよ?! ナルトが泣く必要なんて……何処にもないじゃない!」
 サクラの言葉に里人は驚きを隠せずにいた。
 九尾の狐ごときが、何故怒らなければならないのだろう。九尾の狐は絶望し、悲しみ、そして消えていけばいい。それが里人の考えなのだ。
「……お前ら、ナルトが怒る必要が何処にある? って考えただろ?」
 怒るサスケの瞳は赤。うちは一族だけがもつ写輪眼に睨まれた里人は一歩後退した。
 里人が一歩後退すれば、サスケは一歩前進する。
 サスケの頭の中は怒りと憎しみで一杯だった。もう、何も考えたくなかった。
「サスケ。やめなさい」
 千鳥を発動させようとしているサスケの腕をカカシが掴んだ。下忍がする仕事ではない。
「先生が、殺ってあげる」
 マスクの下には今までにないほど残酷で、素敵な笑みがあることだろう。
 左目を隠している額あてを上げ、写輪眼を発動させているところから、どれだけ本気なのかうかがいしれる。
 二人を止められるのはサクラかナルトだろうが、今その二人はとても忙しい。
「私も、戦、う……!」
 クナイを手に、サクラまでもがカカシと共に里人に襲いかかろうとする。
 涙で歪んだ視界に映る姿と、働かない脳に入ってくる知っている声。それがナルトの思考を覚醒させる。
「や、やめろ!」
 一番近くにいたサクラの手を掴み、制止の声をかけた。
 悲しみとか、喜びとか、よくわからない感情とかで一杯になった脳内でナルトは必死に考えた。
 どうすれば皆を止められるのか、自分に何ができるのか。
「ナルト……本当にやめて欲しい?」
 真剣な瞳をサクラはナルトに向けた。
 サクラの瞳は涙で濡れているというのに、鋭く光っており、その身の内にある闘争心を示している。
「こいつらはろくでなしだ」
 今にも里人に襲いかかりそうな勢いでサスケが言う。
「いなくなったほうが、ナルトは幸せになれるんじゃない?」
 サスケに続くかのようにカカシが言う。
 二人ともサクラと同じように真剣な瞳であった。
 里人の何人かはその気迫に腰を抜かしているほど、三人は恐ろしかった。
「だい、じょうぶ。だって、オレ……」
 流れていた涙をもう一度拭い、ナルトは笑った。
「今まで一人でも平気だったんだ。でも、これからは皆がいる」
 ナルトは大きく息を吸い、吐いた。
「だから、大丈夫」
 作った笑みではなく、悲しい笑みではない純粋な笑顔。それを見れただけで、里人への憎しみが消えていく。
 サクラはクナイを収め、カカシとサスケは写輪眼を閉じた。