白い者  道なき道をただただ進む。入り混じる映像に頭をくらくらさせながらも、うしおは力を司る者を探して歩き続けた。
「あ……」
 その中で、あの記者の姿があった。うしおを探し、妖怪だと罵ったあの姿。
 うしおは思わず胸を辺りを強く握った。同じ人間に妖怪だと言われた。ショックを受けなかったわけではない。英雄だと思ってたわけではなかったが、アレほどまで拒絶されるとも思っていなかった。
 北海道へ向かう旅で、うしおは人間というものが、自分が思っていた以上に冷たい存在だということはわかっていた。しかし、優しい人、温かい人が大勢いたことも確かだ。
 良いところばかり記憶する脳内では、全てが美しい思い出へと変貌していたため、うしおは人間という存在の非情な部分を忘れていた。
「蒼月、うしお……!」
 望の姿を見ないようにしていたうしおに、望むが気づいた。
「……え? どうして……?」
 この世界には黒面の片割れと、うしお達しかいないはず。干渉することができるのは、黒面の片割れだけなのだ。
「貴様っ! オレをこんなところへ連れてきて、どうするつもりだ?!」
 だが、望の様子から、彼が黒面の片割れであるとは考えにくい。それならば、何故ここにいるのだろうか。どうして話すことができるのだろうか。戸惑い、言葉を発することができずにいるうしおの背をとらが軽く叩いた。
「しっかりしろ」
「あ、うん」
 とらに言われ、うしおは気持ちを切り替えた。
 考えてもわからないことは、考えてもしかたがない。
「どうして、ここへ?」
 考えてもしかたのないことは聞いてしまえばいい。
「どうしても何もあったもんじゃない! お前がここへ連れてきたのだろ?!」
 望はヒステリックに叫ぶが、うしおには身に覚えのない事実なので、呆然とするばかり。
「オレ、そんなことしてませんけど……」
「嘘をつくな!」
 こんなところで嘘を言ってもしかたがないのではと、うしおは思ったが、これ以上望の神経を逆なでするのもよくないだろうということで、あえて口には出さなかった。
「ふと意識が飛んで、気づいたらここにいたんだ。お前が何かしたとしか考えられない」
 多少落ち着いたのか、望は叫ぶのをやめてうしおを睨んでくる。
「ふ〜ん。気づいてないんだぁ」
 どう説明すれば、今の状況をわけってもらえるのだろうかと、うしおが頭を使っていると、人を小馬鹿にしたような口調の言葉が聞こえてきた。
 今度こそ黒面の片割れかもしれないと思い、うしおは槍を声の方向へ向ける。
「怖いなぁ。まっ、それもいいけどねーん」
 両手を上げながらも、ヘラヘラと笑う赤髪の青年が立っている。槍を握るうしおの手首が淡く光っているところを見ると、黒面の片割れと思ってまず間違いないだろう。
「な、なんだあいつは……」
 望も青年の異常さを肌で感じているのか、自然とうしお達の方へよる。
「ろくな奴じゃねーってのは確かだぜ」
 青年から目を逸らすことなくとらが言う。すると、青年はケラケラと笑い出した。
「ここにいる奴らは、みんな同じ穴の狢さ」
 笑い声を止めた青年は、鋭い目つきでうしおを睨み、次の瞬間には消えた。
 驚き、体を強張らせるうしおのすぐ目の前に青年は現れる。
「お前は半分獣。どっちつかずの半端者」
 そう言ってニヤリと笑い、再び姿を消す。次はとらの前に現れ、口を開く。
「お前は心を奪われた妖怪。諸刃の剣を宿した生き物」
 あざ笑うかのような笑みに、とらが拳を突き出したが、そこに青年の姿はない。
「そしてお前――」
 突然目の前に現れた青年に、望は腰を抜かした。
「人の面を被った妖怪だ」
 そう言い、望の頭を鷲掴みにした。
「ほらほら。とっとと顔を見せろよぉ」
 心底楽しそうな表情を浮かべ、青年は望の頭を持ち上げる。望は呻くしかできず、抵抗をする兆しも見せない。
「兄ちゃんを離せっ!」
 うしおが槍を構え、切りかかろうとした瞬間、辺りに鋭い音が響き渡った。
「我に触れるな」
 音は望が青年の手を払った音だった。低い声は望の口から出てきたものだった。
 目を丸くしているうしおをよそに、とらは納得がいったような表情を見せる。
「出た出た。やっと出た」
 青年は嬉しそうに笑う。
「白い者。白面が出た」


十二話